07
「ん……」
○○が目を覚ますと目線の先にはビクトールが寝ていた。
(……あ、そうだ。今でもミューズに来てるんだ)
覚醒した頭で答えをだし、○○は着替えを持ってバスルームへ入った。
着替えと洗顔を済ませ、軽く化粧をする。
(よし!目も大丈夫!)
昨夜のビクトールの話はとても辛い現実なもので、なかなかドキドキとして眠れなかった。
○○は気分を明るくする為に朝の散歩をする事にしたのだ。
「ん?どこ行くんだ?」
「っ!ごめん、起こしちゃった?ちょっと朝の散歩に行ってくるね」
ビクトールのかすれた寝起きの声にドキドキしながら○○は答えた。
「そうか。朝飯までには帰って来いよ」
「はーい、行ってきます」
○○は静かにドアを閉めた。
朝になり、夜とは違い明るい町並みは綺麗だった。
「素敵な所」
○○は感動しながら町を歩く。
「ん?あれ?」
○○は見慣れた人物を見た気がした。
「え?まさか!フリック!」
○○が街の入り口辺りから来る青い男に声を掛けた。
「○○!」
フリックは軽い早足で近付いて来た。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか!!あの熊野郎はどこだ?!」
明らかに怒ったフリックがいた。
遡る事昨晩、傭兵の砦。
「ふー、○○が居なくても飯にありつけて良かった!」
「カレー旨かった!」
傭兵達が食事を終え、各々風呂やゲームなどリラックスタイムを満喫していた。
「あの、フリック隊長……」
「どうした?」
会議室を掃除していた傭兵がフリックのもとへやって来た。
「これって……」
「なんだ……」
何かの書類を受け取り目を通す。
「……あーんの、熊野郎!あいつは何をしにミューズへ行った!!」
「どうしたんですか?」
傭兵達がただならぬフリックの叫び声で集まって来た。
「あいつ、行ってたよな?!'これは大事な書類だから、隊長の俺が直々に渡しに行く'って!!」
フリックは怒りに任せて大声を出した。
「ビクトール隊長……書類を忘れたんですか?」
「持って行ったさ!'一番大事な部分'を置いてな!!」
「あー……」
「あれか、ビクトール隊長は○○とデートしたかったのか?」
「うわー……それに浮かれて忘れたのか……」
「あの熊野郎!!」
「で、俺が夜明け前から馬を飛ばして来たんだ!」
フリックはイライラと○○に説明した。
「お、お疲れ様です」
○○は何だかフリックが不敏に見えた。
「まぁ、良い。どうせあいつ寝てんだろう?」
「うん」
「お前は?」
「私?私は朝の散歩をしてるの」
「そうか。なら時間もあるから付き合うぜ」
フリックは怒りが治まったのか、笑顔で言った。
「本当?!嬉しい!」
「確かこの時間ならあっちで朝市をやってるはずだ」
「朝市?行きたい!」
「よし、こっちだ」
○○とフリックは朝市に向かった。
「わぁ!賑やか!」
色んな店が並び、客も入り乱れている大きな市場だ。
「そうだな。この辺では一番デカイな」
「っと」
「何やってんだ!ったく、ほら!」
キョロキョロと店を見ていたせいで人に当たった○○をフリックは自分の後ろに回した。
「俺の後ろに付いてこい!道を作ってやるから。なんならマントでも掴んでろ」
「ありがとう!」
○○は素直にフリックの青いマントを掴んだ。
市場には色々な店が並んでいた。
野菜や果物はもちろん、服や帽子、武器屋に防具屋。
そして
「あっ!待ってフリック!」
○○はフリックのマントを引っ張った。
「どうした?あぁ、あの店か」
「見て良い?」
「あぁ」
○○が見つけたのはアクセサリーがたくさん並んだ店だ。
「いらっしゃい!ゆっくり見てってね!」
店主が声を掛けた。
「綺麗」
○○は目をキラキラと輝かせながら商品を見た。
彩り豊かな石がついた指輪。
何かの形をモチーフにしたネックレス。
花柄の色とりどりのシュシュやカチューシャ。
女性が好きそうな可愛い物が沢山の店だ。
「おっ!カッコイイお兄さん!彼女にプレゼントしたらポイント高いよ!」
店主はニヤニヤと○○とフリックを見た。
「これにしようかな……でも、こっちも捨てがたい……」
○○はシュシュを手に取り真剣に悩んでいた。
店主の言葉は耳に入ってないようだ。
「うん!こっちにしよう!」
○○が決めた方のシュシュが手から消える。
「おやじ、これいくらだ?」
「50ポッチだよ!」
そのシュシュはフリックが持っていた。
「高いな、30ポッチ!」
「うーん、こっちのネックレス一緒に買ってくれるなら80ポッチで良いよ!今流行ってるし、彼女に似合うと思うよ!それに石は本物だよ!」
「70!」
「……負けたよ。70ポッチで良いよ!」
「サンキュー」
フリックはにこやかに笑うと店主に70ポッチ渡した。
「ほら、○○」
フリック今買った物が入った袋を○○に渡すとさっさと歩き出す。
「え?あ?お金!」
「俺が買ってやったんだ。文句あるのか?」
ニヤリと笑うフリックに、不覚にも顔を赤くする○○。
「あ、ありがとう!」
○○は嬉しそうに袋を握った。
2人は市場から少し離れたベンチに腰を掛けた。
「ねぇ、フリックはビクトールが、そのネクロードって言うバンパイアを追ってたの知ってた?」
○○は言い難そうに話始めた。
「あぁ。あいつがネクロードを倒したのが俺の故郷の戦士の村だ」
フリックは静かに頷いた。
「え?」
「まぁ、幸い俺達がいる時に奴が表れたから大事には至らなかったんだ」
「そ、そうだったんだ」
○○はホッとしたような複雑な顔をした。
「あいつ、そんな事も話したんだな」
フリックはぽんぽんと○○の頭を叩いた。
「気にする事ないさ。あいつの神経の図太さは並大抵の事じゃぶれないからな」
フリックににこやかに笑う。
「そうね……。あ!さっきの開けて良い?」
「あぁ」
○○は気分を変え、フリックに買って貰った袋を開けた。
「可愛い」
そこには花柄のシュシュと猫をモチーフにしたネックレスが入っていた。
「ちょっと子供っぽかったか?」
フリックは改めてネックレスを見て口を開いた。
「ううん!凄く可愛い!フリックからのプレゼント嬉しい!」
○○は嬉しそうにネックレスをつけた。
「どうかな?」
「……お前……可愛いな」
「ん?何か言った?」
「……いや、似合ってるぜ」
「ありがとう!」
フリックはその場ですぐに自分のプレゼントした物を身に付けて喜ぶ○○を見て、ポロリと口からこぼれた。
「それにしてもフリックの値切り術は凄かったね!」
「あ?あれか?あの市場じゃ当然なんだぜ」
「そうなの?」
「○○なんか定価で買って、良いカモになりそうだよな」
「……そ、そうかも……」
「あはは!」
○○の困った顔にフリックは笑う。
「まったく、お前は目が離せないな」
フリックは柔らかく笑う。
その顔に○○は顔に熱が集まるのを感じる。
「さて、そろそろ行くか。あの熊起きてるか?叩き起こすか」
フリックが立ち上がるのにならい、○○も立ち上がる。
「うん!あ、鍵!」
「……」
○○が差し出す鍵を仰視するフリック。
「○○の部屋?」
「うん、同じ部屋だから」
「……」
フリックは無言のまま○○から鍵を受け取り、宿屋へ向かう。
「こっっのぉぉ!!起きやがれ!!このエロ熊!!!」
「うわぁ!!何で?フリック?!」
フリックがビクトールの眠る部屋のドアを蹴破った。
「貴様ぁぁぁ!!俺達が真面目に働いている時に何してやがる!!」
フリックは凄い形相でビクトールを睨み付ける。
「は?!」
ビクトールは状況が掴めずおたおたとする。
「まず!貴様は何しにここへ来たんだ?!」
「はっはい!ミューズ市長アナベル殿に書類を届けに!」
「なら、これはなんだ?!」
「………………あ」
「あ、じゃねぇ!!」
「悪かった!確認しなかった俺が悪い!!だから剣をしまえ!剣を!」
「うるせぇ!!なんで○○と同室なんだよ?!」
「……男の嫉妬は醜いぞ、フリック」
「……死ね」
フリックが本気の表情で剣を降り下ろす。
ーーガキッン
ビクトールがギリギリの所でフリックの剣を剣で受け止めた。
「あっぶねぇ!!」
「え?ちょっ!フリック!!」
○○がやっと追い付いて部屋にやって来た。
「なんでこうなってるの?!」
○○がフリックの体に後ろから抱き付いて止めた。
「おい、○○!離せ!」
「と、とりあえず落ち着いてくれたら!」
「っ!」
わき腹近くに張り付いた○○にしたがい、深呼吸をするフリック。
「わ、悪いな○○」
ビクトールは青い顔をした。
「お、落ち着いた?フリック」
「はぁ……分かったよ」
○○の焦った声にため息をもらし、剣を鞘に納めた。
「団体客が入ってたんだよ」
「あ?」
「そ、そうなの!だから1部屋しか空いてなくて。私が勝手に決めちゃったの」
○○が必死に抱き付いたまま説明した。
「そうか。○○に免じて許してやるよ」
フリックは仕方がないとビクトールに言った。
「まぁ、良いや。そろそろ腹が減ったな」
「あ!私も!」
「よし、朝飯でも食いにいくぞ」
3人は宿屋のレストランへ向かった。
「2人分しかないんだ。お前は自分で払えよな、ビクトール」
「げっ」
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