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○○とフリックは旅支度を整え学生寮の前でU主達を待っていた。

「ふぁ……」

○○はあくびを噛み殺し、ふらつく足で何とか立っている。
うっすらと目の下に隈も出来ていた。

「……大丈夫か?」

フリックは○○を見る。

「うん、誰かさんのせいで凄く眠い……」

○○はフリックをチラリと見た。

「……悪かった」

フリックはばつの悪い顔をしながら頭をかいた。

「ついでに体もあちこち痛い。特に腰が……」

○○は腕を上げて伸びをする。体がぱきりと鳴った。

「………………悪かった」

フリックは眉間にシワを寄せる。

「あと……」

「なんだ?」

「……またハイネックしか着れなくなっちゃった」

○○は困った様に笑うとフリックにとどめを刺す。

「………………………新しいの買ってやる」

フリックは赤い顔を隠すために片手で顔を覆い項垂れた。

「ありがとう」

○○は嬉しそうにクスクスと笑った。

「フリックさん、容赦ないよね」

○○はもう少しいじめてやろうとポツリと呟いた。

「…………したぞ、容赦なら」

フリックもポツリと呟いた。

「え?」

「今日は歩いて帰るからな」

フリックはニヤリと笑った。
その顔はあまりにも恐ろしく見えた。

「っ!!」

○○は顔を赤くして、青くした。


そんな事を話してる間に、U主達がやって来た。


「忘れ物はないか? しばらく、ここに戻ってくる事はないだろうからな」

フリックがU主達に声をかけた。

「大丈夫!」

U主が頷いた。

「フリックさん、ニナって子に お別れしなくていいの?」

テンガアールがニヤニヤと笑った。

「バカなことを言うな。……そういえば朝から姿が見えないが、 まぁ、関係ないしな。 さぁ、行くぞ」

フリックは呆れた様に言った。



街を抜け、広場に出た所で人の集まっていた。

「なに? なに????」

ナナミが不思議そうに声を出す。

「これは……」

フリックも険しい顔をした。

「いいかぁ!! よく聞けよ!! ハイランドの皇子ルカ・ブライトさまよりの布告だ!! 元グリンヒル市長代行テレーズを捕らえた者には20000ポッチの金と、 ハイランド王国の市民権をあたえる」

ハイランド兵がはそう怒鳴った。

「……ラウド……」

U主は小さく声を出した。
ラウドとはU主とジョウイがビクトール達と出会う直前までいたユニコーン隊の隊長をしていた男だ。
この男の裏切りにより、U主とジョウイを除く少年兵は全滅した。

「ウソをつけ!!! 」

「そうだ!!! おまえらは平気で約束をやぶるくせに信用なんかできるか!!!」

「そうだ!! そうだ!!!」

グリンヒル市民達が叫び出した。

「大金と身の安全か……… 密告するやつが現れるのは時間のもんだいだな……」

フリックは険しい表情のままで低く言った。

「う……」

「ん?どうした○○?」

○○が目を閉じたまま眉間にシワを寄せた。

「なんか、凄く黒い剣が……」

「え?」

○○の言葉にフリックがキョロキョロと辺りを見回す。

そして、ピリカ様子もおかしい。

「どうしたのピリカちゃ……う、うそ!うそ!」

ナナミがピリカの視線の先を追う。

「何を言うか!きさまら、おれのことが信用できないと……」

ラウドが怒鳴り始めた所で、

「グリンヒルの市民の方々、聞いていただきたい。先日の不法な取り調べについてはすでに、調べを行い、当事者に罰をあたえている」

U主のよく知る声が響き、白い軍服に身を包んだジョウイが声を張り上げた。

「………………クッ ………………」

ラウドはジョウイの登場に悔しそうに黙る。

「これはハイランドの皇子ルカ・ブライトさまからの正式な布告である。約束は、この首にかけても守る」

ジョウイは上に立つ者の風格をただよわせて声を張る。

「本当か………??」

市民の一人が恐る恐る声を出した。

「ただし、一つだけ条件がある。テレーズは必ず ”生きたまま”捕らえてもらいたい。 王国軍は、死体に金を支払う気はない」

ジョウイはそう付け加えた。

「2…20000ポッチか……」

市民は確実に心を動かされていた。

「ど、どうして?どうして??どうしてジョウイがあんな所に???」

ナナミは動揺をして辺りをキョロキョロと見回した。

「…………」

○○はジョウイの後ろにいたシードとクルガンの姿を確認した。

「……」

フリックはチラリと○○の様子を見る。

「あ、ピリカちゃん!!」

ピリカがジョウイの元へと走り出す。

「 おい! 待て!!! ちきしょう!!これだからガキは!!」

フリックは慌てて叫び手を伸ばすがあっと言う間にピリカはジョウイの元へ走り出した。

「追いかけないと!」

U主が叫びながら走り出す。

「よし! 行くぞ!!」

フリックも走り出した。

「なんだぁ……このチビすけは?ん????おまえは!!! き、きさまはーーーー」

ラウドはU主、フリックの順で見ると苦々しく声を出した。

「ジョウイ…どうしてきみが… …………… 」

U主が切なそうな声で訴える。

「……………」

ジョウイは驚きもせずにじっとU主を見る。

「お、おい!あいつらをとっ捕まえろ!あいつは………」

ラウドが怒鳴る。

「おい、みんな!! そいつらを捕まえろ!!! スパイだ!スパイだぞ!!!! 捕まえたら、金がもらえるぞ!!!」

フィッチャーが大群に紛れて声を張り上げた。
それを聞いた群衆が混乱して騒ぎ立てる。

「く、くそっ!!! おい、早く追いかけるんだ!!! ちきしょう!!ジャマだぁ!!!!」

人々か一気にざわめき、ラウドの行き手を阻んだ。

「………… U主」

ジョウイは小さく呟いた。

「あれは、トゥーリバーでキバの軍をしりぞ けた、同盟軍のリーダーですな」

クルガンがジョウイの後ろから声をかける。

「追わなくていいのかい、軍団長さんよ?」

シードがニヤリと笑った。

「ラウドが追っている。任せればいい」


「なるほどね……」

シードがポツリと呟いた。

「テレーズの命…… あのようなことを言っても救えませんよ」

クルガンは冷静に先程のジョウイの演説に意見する。

「……多分そうでしょうね」

ジョウイは静かに頷いた。

「……シード、どこへ行く?」

クルガンは歩き出したシードを目で追った。

「いたんだよ、あいつが」

シードはニヤリと笑うと○○を追いかける為に走り出した。

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