06
「んじゃ、俺も風呂入るから、先に下行ってて良いぜ」
ビクトールの言葉を受けて、○○はラフな格好のままで、宿屋のレストランへ向かった。
「いらっしゃいませ!一名様ですか?」
「後から1人来ます」
「では2名様!こちらへどうぞ」
ウエイトレスに案内されて、○○は窓際の席に腰を掛けた。
「メニューでございます」
「どうも。じゃあ、先にソーダと、フライドポテトを」
「かしこまりました」
ウエイトレスは注文を取ると去って行った。
○○は外からミューズの町並みを見た。
もう、日は沈み辺りは暗かったが都会である事は分かった。
「お待たせしました、ソーダとフライドポテトでございます」
ウエイトレスが品物を置いてまた去って行った。
「いただきまーす」
○○はソーダを口にする。
「美味しい」
○○は思わず嬉しそうに口に出した。
「お、上手そうだな」
「ビクトール!早かったね」
ビクトールは座りながらフライドポテトを口に入れた。
「そうか?あ!とりあえず酒を!」
ビクトールは近付いて来たウエイトレスに注文をする。
「はい、お待たせしました」
ウエイトレスはすぐに酒を持って表れた。
「あ!グラタンお願いします」
「じゃあ、俺は焼き肉定食」
「かしこまりました」
○○とビクトールは注文をする。
「ミューズって広いね。これぞ都会って感じ」
○○は楽しそうに笑った。
「そうだな。今じゃこの辺じゃ一番デカイかな?」
ビクトールは酒を煽った。
「そうなんだ!明日楽しみ」
「その前に市庁舎行って市長とあうんだぞ?」
「そうだ。市長さんってどんな人なの?」
「お待たせしました」
○○の質問を遮る形で料理が運ばれて来た。
「美味しそう!いただきまーす」
○○はグラタンを口に入れる。
「んー!美味しい!やっぱり人に作って貰うご飯って美味しいよね」
○○は大満足に喜んだ。
「そっか、そうだな。俺は○○の飯が今のところ一番上手いと思うぜ」
「あ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
ビクトールの言葉に○○は照れながらと嬉しそうに笑った。
「俺がお世辞なんざ言えるとおもうか?」
ビクトールはニヤリと笑いながら焼き肉を口に入れる。
「でもなぁ。ビクトールって口上手いからなぁ」
○○もニヤリと笑った。
「ところで、市長さんってどんな人なの?」
「アナベルか?そうだなぁ……まぁ、予備知識無しで会った方が面白いんじゃないか?」
「ふーん。アナベルさんって言うんだ。そうね、楽しみはとっておこうかしら」
○○は素直にそう言うと食事を進めた。
「うーん!お腹いっぱい!」
楽しく談笑しながら食事を終え、○○とビクトールは部屋に帰って来た。
ビクトールの手には酒瓶が何本か握られている。
「良かったな」
ビクトールは部屋に置いてあるテーブルに酒を置き、自分は椅子に座った。
「ねぇ、何かお話してよ!」
「ああん?お話だぁ?」
ビクトールは面倒くさそうにした。
「なんか、ビクトールの話って楽しいし、為になるの。ね!お願い!」
○○はベッドに座りながら手を合わせた。
「あー、そうだな……」
ビクトールは難しい顔をしながら首をひねった。
「昔、ある男がいた。そいつは母親の薬を買うため、街を出て働いたりもしてたが、ちゃんと家に帰るようにしていた」
○○はビクトールの横顔を見ながらベッドにうつ伏せに寝転がった。
「その男には年上の幼馴染みもいて、きっとそいつと結婚するもんだと思ってた。それなりに幸せな暮らしをしていたんだ」
ビクトールは懐かしむ様に酒を煽った。
「それがある日……」
ビクトールは無表情になりながら目は怒りに燃えた。
「男が母親の薬を買って街に帰った時だ。異変が起こった。街の奴等は皆、ゾンビとなって共食いをしていた」
「っ!」
「ここより栄えていた街がたった一人の男に……ネクロードと言うバンパイアに滅ぼされたのさ。そしてその男は無謀にもネクロードに襲いかかった。しかし、ただの人間がバンパイアに勝てる訳もなく、男は殺される」
「……」
「しかし、男は幼馴染みに渡されたお守りによって生き返った。身代わり地蔵が入ってたんだ」
「……ほっ」
「しかし、男が起き上がった隣にはその幼馴染みが死んでいた」
「な…んで」
「男が死んだと思って絶望したんだろう。ネクロードにゾンビにされるならと、自分で命を断ったんだ」
「……」
「男はたった一人で街のゾンビ全てを殺した。そして、一つ一つ墓を建てたのさ」
「……」
「男はそれから誰も居なくなった故郷を離れ、血眼になってネクロードを探した。時には汚い仕事もして、色んな町を旅し、ついにネクロードの居所を掴んだ」
ビクトールは持っているグラスに力を入れた。
「バンパイアに普通の攻撃は効かない。夜の紋章を宿した星辰剣を携えて奴を倒した」
「……」
「長かった復讐と言う旅が終わったんだ」
ビクトールは一息つくと、酒を飲み干した。そして、新しい酒をグラスに注ぐ。
「……」
「……」
「……」
「……悪い、寝る前にする話じゃなかったな。ささと寝っ!」
○○が座るビクトールの背中に抱き付いた。
「……」
「……どうした?」
ビクトールに抱き付いたまま小刻みに震える○○にビクトールは静かに声をかける。
「男は復讐出来たんだぜ」
ビクトールは○○の頭を撫でた。
「……でも」
「なんだ……哀れんでるのか?」
「違っ……」
ビクトールは静かに声をかけるが、○○の泣き声を聞いて苦笑する。
「泣くなよ。それに、慰める気があるならちゅーのひとつもしてくれよー」
ビクトールは冗談混じりで笑う。
「……私、そんなに軽い女じゃないもん」
「あはは!そりゃ残念だぜ」
○○の言葉にビクトールは笑う。
「大丈夫だ。俺……男はきっと幸せだよ」
「……何で?」
「そいつやゾンビになった奴等を思って泣いてくれる女がいるんだ」
ビクトールは優しく笑った。
「……」
「分かったら寝な。明日は赤い目で市長さんと対面する気か?」
ビクトールはぽんぽんと○○の頭を叩いた。
「うん」
○○はゆっくりビクトールから離れた。
「お休みなさい、ビクトール」
「あぁ、お休み」
○○は素直にベッドに入ると目を閉じた。
ビクトールは揺れるろうそくの火を見つめながら静かに酒を飲み続けた。
○○は夢の中でバンパイアを倒すビクトールを見た。
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