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「すみません、お客様に手伝っていただいて」
グレミオはシチューの鍋をかき混ぜながら○○を見た。
「いいえ!コックが本業なので!」
○○は包丁を片手に笑った。
「何か、せっかくの家族団らんにお邪魔してしまって。こちらの方がご迷惑では……」
○○は気合いを入れて、盛り付けまで完璧に仕上げていく。
「いえ!そんな……。ビクトールさんもフリックさんも生きていて安心しましたし。ぼっちゃんも○○さんと話したそうにしていましたから」
グレミオは○○を見て笑った。
「…………私に出来る事があれば良いのですが」
○○は困った様に笑った。
「しかし、初めての台所で手際が良いですね!さすがコックさん!」
グレミオは感心した様に笑った。
「…………じ、実は……分かっちゃうんですよね。その、テッドさんの目を通して見たと言うか……」
ハハハと○○は困った様に笑った。
「……そう、でしたか」
グレミオは寂しそうに笑った。
「あ、それより、料理運びましょうか?」
○○は慌てて話題を反らす。
「……そうしましょうか」
グレミオはにこりと笑った。
「では、久し振りの再会に、乾杯」
「「「乾杯!」」」
坊っちゃんの音頭で乾杯をして、食事会がスタートした。
「お!旨そうだな!」
パーンが嬉しそうに彩り豊かな食卓を眺めた。
「ええ!何たって今夜はコックさんがいますからね」
グレミオはにこにこと笑った。
「あの、お口に合えば良いのですが」
「そ、そうだな。いただくよ」
パーンは先程テッドが乗り移った○○に強く当たってしまった手前、おどおどと居心地悪そうにする。
それに○○も何となくよそよそしく答えていた。
「まったく。○○さん、根は悪い奴じゃないから、許してやってね」
見かねたクレオがにこりとワインを掲げた。
「は、はい!」
○○はにこりと笑った。
「坊っちゃんさま、お取りしますよ?」
カスミがにこりと頬を染めながら聞いた。
「そう?じゃあ頼むよ」
坊っちゃんもにこりと笑って、皿を渡す。
「このシチュー美味しい!!」
U主は嬉しそうにシチューをぱくぱくと食べる。
「グレミオのシチューとか懐かしいな!」
ビクトールも楽しそうに笑った。
「そうですか?それは良かった。いっぱいありますから、ドンドン食べてくださいね」
グレミオは嬉しそうに笑った。
「本当!グレミオさんのシチュー久し振り!って、ごめんなさい。私、今日初めて会ったのに……。抜けきってないのかな?」
○○は戸惑いながら口を開く。
「大丈夫なのか?」
フリックが心配そうに○○を見る。
「あ、うん。大丈夫」
○○は苦笑を浮かべながらフリックに言った。
「……それなら良いが……」
フリックは疑いながらもワインを飲んだ。
「…………あの、○○さん」
坊っちゃんは声を出す。
「はい?なんでしょう」
○○はスプーンを置くと、坊っちゃんを見る。
「その、テッドと何か話しましたか?」
坊っちゃんは強い意思で○○を見た。
「あ……と、はい」
○○は頷いた。
「どんな事を?」
「まず、魂が内側と外側で入れ替わった事は300年生きていた中でも初めてだと言ってました」
○○も坊っちゃんを見つめ返す。
「何だか、私が真の紋章に影響を受けやすいのかもしれないと。そして、テッドさんの魂と私の魂とが、丁度釣り合いが取れたみたいです。なので、私がソールイーターに取り込まれても、体が生きていたので帰って来られたみたい」
○○は一気に喋った。
「…………じゃ、じゃあ、○○さんもソールイーターに……?」
坊っちゃんは不安そうに揺れた。
「まぁ、前例が無かった訳では無いようですし」
○○はくすりと笑ってグレミオを見た。
「確かにな、グレミオの場合は体も無かったしな」
ビクトールが頷いた。
「そ、そうですね」
グレミオは苦笑した。その場でくレオもクスクスと笑った。
「………………それで」
「はい?」
坊っちゃんは言いにくそうに口を開いた。
「……もう一度話す事は出来ますか?」
坊っちゃんはぽつりと呟いた。
「……」
「……」
「……ぼっちゃん」
パーン、クレオ、グレミオは坊っちゃんを見つめる。
「……私は霊媒師ではないので、なんとも……」
○○は困った様な顔をする。
「そう……ですか」
坊っちゃんは左手で右手を触った。
「………………確証はないけど」
○○はぽつりと呟いた。
「もしかして、その紋章を直接見たら……」
○○は坊っちゃんをじっと見つめた。
「待ってくれ!ぼっちゃんは、……テッドくんは、その紋章を見られるのが嫌だった!」
坊っちゃんを第一に考えるパーンは眉間にシワを寄せた。
「…………でも、それが一番……」
○○は困った顔をする。
「…………僕は」
坊っちゃんはぽつりと呟いた。
「僕は、貴女の魂を取りたくはない。誰の魂も……」
坊っちゃんは悔しそうに呟いた。
「ぼっちゃん……」
「坊っちゃんさま……」
グレミオとカスミが声を出す。
「……私は一度、ソールイーターに入ってるので、大丈夫だとは思いますよ」
○○は明るい声を出す。
「○○!」
今まで黙っていたフリックが怒るように声を出す。
「大丈夫よ!フリック!もし、ソールイーターが私の魂を取る気なら、テッドさんと入れ替わった時にここへは戻って来られないもの」
○○はにこりと笑った。
「……」
「それに、何だか偶然とも思えなくて。もし、私に出来る事があるなら、協力したいもの!」
○○はフリックを楽しそうに見た。
「…………お前は一度言い始めたら聞かないのは知ってるよ」
フリックはため息をついた。
「ね?フリックからもお許しが出だし。やってダメな場合の方が多いと思うよ?」
○○はにこりと笑った。
「どうする?たまには我が儘も言わなきゃダメよ?」
「………………お、お願いします」
○○の笑顔に吊られ、坊っちゃんは頷いた。
「よし、じゃあ、どうする?紋章見られたくないなら、どこか別の部屋が良いのかな?」
○○は首をかしげる。
「あ、じゃあ僕の部屋に行きましょうか」
坊っちゃんは二階を指差した。
「分かった。じゃあ、ご飯食べたらね」
○○はにこりと笑った。
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