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「誰も外には出ていないな?」
フリックは門番に念を押す。
「はい!例えフリック隊長でも通しませんよ!」
門番はにこりと自信満々に答えた。
「そうか、今日も見張り頑張ってくれな」
フリックはそう言うと、門から離れた。
「……フリック?」
○○は戻ってきたフリックを不思議そうに見上げる。
「……こっちだ」
フリックは静かな声で言うと、○○の腕を掴んで歩き出す。
人気の無いアシタノ城はすっかり真夜中。皆は寝静まっている時間だ。
フリックはとある窓の前で止まり、チラリと外を見る。
「ここか」
フリックはそう言うと○○に向き直る。
「これから何があっても良いと言うまで声を出すなよ?」
フリックは真剣な顔をする。
○○が黙って頷いたのを見て、フリックは○○を担ぎ上げる。
「っ!」
突然の行動に○○は口を手で押さえた。
フリックはそれを確認すると、窓を静かに開け、外に飛び出した。
「っ!!!」
音もなく着地すると、城の外の木の陰に隠れる。
「……」
誰も反応しないのを確かめ、フリックはそのまま、城壁へと近付く。
手探りで探すと、大きな木の陰に良く見なくては分からない穴が空いていた。
フリックは○○を抱えたまま器用に穴を潜り抜け、城壁の外へ出た。
アシタノ城から少し離れた湖畔で、ようやく○○を下ろす。
「よし、もう良いぞ」
フリックは声を出した。
「い、いきなり跳ぶからびっくりした」
○○はまだバクバクと激しくなる心臓を押さえる。
「たまには良いだろ?スリルがあって」
フリックは小さく笑うと城とは逆側に歩き出した。
青く揺れるバンダナとマントを見ながら、○○は並ばずに背中を追った。
空には大きな満月が輝き、優しく照らす。
○○は薄手のワンピースが少し寒いと両手で自分を抱いた。
「……寒いか?」
フリックはチラリと○○を見る。
「ううん、平気」
○○は呟く様に答えた。
「……そうか」
フリックは小さく声を出す。
「フリック、どうかした?」
○○はフリックの背中に問いかける。
「…………こんな夜は色々思い出して……な」
フリックは満月を見上げた。
「オデッサさんの、事?」
「あぁ」
○○の言葉にフリックは頷いた。
「……そっか」
○○は困った様に笑い、近くの大きな岩に腰を下ろした。
「フリックが今でもオデッサさんの事が好きなのも知ってるし、それでも良いって思ってる。それだけ素敵な人だったんだもんね」
○○は月の光で輝く水面を見つめた。
「……」
「フリックは何か悩んでるの?」
無言のフリックに○○が問いかける。
「……いや。ただ……」
「ん?」
「お前が……嫌になるんじゃないか……と」
フリックは消え入りそうな声で言った。
「……正直、分からないな」
○○はぽつりと呟く。
「フリックがオデッサさんを思うのは嫌では、ないよ。だってオデッサさんがいなかったら、今のフリックはいない訳だし」
○○は、くすりと笑った。
「でも、実際にもしも会う事があったら、打ちのめされてフリックとは付き合えないかもね」
○○は楽しそうに笑った。
「オデッサさんがもし……生きてたらフリックは私の事なんてきっと見なかっただろうね」
○○はフリックに笑いかける。
フリックの背中がぴくりと反応した。
「そう考えると確かに嫌、かな。フリックの目にすら映らないのって辛いな」
○○は苦笑した。
「○○……」
「でも、きっと私はフリックが好きになる、かな?分からないけど」
○○はにっこりと笑った。
「どうする?フリック。もしかしたらニナちゃんと2人に追いかけられてたかもよ」
○○はクスクスと笑った。
「フリックはどうか分からないけど…………。私は今が良いな」
○○はにっこりと笑った。
「……私はオデッサさんに感謝してるよ」
○○は立ち上がる。
「…………えへ、私って嫌な奴だね。でも、私はこう言う人間」
○○は満月を見上げた。
「フリックに好きになってもらえて嬉しいの。でも……」
○○はフリックの方を向く。
「私はやっぱり綺麗な心だけじゃない。そう言う黒い所もあるの。だから」
○○はにっこりと笑った。
「たから、フリックが私の事嫌いになったら、フリックの事はちゃんと諦めるよ」
○○は手を胸の前で合わせる。寒いのか、震えていた。
「私はオデッサさんとは比べられないくらい人間が出来てないから」
○○はくるりと城の方を向く。
「私、行くね」
○○は自分で喋りながら暗い気持ちになる。
やはり、自分ではフリックには並べない。
そう思っているのだ。
「待て」
フリックの手が○○の腕を掴む。
「お前はそれで良いのか?」
フリックは真剣な顔をする。
「……」
○○はフリックの方を向けずにいた。
「俺は……お前を簡単には諦められない」
フリックはきっぱりと言い放つ。
「でも!」
「お前の話はおかしい。もうオデッサはこの世にいないんだよ」
「っ!!!」
○○は自分がフリックに言わせてしまった事に驚き、悔やんだ。
「どこを探してもいない事はわかってるんだ」
「ごめっ……なさい」
○○は泣き始める。
「俺はオデッサに似合う男になる。その気持ちもオデッサに対する気持ちも変わらない。だが、○○、お前に対する気持ちも……変わらないんだ」
フリックの青い瞳がしっかりと○○を見つめる。
「フリック……」
「ありがとな、○○」
「え?」
フリックの言葉にきょとんとする。
「こんな俺を好きになってくれて」
フリックは照れながらもしっかりと言葉にする。
「う、ううん!私も!ありがとう」
○○の目からは涙が溢れる。
フリックはじっと○○を見つめる。
「ねぇ、フリック。私、フリックの事好きでいて良いの?」
「当たり前だろ」
「私、一途だから重たいよ?」
「望むところだぜ。それに、愛に一途ってなら、俺も負ける気はしないな」
フリックはニヤリと笑った。
「ふふ、そうだね」
○○の指先がフリックの腹に触れる。
珍しくフリックから触れて来ないので自分からフリックに触る○○。
指がゆっくりとフリックの体を滑る。
「………………か、帰ろっか」
急に恥ずかしくなり、○○は顔を真っ赤にさせて言った。
「そうは行くか」
フリックのニヤリとした顔と声に○○は慌てて距離を置こうとしたが、失敗に終わる。
フリックは○○を抱き締める。
「ちょっとフリック?」
○○は不安そうにフリックを見上げる。
「俺も○○が好きだ。もう離さなくて良いよな?」
フリックは○○に口付ける。
始めは触れるだけ。
徐々に深く、貪るように。
角度を変えながら。
「ん……はっ、んん」
○○を逃がさぬように腕でしっかりと抱き締め、深い口付けを繰り返す。
○○の力が完全に抜け、ゆっくりとその場に腰を下ろし、フリックは自分の上に○○を座らせるようにした。
「んっは……」
よくやく唇を離し、フリックは○○を見つめる。
「……も、帰ろうよ……」
顔を真っ赤にして○○は声を出す。
「なんでだよ?外には誰も出てないんだ。問題ないだろ」
フリックはニヤリと笑う。
「っ!!ま、まさか門番の人に聞いてたのって……。初めから……」
「このつもり」
「っ!!!」
フリックの言葉に○○は衝撃を受ける。
「む、無理だよ!嫌だよ!!」
○○は首を横に振りながら言う。
「なんでだよ?問題ないだろ?」
「お、大有りだよ!!」
○○は逃げようとするが、体に力は入らず、フリックの腕にしっかり抱き抱えられているので逃げられない。
「大丈夫だって。寒いんだろ?温めてやるぜ」
「っ!!」
○○がフリックに抱えられアシタノ城に帰るのはもう少し先のようだ。
「……フリックなんて知らない……」
「っ!!」
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