73
同盟軍がアシタノ城に本拠地を置くようになってから、すでに幾ばくかの時が経っていた。
皆はすっかり、ここが廃墟だった事を忘れるくらいの発展をしていた。
同盟軍リーダーU主は仲間を引き連れて酒場へとやって来た。
「レオナさーん!○○さーん!こんにちは!!」
U主はにこにこと元気に挨拶をした。
「おや、お揃いで」
レオナはキセルをふかした。
「こんにちはU主くん!」
それににっこりと返すのは○○の日課になっている。
「うっわ!お姉さん綺麗だね」
金髪を短く切り揃えた整った顔立ちの若者が○○の手を握った。
「へ?」
そんな事を言われ慣れていない○○は困った様に笑った。
「俺、シーナ!宜しく!」
若者ーーシーナはウインクをしながら軽く自己紹介をする。
「えっと、私は」
「お前に教える名前なんてないとよ」
○○が声を出そうとしたが、○○からシーナを引き離しながらフリックは冷たく言い放つ。
「なんだよーフリックさん!邪魔しないでくれよー」
シーナは不満そうに口を尖らせた。
「うるさい、寄るな」
フリックは辛辣に言う。
「ねぇ!お姉さん!俺とお付き合いしない?」
シーナは軽い動きでひょいとフリックを潜り抜けると○○の手をもう一度取る。
「あー。私、年下には興味ないの」
○○はにっこりと「ごめんね」と笑った。
「えー……。そんな事言わずにさぁー」
シーナは一瞬つまらなそうな顔をしたが、すぐに立ち直る。
「馬鹿なの?嫌がってるでしょ?」
ルックまでもが冷たくシーナに言った。
「お前、顔は可愛いのに相変わらず言い方きっついのな!」
シーナは不満気にルックを振り返る。
「クスクス、面白い人だね。U主くん、これからどこか行くの?」
○○はU主とナナミを見た。
「はい!トラン共和国へ同盟を結びに行ってきます!」
U主はにこにこと答える。
「トラン共和国!」
○○は驚きながらフリックとビクトールを見上げた。
「ああ、解放戦争があった所だ」
フリックは頷いた。
「へぇ!」
○○は驚きの声をあげた。
「でね!今回は解放軍メンバーを集めたんだよ」
U主は楽しそうに声を出した。
「本当はハンフリーさんを連れて行きたいんだけどね」
U主はちょっと困った様に笑った。
「?」
「ハンフリーは解放軍の初期メンバーだからな」
ビクトールが説明する。
「え?そうだったんだ」
「うん!でも、ちょっとブライトが風邪ひいちゃって、フッチくんが不安そうだったから」
ナナミは眉尻を下げた。
「そっか、それは心配だね」
○○はナナミを見る。
「で、ルックを連れて行くんだ」
U主はにこにこと笑った。
「……面倒だけどね」
ルックはプイッとそっぽを向く。
「まあまあ、良いじゃない、ルック」
○○はにっこりとルックに向いた。
「でも、良いなぁ、トラン共和国!で?どこに行くの?」
「大統領に会いに行くから首都のグレッグミンスター!」
U主が力強く答える。
「俺の親父だぜ」
シーナは親指で自分を指す。
「え?シーナくんのお父さんが大統領?」
○○驚いてシーナを見る。
「血が繋がってる様には見えないね」
ルックは冷たく言い放つ。
「酷っ!」
シーナはルックを見る。
「あれだ、親の七光りって奴だ」
フリックもしれっと言う。
「フリックさん?」
シーナは寂しそうにフリックを見る。
「親は二人とも人格者なんだがな。受け継いだのは紋章と剣技だけだな」
ビクトールはニヤニヤと言う。
「……」
とうとうシーナは押し黙った。
「あ、あはは」
U主は困った様に笑った。
「で、でも、グレッグミンスターって凄い都会なんでしょ?一度は行ってみたいな」
○○はあまりにもシーナが可哀想になり声を出す。
「じゃあ、○○さんも」
「ダメだ!」
「ダメだよ」
U主の言葉にフリックとルックが同時に声を出す。
「……ルックまで……」
○○がしゅんとルックとフリックを見る。
「まあまあ、良いんじゃねー?」
シーナが軽く言うとフリックとルックに睨まれる。
「………………怖ぇ」
さすがのシーナも押し黙る。
「はぁ……このメンバーなら平気な気もするがな」
ビクトールはやれやれと声を出す。
「俺達は遊びに行く訳じゃないんだぜ?」
フリックがビクトールを睨む。
「そうだよ。足手まといになりたいの?」
ルックは○○を見た。
「……そうね。今回は我慢する」
○○は寂しそうに笑った。
「「○○さん……」」
U主とナナミが○○を寂しそうに見た。
「どうせU主の奴は寄り道ばかりするんだから、貿易とか。そん時に行きゃー良いだろ?」
ビクトールがやれやれと声を出す。
「……」
ルックはそれに押し黙る。
「それなら良いじゃん!」
シーナは笑った。
「な?フリック」
ビクトールと一緒に○○もフリックをじっと見た。
「…………分かった。その代わり今回は諦めろよ」
フリックはやれやれと声を出す。
「「「うん!」」」
U主、ナナミ、○○が頷いた。
「ははは、ガキの集まりだな」
ビクトールが笑った。
「はぁ」
フリックがため息をつく。
「全く……」
ルックは呆れた顔をする。
「仕方ないか」
シーナも少し残念そうにする。
「ちょっと来い」
「え?うん」
フリックは○○を連れて酒場を出る。
そして、人気の無い所へと連れて行く。
「……」
そこは人が一歩中に入らないと見えない場所。
「どうしたの?」
○○は不思議そうにフリックを見上げた。
「……トラン共和国はここから少し遠い」
フリックは○○をじっと見る。
吸い込まれそうな青い瞳に○○の頬は熱を集める。
「うん。気を付けてね」
○○は寂しい思いを隠して笑った。
「……」
フリックは押し黙る。
「えっと……。砂漠超えじゃないのよね?大丈夫でしょ?」
○○は不安そうに聞く。
「あんな道二度と通りたくないぜ」
フリックは嫌そうに舌打ちをする。
「ふふ、私もフリックに倒れられたら困る」
○○は笑った。
「じゃ、なくてだな」
フリックは眉間にシワを寄せ、少し顔を赤くした。
「……………………寂しい」
○○はフリックの顔を見て呟いた。
「私、フリックとそんなに離れるの…………寂しいな」
○○は困った様に笑った。
「………………俺もだ」
フリックは呟くと○○に唇を寄せる。
「…………なんのつもりだ」
フリックは不服そうに声を出す。
○○はフリックの唇を手で塞いでいた。
「え?だって……ここで?」
○○は困った顔をする。
「…………誰もいないだろ」
フリックが○○の手を退けて無理矢理口付ける。
「んっ」
○○は恥ずかしそうに口付けを受けた。
「………………ねぇ、行くって」
「っ!!」
「っ!!!」
突然の声にフリックと○○は驚く。
「僕、先に行くから早くしてね」
ルックはそう冷たく言い放つと、さっさと去って行った。
「……」
「…………じ、じゃあ、行って来るぜ」
フリックは冷や汗かきながら声を出す。
「…………フリックの……バカ」
○○は真っ赤な顔で小さく呟いた。
「わ、悪かっ!!」
フリックの言葉を遮る様に○○からフリックへと口付けた。
「じゃあ!私仕事に戻るわ!お土産楽しみにしてる!」
○○はにっこりと微笑み酒場へと消えて行った。
「……………………反則だろ、それは」
フリックは赤くなった顔を片手で隠し、座り込んだ。
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