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「って!あなたは坊っちゃんさま!!」
国境の警備に当たっているバルカスが坊っちゃんを見て声をあげた。
「バルカス!!リュウカン先生を!急いで!!」
坊っちゃんは焦りながら声を出す。
「!!わかりました。とにかくグレッグミンスターまでお連れします」
バルカスが門を開ける。
「ん……」
「目、覚めたか?」
○○の声にフリックが反応する。
「う、ん。あれ?ここは?虫は?!コウくんは?!」
ガバッと起き上がると○○が矢継ぎ早に問いただす。
「ここはグレッグミンスターだ。今、U主と坊っちゃんとグレミオが城に行ってる。リュウカンはホウアンの師匠だからな間違いはない」
フリックが○○を落ち着かせる様に話す。
「そ、そっか。良かった!」
○○はホッとした。
「あ、○○さん!起きられましたか!」
カスミが嬉しそうに部屋へ入って来た。
どうやら、宿屋のようだ。
「そ、そうだ。なんで私寝てたのかな?」
○○は不思議そうに首をかしげる。
「虫がよほど怖かったのですか?でも、○○さんのお陰で助かりました!」
カスミはにこりと笑った。
「え?」
「お、○○。起きたか!大活躍だったな!」
ビクトールも入って来た。
「だ、大活躍?誰が?」
○○が不思議そうにビクトールを見る。
「誰って、○○さんですよ!戦力にならないとか言って凄い弓の腕前!!」
カスミは感動した様に声を出す。
「弓?私が?」
○○は理解できないとフリックとビクトールを見る。
「ああ。絶妙のタイミングだったぜ?」
フリックも不思議そうに言う。
「え?だ、だって、私弓なんて引けないよ?!ビクトール知ってるでしょ?!」
○○は焦った声を出す。
「だよなぁ。傭兵の砦の時の狩りん時は引けなかったもんな」
ビクトールは不思議そうに首をかしげる。
「それに、お前あの時「俺」って言ってたぞ」
フリックも不思議そうに言う。
「え?え?なにそれ!こ、怖っ!」
○○は戸惑いながら自分を抱き締めた。
「あ、でも……。何か声がして」
「声?」
「うん。「代わってくれ」みたいな」
○○は思い出す様に声を出す。
「そしたら、真っ暗な所にいたの。なんか、いっぱい人がいた。遠くの方は見えなかったけど。近くの人は大きな将軍みたいな人と、綺麗な赤毛の女の人と……」
「赤毛……」
○○の言葉にフリックがぽつりと繰り返す。
「そんな夢を見てたの」
「夢……不思議な夢ですね」
カスミも不思議そうに声を出した。
「まぁ、何はともあれ○○がいて助かったよ」
ビクトールは○○の頭をぽんぽんと叩いた。
「お、坊っちゃん達が出てきたな。外が騒がしくなった」
フリックが窓の外を見た。
「行ってみよう!」
○○がベッドを降りて、部屋を後にした。
「○○さん!大丈夫ですか?」
U主が一番に近付いて来た。
「うん!ありがとう」
○○はにこりと笑った。
「さて、ぼっちゃん。我が家に帰りましょうか」
グレミオが坊っちゃんに笑う。
「……でも」
「何遠慮してるんですか!」
パーンが笑いながら坊っちゃんの背中を叩く。
「けほっ」
「やり過ぎよ」
クレオが呆れ気味にパーンに言う。
「っ!!」
「○○、お前まだ調子が……」
急に頭を抱える○○にフリックが心配そうに言う。
「大丈夫。それより坊っちゃん!あ、くん。少し街を歩こうぜ!じゃない、歩きましょう?」
○○が坊っちゃんの手を取る。
「え?う、うん」
坊っちゃんは戸惑いながらも頷いた。
「こっちこっち!!」
○○は楽しそうに坊っちゃんの手を引いた。
○○は迷いなく足を運び、坊っちゃんは大人しくそれに従う。
他の者も皆ぞろぞろと着いてくる。
「おっと、ここだ」
○○は一軒の小さな家の前で止まる。
「……こ、ここは……」
坊っちゃんは戸惑った表情を浮かべる。
「なぁ、坊っちゃん。俺、ここに入りたいんだ」
○○はにこりと笑った。
「……」
「……」
「……」
「……」
グレミオ、パーン、クレオが驚きの顔で固まる。
「き、貴様!何者だ?!」
「うわっ!」
「パーン!!」
パーンが怒りの表情で○○の襟を掴む。
「止めろ」
それに鋭い視線で助けに入ったのはフリックだ。
「はぁ、ビックリした。パーンさん!落ち着いて!」
フリックの後ろに隠れた○○は慌てながらそう言った。
「……なんでここに入りたいんだい?」
クレオも厳しい顔付きで○○を見る。
「ここに大事な用があるんだ!な?」
ーーパン
「一生のお願いだ!頼むよ坊っちゃん!!」
○○は胸の前で両手を合わせて坊っちゃんに頭を下げた。
「貴様!!まあ、ぬけぬけと!!」
パーンが怒りながら○○を掴もうとする。
「止めろ!パーン!!」
今度は坊っちゃんが止めた。
フリックは剣の柄を握っていたからだ。
「……解った。グレミオ。悪いけどこの家の……テッドの家の鍵を持ってきてくれ」
坊っちゃんはグレミオを振り返る。
「ぼっちゃん!」
「……」
「……わかりました。お待ちください」
パーンは非難気に声をだし、クレオは無言で、グレミオは頷いた。
「助かった!悪いな、坊っちゃん」
「良いんだよ」
○○の声に坊っちゃんは懐かしそうに笑った。
「じゃあ、開けますよ」
カチャリと音を立てて鍵が開かれる。
「どこに用があるんだい?」
坊っちゃんが○○を見る。
「寝室。タンスの裏だ」
○○は迷いなく寝室の扉を開ける。
「懐かしいな。凄い埃だけど」
○○は苦笑しながら部屋へ入った。
「君は、これを見られたくないからこの家に住んでいたんだね、テッド」
坊っちゃんは右手を見せながら○○をじっと見た。
「……まぁな。本当は俺もあの家でお前と一緒に暮らしたかったよ」
○○ーーテッドは穏やかに笑った。
「…………タンスの裏?」
「おう」
坊っちゃんとテッドは一緒にタンスを動かした。
「これは……?」
坊っちゃんはタンスの裏に手紙を見付けた。
「お前宛に書いたんだよ。いつ、俺はここを去るか考えてたから」
「……」
「まぁ、でも、結局居心地良くて長居し過ぎたかな?」
テッドは照れ臭そうに笑った。
「……テッド」
「ん?」
「君は……」
「俺の魂はいつもお前と……ソールイーターと共にある」
テッドが坊っちゃんを真正面から見つめた。
「お前は決して一人じゃない。これまでも、これからも」
「テッド……」
坊っちゃんは泣きそうな顔でテッドを見た。
「仕方のない奴だな」
テッドは笑って坊っちゃんを抱き締めた。
「俺はソールイーターを受け継いだ事を後悔した日もいっぱいあった。でも、こいつがなかったら、俺はお前と会えなかったんだ」
テッドはにこりと笑った。
「坊っちゃん、お前もそう思える日がくるよ」
「………………そうだね」
坊っちゃんは小さく呟いた。
「そんな顔するな!それに、ほら!俺は今、女の人だぞ!こんな機会ないからな!」
テッドは胸を押し付けながらニヤニヤと笑った。
「…………テッド……」
坊っちゃんは呆れ気味にテッドを見た。
「さて、そろそろこの体返してやらないとな」
テッドはそう言うと坊っちゃんをやんわり引き離す。
「……………………」
坊っちゃんはテッドをじっと見た。
「じゃあな」
テッドはそれだけ言うと目を閉じた。
坊っちゃんは崩れ落ちる○○の体をしっかりと支えた。
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