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あまりにもストレートなシードに○○の頭はクラクラとした。
無理矢理抱かれるよりも、困った状況になったと○○は思った。
「っ!」
はっと思いだし、目を閉じると、すでに輝く盾は遠く離れていた。足止めは成功のようだ。
グリンヒルから逃げ出し、ようやく追っ手からも逃げ切った所でフリックはテレーズを下ろした。
「悪いが、少し待っててくれ」
フリックの厳しい顔付きにU主達は怯えていた。
「…………どこに行くのさ」
ただ一人、ルックは静かにフリックの前に立ちはだかる。
「どけ、ルック」
フリックは低い声でルックを睨み付けた。
「…………○○にU主を任せるって言われたよね?」
ルックは冷たくフリックを見る。
「……もう十分だろう」
フリックはイライラと言う。
「……あんたが行ったんじゃ、もう遅いよ」
ルックは冷静にフリックを半眼で見た。
「うるせぇ!」
フリックがルックを怒鳴り付ける。
「あんたのが、うるさいよ。○○は僕が迎えに行ってあげるよ」
ルックはそう言うとロッドを掲げた。そして、風に紛れるとその場から姿を消した。
「……ちっ……」
フリックは舌打ちをして、不甲斐ない自分に腹を立てた。
「お前は俺を好きになるぜ」
シードの言葉に○○の心は動揺する。
「【切り裂き】!!」
生意気な声と共に、凄まじい風がシードに襲いかかる。
「くそっ!」
「シード!」
シードは○○から離され、クルガンの方まで飛ばされる。
「ルック!!」
「……無事だね」
○○は疾風と共に突然のルックの登場に驚き声をあげた。
「誰だ?!お前は?」
シードは突然現れたルックを睨み付ける。
「誰でも良いよ」
ルックは興味なさそうに呟いた。
「行くよ、○○。青いのが怖いから何とかして」
「げ……」
ルックの言葉に○○は違う冷や汗をかいた。
「待て!○○!!」
シードが○○に手を伸ばす。
「【切り裂き】!!」
「くっ!!」
再びルックの魔法でシードは飛ばされ、血が舞う。
「行くよ」
ルックは○○の腕を掴む。
「またな!○○!」
シードはニヤリと声を出して手を振った。
「……馬鹿じゃないの。もう○○はアシタノ城から出さないよ」
ルックは冷たくシードに言い放った。
「なっなんだと?!」
シードが怒鳴るが、ルックはお構いなしに紋章を発動させ、姿を消した。
「まっ!待て!くそ!!」
シードは何も無くなった空間を蹴飛ばした。
「っ!」
「○○!!」
ルックの魔法で○○はU主達と合流した。
「フリック!みんな!無事で良かった!!」
○○はにっこりと笑った。
「○○は?無事なんだろうな?!」
フリックは真剣な表情で○○を見た。
「うん!大丈夫よ!ルックが助けてくれたし」
○○はにっこりと笑いながらルックの肩に手を置いた。
「そうか、ならアシタノ城まで急ぐぞ!」
フリックはホッとした様に頷いた。
夜も更け、一行は野宿をしていた。
U主を始めとするお子様組はスヤスヤと寝息を立てている。
「ふふ、まさか、この子が同盟軍リーダーなんて、誰も思わないわよね」
テレーズはスヤスヤと眠るU主を見た。
「まだまだあどけないですよね」
○○はにっこりと笑った。
「こんな子供も頑張っているのに……私もしっかりしなくては」
テレーズは暗く笑った。
「……ごめんなさい、シンさんとは途中で別れてしまって」
○○は小さく謝った。
「……」
テレーズは無言で焚き火を見ている。
「まぁ、あれほどの戦士だ。大丈夫だろう」
フリックは感情を込めずに言った。
「……」
テレーズは小さく頷いた。
焚き火がパチパチと燃える音が響く。
「テレーズさんも寝た方が良いですよ?」
○○はにっこりと笑った。
「……そうね」
テレーズは小さく頷いた。
「それともこれ、もう少し飲みます?」
○○は夕食の余ったスープを掲げた。
「頂こうかしら」
テレーズはにこりと笑った。
「これ、美味しいわね」
テレーズはスープに口を付ける。
「ありがとうございます。これでも一応コックしてたので」
○○は笑った。
「……長いの?コック」
テレーズは○○を見上げた。
「えっと……国を出て、色々転々としまして。リューベで……3年半?傭兵の砦で一年半くらい?少なくても専門に5年はやってますね。その前は見習いや皿洗いや雑用してました」
○○は頭で数えた。
「へぇ!何で故郷を出てしまったの?」
テレーズは同じ年頃の○○に興味が出たのか、聞いた。
「え……と」
○○はチラリとフリックを見た。
「結婚させられそうになったんです」
○○は苦笑した。
「なんで?嫌だったの?」
「いやー、まだ十代の小娘に相手が三十も後半のおじ様でしたから。人は良い人だったんですが……その頃はまだ恋もした事がなかったので」
○○は照れ笑いをした。
「まぁ」
テレーズは驚いた。
「きっと、あの時結婚していたら、それはそれで幸せになれたとは思うんですけど」
○○は懐かしむ様に笑った。
「それでも、自分の好きになる人くらい自分で見つけてみたかったので」
○○はにっこりと笑った。
フリックは○○を見てから、焚き火に目線を戻した。その顔は満足そうだった。
「ねぇ、○○さん」
「はい?」
「さん付け止めない?後、敬語も」
テレーズはにこりと笑った。
「貴女とは市長代行とコックより、普通の女友達になれそうだなって」
テレーズは少しはにかんだ。
「うん!宜しくね、テレーズ!」
「うん、こちらこそ、○○」
○○とテレーズはお互いに楽しそうに笑った。
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