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「こ、ここ?」
○○は森の奥にある小屋を見上げた。
「あぁ、この中にテレーズのお嬢さんがいる」
フリックは頷いた。
「……」
ナナミとU主は後ろを振り返る。
「まさか、フィッチャーの言ってた『切れ者』ってのがジョウイだったとはな」
フリックは2人の様子をチラリと振り返って言った。
「とにかくテレーズさんを連れ出さなきゃ!」
テンガアールはそうフリックに言う。
「あぁ、そうだな。U主行くぞ!」
フリックの声にU主は頷いた。
「○○さん?」
動かない○○をヒックスが不思議そうに見る。
「うん、ちょっと疲れちゃって。ここで待ってるね」
○○はにこりと笑った。
「……」
フリックが○○を見て眉間にシワを寄せる。
「なら、僕もここにいる」
ルックが○○の隣に立つ。
「ルック?」
○○は不思議そうにルックを見た。
「ほら、早くグリンヒル市長代行連れておいでよ」
ルックはU主とフリックを見て、シッシッと手を振った。
「……あぁ」
フリック達はルックに頷き、小屋の中に入って行った。
「……足」
ルックは小さく呟いた。
「え?」
「足!」
ルックはそうぶっきらぼうに声をあげた。
○○は「あぁ」と頷くと怪我をした方の足を差し出した。
「【癒しの風】」
ルックの呪文とともに、○○の痛めた足が癒されていく。
「わぁ!ありがとうルック!」
○○は嬉しそうに笑った。
さすが本物の魔術師だけあって、痛みは完璧になくなった。
「……別に」
ルックはプイッとそっぽを向く。
「凄いね、紋章って!あ、でもならもっと早く治して欲しかったな」
○○はクスクスと笑いながら足に違和感がないか確かめた。
「治りかけの方が簡単だからね」
ルックは生意気そうな声を出した。
「……さすがルック」
○○は苦笑した。それでもありがたい事には変わりなかった。
「どうして死に急ぎやがる!!!! 生きててこそだろ!!!!!」
小屋の中からフリックの怒鳴る声が聞こえた。
そしてドアが開くとシンと金髪の女性が出てくる。
「……お前は……やはり……」
シンは○○の顔を見て呟いた。
「……」
○○はシンと女性ーーテレーズの固い表情を見た。
「……あの」
「はい」
○○はテレーズに声をかける。
「……貴女は周りを良く見ましたか?」
「……もう、良いのです」
○○の言葉にテレーズは静かに答えた。疲れきった顔をしていた。
「ダメ!貴女がいなかったら!」
小屋から出て来たニナがテレーズの背に叫ぶ。
しかし、シンとテレーズは歩みを止めずに去っていった。
「ついに観念したようだなぁ。 まぁ、自分から出てくるとは良い心がけだ。丁重におもてなししますよ。はっはっはっはっは!」
学園前で、ラウドはテレーズの姿をみて、笑った。
皆は2人に付いて行くしか無かった。
「……………………」
テレーズは無表情で無言だ。
「ようし、捕らえろ!!」
ラウドはニヤリと部下に命じる。
「なんだ?刃向かう気か?」
ラウドは剣を構えるシンを睨む。
「お嬢さまに、貴様らのうす汚い指を触れさせるわけにはいかぬ」
シンはテレーズの前に立ち、ハイランド兵達を睨みつける。
「シン、何をする気ですか?やめてください。それに……ワイズメル家はすでになく、わたしも、もう市長代行ではありません。あなたが、そんなことをする理由などありません!」
テレーズは慌ててシンを止めようと声を出した。
「…………………… 」
シンはテレーズをチラリと見た。
「やっぱり!」
○○はそう口に出した。
「なんだかわからんが、抵抗するならかまわん。力づくで、捕まえろ!!!!」
「「「はっ!!!」」」
ラウドはそう叫ぶとハイランド兵達が武器を構えた。
「行かなきゃU主!」
ナナミがU主を振り返る。
「助けるんだ!」
「よし!!!○○!テレーズを!」
「うん!」
U主の言葉にフリックは飛び出した。
「貴様ら!!!戻ってきたのか!!! ちょうど良い!!!こいつらも一緒に捕まえろ!!!」
「「「はっ!!」」」
ハイランド兵達とU主達の戦いが始まる。
「やめて……戦いをやめてください」
テレーズは泣き叫ぶ。
「バカなことを言うな!!!」
フリックは戦いながら怒鳴り付ける。
「お願い…… わたしはもう……これ以上、みんなに迷惑をかけたくはありません」
テレーズは目の前の争いを見て泣き崩れる。
「本当にそう思ってるなら、やっぱり貴女はちゃんと周りを見るべきよ」
「え?」
○○の言葉にテレーズは顔をあげた。
「なに言ってるのよ!!!!誰が迷惑だなんて言ったのよ!!」
怒鳴りながらニナを先頭にグリンヒル市民がやって来た。
「な…なんだ……貴様ら……」
ラウドはあまりの人数に気圧される。
「ちょっと、あんたどきなさいよ」
ニナはラウドを押し退け、テレーズの前に出る。
「ニナ………」
テレーズがニナに戸惑いの顔で見る。
「だめです!!テレーズさんが、捕まっちゃダメです!!!」
ニナが必死にテレーズを見る。
「しかし……わたしがつかまればみんなが………」
「みんなが喜ぶとでも思っているんですか?テレーズさん。みんながあなたを信じて戦ったように、あなたも、みんなを信じてください!」
テレーズの言葉をニナの懇願の声が遮る。
「みんな、みんな、あの戦いで… 傷ついたんです!!!あの負けで…。自分たちの手でグリンヒルを敗北にみちびいた… あの戦いで…。それなのに、あなたを王国兵に引き渡したらグリンヒルの市民はもう一度、傷つかなければならないのですよ!!」
ニナの声はテレーズだけでなく、他の者の心にも響く。
「戦いに負けて、この街を失っても本当に失っちゃいけないことがあるのよ!!!それを失わせないで…ください…おねがい…テレーズさん……」
ニナは涙混じりで語る。
グリンヒル市民は皆グリンヒルと言う街を愛していて、本気でグリンヒル市民、ミューズ市民を守ろうとしたテレーズが大切なのだ。
「みんな、テレーズさんを守るんだ!!! 」
「おれたちの市長を守るんだ!!! 」
グリンヒル市民はニナの言葉に口々に賛同する。
「みんな……」
テレーズは口に手をあてて、震える声を出す。
「そうだぁ、あの時おれたちを受け入れてくれたグリンヒルに恩返しをするんだ!!!これ以上ミューズの名を汚すなよ!!」
ミューズ市民の生き残り達もそう、声を張り上げた。
「周り、見えた?」
○○はテレーズに笑いかける。
「っ!!えぇ!!」
テレーズは力強く頷いた。
「お……おのれ………」
ラウドは人々の怒気に恐れる。
「テレーズさま、このグリンヒルの市長はあなたしかいません。早く、逃げてください!!」
「そうです……いつかこの街を 再び取り戻しに来てください!!!」
グリンヒル市民、ミューズ市民達はテレーズを庇うように立つ。
「………ありがとう……こんなわたしに……」
テレーズは泣き声になら無い様に必死に声を出す。
「なにを言ってるんですか。みんな、あなたを信じたんです!!! それを忘れないでくれ!!」
「わかりました…… 約束します……必ず、このグリンヒルをとりもどし、再び、この足でこの地を踏みしめ、この身でこの風を感じ、この唇でこの街の名を呼ぶことを。それまで、待っていてください。お願いします!」
テレーズは凛とした声を張り上げた。
「そうとも!!あの王国軍を早いところ追っ払ってくれ!!」
「本隊が来たらしい!!!!逃げるぞ!!!!!」
フリックの声にU主達は走り出す。
「ようし、みんな時間かせぎだ!」
「 みなさん……必ず……必ず…もどってきます!!!」
テレーズは固く胸に誓い、その場を離れた。
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