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「…………」

○○はゆっくりと目を覚ました。どうやらベッドで眠っていた様だ。

「○○……さん?良かった!このまま目を覚まさないかと……」

坊っちゃんが急いで覗き込む。

「泣いてたの?」

○○がそっと坊っちゃんの頬に手を添えた。

「っ!!これは……」

坊っちゃんは慌てて目を擦る。

「あれ……?私も?」

○○は体を起こすと目から涙が溢れた。

「○○さん、途中から泣いてましたよ」

坊っちゃんがベッド際に座って笑った。

「そう、なんだ。あー……頭が痛い……」

○○は辛そうに頭を抱えた。

「大丈夫ですか?」

坊っちゃんが覗き込む。

「うん……。誰かに会えた?」

○○ははたと気付いて声を出す。

「………………ええ。でも、一言も話してはくれませんでした」

坊っちゃんは残念そうな。しかし晴れやかな顔をした。

「そっか。とりあえず良かった」

○○はにこりと笑った。

「あ、後ね。もうこれ以上やったら、私はソールイーターに取り込まれちゃいそう」

○○は申し訳なさそうに言った。

「わかりました。本当にありがとうございました!」

坊っちゃんはゆっくりと頭を下げた。

「こちらこそ!こんな体験滅多に出来ないだろうし。それに……」

「それに?」

○○は少し寂しそうに笑った。

「ううん。何でもない!」

○○がにこりと笑った。

「そうですか」

坊っちゃんは○○につられて笑った。

「僕は、この人達と一緒にこれからの人生を歩むんですね」

坊っちゃんと○○はベッドの上に隣り合って座り、壁に背をつけた。

「そうね。素敵な人達ばかりね」

○○がにこりと笑った。

「会えましたか?」

「色んな人に」

○○は穏やかに声を出す。

「坊っちゃんくんにもこの世で素敵な人がいるじゃない」

○○はゆっくりと坊っちゃんと目を合わす。

「グレミオさんもパーンさんもクレオさんも、カスミちゃんも!」

○○は羨ましそうに言った。

「みんなが凄い人ばかりだから、自分もひょっとしたら、って思ったけど、ソールイーターの中の人達見て思い知らされた!」

○○は苦笑した。

「いえ!○○さんがいてくれたからテッドにも会えたし!父さんにも!!」

坊っちゃんは驚いて声を出す。

「そんな、この能力だって、たまたまネクロードって吸血鬼に花嫁にされそうになって付いただけだし」

「ネクロード?!奴は確か戦士の村で!!」

坊っちゃんは驚いて声を出す。

「うん、生きてたみたい」

○○は困った顔をする。

「敵に貰った能力で特別なふりをしてもね」

○○はため息をついた。

「それでも!それでも……僕は嬉しかった」

坊っちゃんは右手に目線を落とした。

「っ!!」

○○が坊っちゃんに抱き付くと、坊っちゃんは驚いた顔をする。

「ありがとう……」

○○は坊っちゃんの優しさに嬉しそうに笑った。

「こちらこそ」

坊っちゃんが○○を緊張しながら抱き返す。


ーーバン


部屋の扉が急に開き、驚く坊っちゃんと○○。

「……」

「……」

振り返るとフリックとグレミオが固まって立っていた。

「あ……やあ、グレミオ……フリック……」

坊っちゃんは冷や汗をたらし、声を出す。

「ぼぼぼぼぼ、ぼっちゃん!!一体これは何事ですかぁ?!」

グレミオは泣きながら部屋に入って来た。

「いや、別に……ねぇ?」

坊っちゃんは苦笑した。

「ねぇ?あ!グレミオさん」

○○はベッドの上に立ち上がりグレミオよりも身長を高くする。

「なんですか?!」

「テオ様が、グレミオとパーンとクレオに坊っちゃんを頼むと」

○○はにこりと笑った。

「っ!!!は、はい!!!」

グレミオは今度は感動の涙を流しながら頷いた。

「じゃあ、坊っちゃんくん!グレミオさん!お休みなさい!」

○○はまだ固まっているフリックの腕を掴むと足早にその場を後にした。







「はぁ、びっくりした!」

○○は噴水がある広場まで走って来た。

「この街も今見ると不思議と懐かしいなぁ」

○○は寂しそうに笑った。

「○○」

フリックは○○を抱き締めた。

「ど、どうしたの?フリック、いきなり」

○○は急な事に驚いた。

「………………悪い」

フリックは戸惑いながら○○から離れた。

「え?フリック」

○○は離れたフリックを不思議そうに見た。

「何だか……お前まで遠くに行っちまいそうで」

フリックは頭をかいた。

「フリック……」

○○はフリックに近付いた。

「……触っても、良い?」

○○がフリックを見上げる。

「え?あぁ」

○○はフリックに躊躇うように触れる。

「ごめんね、フリック」

○○は困った様に眉毛を下げる。

「何がだ?さっき坊っちゃんと抱き合ってた事についてか?この、浮気者」

フリックはニヤニヤと笑った。

「っう、浮気者って……」

○○は困った様に笑った。

「すぐ近くに俺がいるのに、他の男に抱かれやがって」

フリックはニヤニヤと笑いながら言う。

「……違うって解ってて言ってるでしょ」

○○は呆れた様に笑った。

「当たり前だ」

フリックは○○の頭を撫でる。

「で?オデッサに会ったのか?」

「っ!!」

フリックは穏やかな顔で言った。

「どうだった?お前から見て」

フリックは○○を噴水の縁へと座らせて自分も横に座った。

「……凄い人だった」

○○は何と答えたら良いのか解らずに素直に言った。

「だろ?俺には似合わないだろ」

フリックは穏やかな顔のままだ。

「そんな事ないよ!今のフリックなら、オデッサさんと並んでも全然大丈夫!!」

○○は必死に声を出す。

「……前はダメか」

フリックはクスリと笑った。

「……フリックも若い時が有ったのね」

○○はクスクスと笑った。

「まぁな」

「でも、見た目はお似合いの美男美女だったよ」

○○はにこりと笑った。

「…………そうか」

フリックは頷いた。

「俺は、さ。お前がちゃんと帰ってきてくれて良かったよ」

フリックは静かに声を出した。

「……」

「○○、さっき謝った後に何を言おうとした?」

「……」

「『自分よりオデッサの魂を帰せなくて』か?」

「っ!!」

まさにそう考えていたのだ。
フリックは自分の魂よりオデッサの魂を必要とするのではないか。
自分だけではない。世の中はまだオデッサを必要とする。
そう、考えていたのだ。

「そんな事して、俺が喜ぶと思ったのか?」

フリックは○○を覗き込む。

「……」

○○は何とも言えない表情で黙り込む。

「オデッサは恋人でもあったが、俺が唯一尊敬できる相手でもある。今の俺はあいつの隣にいても恥じない男でありたいと思う」

フリックはしっかりとした口調で言った。

「○○、お前は俺に必要な女だ。お前がいないのなら、俺はまたダメな男に逆戻りだ」

フリックは苦笑した。

「お前と出会うまではオデッサに並べる男になりたかった。お前に出会ってからはお前の前ではオデッサに並べるくらいの男でありたいと思うんだ」

フリックはそう穏やかに笑った。

「…………同じじゃないの?」

○○は照れを隠すために聞いた。

「同じに聞こえるか?なら、まだお前は俺の事を分かってないな」

フリックは静かに笑った。

「え……ご、ごめんね?」

○○はおろおろと声を出す。

「……許して欲しけりゃ、キスのひとつでもしてみろ」

フリックは意地の悪い笑顔を作る。

「えっ?!ここで?」

○○は夜中と言えども街の真ん中であるこの場所でしかも、自分からと言う事に恥ずかしさを感じた。

「良いだろ。お前はさっき俺以外の男に……」

「わ、分かったわよ!」

○○は顔を真っ赤にしながらフリックに近付き、触れるだけの口付けをする。

「これで良い?」

「足りない」

「え……」

フリックの声に戸惑う○○。

「足りるわけないよな?それとも○○の俺を思う気持ちはそんなもんか?」

フリックは不満気に呟いた。

「……うぅ……」

○○は困った顔をするが、意を決してフリックに近付き、口付けをする。

「ん……」

今度はそこで終わらずに、舌を自分から入れ、絡ませる。

「ん……ふっ」

○○はゆっくりとフリックから離れる。

「こ、これで良い?」

○○は真っ赤な顔を恥ずかしそうに伏せた。

「………………足りねー」

フリックも顔を赤くして○○の首筋に顔を埋める。

「ちょっ!フリック!!」

○○はフリックに困惑しながら声を出す。

「お前っ……そこまでされて、男が黙ってられると思うか?」

フリックはぼそりと低い声を出す。

「っ!!無理だよ!ここ、街の中だし、宿屋にはビクトールもカスミちゃんもいるからね!」

○○は焦ってフリックから離れようとする。

「…………くそっ。……仕方ないか」

フリックは深く呼吸をすると、立ち上がった。

「なら、帰って寝るか」

フリックは決まり悪くそう手を出す。

「うん!」

○○はフリックのその手を掴んだ。

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