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シードは○○を抱き抱えたままハイランド軍が屯所にしている場所へ帰って来た。
気付いていないとは言え、一番会いたくなかった相手に抱き抱えられ、敵地真っ只中に来てしまった恐怖に○○は必死に耐える。
「っと、手使えねーか」
シードは乱暴にドアを蹴りあげた。
「し、シードさま!ドアを壊すおつもりですか?!」
中にいたハイランド兵が非難する。
「悪いな、手が塞がっててな」
シードはニヤリと笑った。
ハイランド兵達はシードが女を連れてきた事にざわざわと色めき立つ。
「おい、誰か包帯とテーピング持ってこい!」
「は、はい!」
シードがそう怒鳴るとハイランド兵が頷いた。
シードはテーブル席を全て無視して、一番奥の三人がけのソファーに○○を下ろした。
「……」
○○はシードから顔を背けたまま、辺りを見回す。
大きなホールにまるでレストランの様にテーブルや椅子が並べられている。
簡単に言うとハイランド軍の食堂の様だ。
ハイランド兵達はやはりシードに一目置いているせいか、誰一人として近付いて来ない。が、銀色の髪の女が気になるのかチラチラと視線を○○に向ける。
「お待たせしました、シードさま」
「おう」
ハイランド兵が包帯とテーピングを持ってやって来た。
「あの、どこか痛められましたか?」
「俺じゃねーよ」
ハイランド兵はシードから○○に視線をうつす。
「あぁ、足を。私がやりましょうか?」
テーピングを掲げてシードを見る。
「俺の連れてきた女に触るのかい?」
シードはニヤリとハイランド兵を見た。
「っ!!失礼しました!」
ハイランド兵は慌ててテーピングと包帯を置くとその場から下がった。
「シードさま」
「なんだ?」
別のハイランド兵がシードに近付いた。
「クルガンさまとアトレイドさまは明日到着予定です」
「わかった」
シードはそれだけ言うとシッシと人払いをする。
今度こそシードの回りには人が寄り付かなくなる。
「ほら、待たせたな。足出せ、足」
シードは○○の隣にどかりと座る。
「……」
○○は無言で腫れている足をシードへ差し出す。
「いや、俺はそれでも良いけどよ、他の連中の目に毒だから、両方出せよ」
シードは苦笑しながら言った。
確かにタイトなスカートなので、足が離れるとスカートが上まで捲れる。
「……」
○○は仕方なく両足をソファーの上に乗せ、体ごとシードへと向いた。
「よしよし」
シードは○○の腫れた足を自分の足に乗せ、器用にテーピングで固定していく。
「……」
○○は深呼吸しながら、シードを見た。
これでシードと会うのは二回目だが、初めて明るい場所でシードを見た。
赤い髪にキリリとした眉、少し生意気そうな強い目が印象的だ。
「悪いな、こんな所で。さすがに、俺の部屋に連れ込む訳にも行かないからな」
シードは言いながら笑った。
「お前、名前は?」
シードは世間話をする様に聞いた。
「……」
とっさに出てこないで○○は黙った。
「ここの住民か?」
シードは気にした様子なく続ける。
○○は小さく首を横に振る。
「そうか、じゃあ、どの辺だ?」
シードは○○をちらりと見て、またテーピングに視線を戻す。
「……ハイランドでも都市同盟でも無い所」
○○は小さく呟いた。
「そうか」
シードは頷いた。
「…………貴方はハイランド兵?軍服が違うけど」
○○はどうやって逃げようか考えながら聞いた。
「あ?あぁ、一応将の立場だからな」
シードは答える。
「…………でも、結局はトトやリューベを壊滅させたなら、同じね」
○○は静かにあざける様に笑った。
「…………かもな。まぁ、俺は行ってねーけどな」
シードは気にした様子なく声を出す。
「……?」
「俺は強い奴等と戦ってのし上がるのが好きだ。一般人には興味がねー」
シードは笑った。
「…………でも、実際ルカ・ブライトが……」
○○の言葉にシードは○○の耳に唇を寄せる。
「俺はな、ハイランドって国が好きなんだ。あいつのやってる事はただの破壊。俺はそれじゃあ困るんだよ」
シードはこっそりと○○の耳元で言った。
「……そんな事、私に言って良いの?私がそのルカに密告したらどうするの?」
○○はシードから離れようとしたが、シードの手に阻まれた。
「まぁ、俺はこれだな」
シードは自分の首を親指でなぞって笑った。
「俺は別に殺戮者じゃねー。ハイランド兵もそうだ。国は人や豊かな土地がなきゃなりたたねー」
シードは真剣な顔をした。
「だから、俺とあいつを一緒にするな」
シードは低い声で言った。
「……なんでそんな事私に言うのよ……」
○○は眉間にシワを寄せた。
「……なんでだろうな?俺が一番驚いてるよ」
シードは苦笑した。
「……」
○○は少し戸惑いを感じていた。初めて傭兵の砦で会った時の恐ろしい印象と違い過ぎるのだ。
しかし、自分に酷い事をしたのだ。そう簡単に許せるはずもない。
「よし、出来た。これで痛くはないはずだ」
シードは○○の足を見て満足そうに頷いた。
「……ありがとう」
○○は小さな声で礼を言う。
「お、やっと素直になったな。女は素直じゃねーとモテないぜ」
シードは楽しそうに笑った。
「……好きな人以外にモテても仕方がないわ」
○○は小さく呟いた。
「それは同感だな」
シードは頷いた。
「じゃあ、私帰る」
○○はソファーから立つ。
「分かる所まで送ろう」
シードも立ち上がる。
「大丈夫」
「そう言うなって、行くぞ」
シードは○○の隣に立ち、○○を促した。
屯所を出て、グリンヒルの静かな街並みをシードと並んで歩く。
「なぁ、その包帯、誰が巻いたんだ?」
シードは口を開いた。
「旅の傭兵」
○○は短く答える。
「だからか。ほどけてたが、上手く巻いてあったからな。戦場の奴だと思ったぜ」
シードはそうにやりと笑った。
「そいつ、強いか?」
「もちろん」
シードの言葉に○○は頷く。
「一度手合わせ願いたいね」
シードはニヤリと笑った。
「……そう」
○○は少し呆れていた。
「……なぁ」
「なに?」
シードは○○を呼び止める。
「お前の名前が知りたい」
シードは真剣な顔をした。
「……知ってどうするの?」
○○は冷や汗を流した。
「……お前に興味が沸いた」
シードは○○を抱き寄せる。
「っ!私は貴方に興味が無いわ」
○○は怯えながらも気丈にシードを睨み上げる。
「……目は紫なんだな」
シードは○○を食い入る様に見つめる。
「離して」
○○は震えるのを何とか堪える。
「そんなに怖がるなよ」
シードは小さく笑った。
「……」
○○は負けじとシードを睨み上げた。
「……俺はお前みたいな女を知ってる」
「……」
シードの低い声に○○は平常心を揺らされる。
「手に入れようにも、手に入らないかもしれない女だ」
シードの顔に陰りが入る。
「……弱気ね」
○○は体が強張るのを感じる。
「そら、弱気にもなるさ。こんなに好きになっちまったんだ」
シードへと自虐的に笑った。
「なら、私は関係ないわね。離して」
○○は静かに言った。
「…………離すには惜しいな」
シードは静かに口許が笑った。
「わ、我が儘」
思わず○○は素で返してしまった。
「はは、そうだな」
シードは○○の反応に楽しそうに笑った。
「なぁ、キスして良いか?」
シードは○○に顔を寄せた。
「あなた、好きな人がいるって言って、堂々とよく言えるわね」
○○は呆れながら言う。
「俺も自分に呆れる。何か分からねーけど、あんたにも、あいつと同じ様に惹かれるんだ」
シードは素直に語る。
「生憎だけど、私には夫がいるの」
○○は強い口調で言った。
「……旅の傭兵?」
「ええ」
○○はにっこりと笑った。
「そいつは残念だ」
シードは仕方なく○○を開放した。
「ここから道沿いに行けばさっきの所に出る」
シードは道を指した。
「そう」
○○はくるりとそちらに向かう。
「っ!!」
突然○○は後ろからシードに抱き付かれた。
「……なるほど、夫がいるのは本当みたいだな」
シードは○○の銀色の髪をかきあげると、後ろの首筋に印を見つけて指でなぞる。
「っん」
とっさの事で、声を上げる○○。
「はぁ……。今の声は反則だ」
シードは○○の首筋に鼻を押し付ける。
「やっ!」
「甘い匂いだ」
シードは○○の首筋を舌で舐めあげた。
「っ……!」
シードは○○のワンピースのボタンを片手で外す。
「や!嫌!」
○○は恐怖にかられ、声を上げる。
シードはゆっくりと服の中へ手を入れる。
「や……ん……」
○○は必死にシードが与える恐怖と刺激に耐える。
「……」
シードは○○の首にかかるネックレスに動きを止める。
「はぁ、はぁ」
○○はシードの動きが止まったのを見逃さず、シードから離れる事に成功した。
「ネックレスか。……悪かったな。やるつもりは無かったんだ」
シードは戸惑いを隠さずに頭をかいた。
「……」
○○は距離を取りながらシードを睨みつける。
「本当に悪かった……」
シードはそう、辛そうな声を出すと、もと来た道を歩き出した。
「……」
○○はシードの反応にキョトンとした。
「……もし、次に会えたら名前教えてくれよな」
シードは寂しそうに笑うと、再び歩いて去っていった。
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