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○○はフリックとは逆の街まで降りてきた。
シンが街で何かをやっていたはずなので、それを調べに来たのだ。

「……?」

道行く人達が自分を振り返って見ている事に気が付いた。

「あ……そうか」

○○は自分の格好に気が付いた。

今○○は髪を銀色に染め、目も紫色をしている。
異国人に見えるのである。

(フリックさえ近付かないと気付かなかったし、きっと大丈夫だろうけど……。これじゃあ返って目立ってる)

○○は知らぬ間に苦笑した。

○○は痛めた足を庇いながら、ゆっくりと夜の街を歩く。

(そう言えばなんだか、ハイランド兵が多い。もしかして、切れ者の将が帰って来たのかしら)

○○は不思議そうに辺りをうかがう。

「お!銀色の髪だ!」

「珍しいな」

「ちょっとお前、声かけてみろよ」

「お、俺か?」

ハイランド兵が口々に○○を見て声を出す。

(ハイランド兵には用はないのよね。今はテレーズさまの居場所が知りたいだけだし)

○○はハイランド兵がいない方へと足を向ける。

「ほら、行っちまうぞ!」

「えー!」

「仕方ないな、俺が」

ハイランド兵が数人ニヤニヤと○○に近付いて来た。

「よう、姉ちゃん」

「ねーねー何してるの?」

「暇なら少し付き合ってよ」

ハイランド兵は○○を取り囲む。

「……私、今忙しいから」

○○はにっこりと微笑むと踵を返す。

「えー!」

「まぁ、待てよ」

ハイランド兵は○○の腕を掴む。

「っ!離してください!」

○○は語尾を強めて言った。

「大丈夫だって、変な事しないなら」

「変な事だって!やらしー」

「うっせーなー」

ハイランド兵達は野次を飛ばし合い、笑っている。

「ちょ、本当に忙しいから!離して!!」

○○は恐怖を感じながら必死に手を振る。

「まーまー、別に取って食いはしねーって」

「ちょっとお酌でも付き合ってくれたら、帰してあげるから」

「怪しいー」

ゲラゲラと笑いが起きた。

○○は嫌悪感に鳥肌がたつ。

「っ!嫌だってば!」

○○は右手の紋章に集中する。

「おい、何をしてんだ?!」

低い男の声にそれまでゲラゲラと笑っていたハイランド兵達がしんと静まり返る。

○○はその声に聞き覚えがあり、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
紋章への集中も切れてしまった。

「……し、シードさま!」

ハイランド兵の一人が叫んだ。

「だから、何してんだ?って聞いてるんだが?」

シードはイライラとハイランド兵に聞く。

「いや、その……」

「あー……」

「えっと……」

「ぐだぐだ言ってねーで、答えろ!」

シードはもごもごと口をなかなか開かない部下を怒鳴る。

「は、はい!」

「珍しい銀色の髪をした女がいたので、声をかけました!」

ハイランド兵達は冷や汗を流しながら、答えた。

「あぁん?」

シードは○○を見る。

○○は顔を見られまいと他所を向いた。

「本当だ。珍しいな」

シードは銀色の髪を見て声を出した。

「で、でしょ?」

「気になってしまって……」

ハイランド兵は口々に声を出す。

「だからと言って女に無理強いするなよ。ハイランドの評判が落ちるじゃねーか!」

シードはそう呆れて言った。

「「「は、はい!申し訳ありません!!」」」

ハイランド兵達はそう頭を下げると○○とシードを残して、その場を離れた。

「悪かったな。変な連中じゃないんだ。上司として謝るよ」

シードはそう言って笑った。

「……いえ、では」

○○はうるさいほど鳴る心臓をどうにか落ち着かせようと、胸を押さえる。
顔を見られ無いようにしながら、その場を離れようとしたが、

「っ!!」

先程無理をしたせいか、足の包帯が緩み、痛みが出た。

「どうした?」

シードは不思議そうに声をかける。

「いえ、何でもないです」

○○は痛みを必死に堪え歩き出すが、バランスを崩してその場に座り込んだ。

「何でも無いようには見えないな」

シードはやれやれと○○の前に座り込む。

○○はすぐ近くに来たシードに心臓の音が痛いくらい脈打つのを感じる。
恐怖に持っていかれそうになる思考回路をなんとか冷静に保っていた。

「あーあ、腫れてんな」

シードは○○の顔は見ないで腫れている足を見た。

「さ、触らないで!」

○○がシードを撥ね付けるが、シードはお構いなしに足を触る。

「あーっと、骨は平気そうだな」

「くっ!!」

○○は痛みに目眩を起こしそうになり、声も漏れる。

「ちょっと待ってな」

シードは立ち上がるが、少し考えて、再び座り込む。

「連れて行った方が速いか」

シードはそう言うと○○を横抱きにして持ち上げた。

「っ!!嫌!下ろして!」

○○は恐怖で焦り、シードの腕の中で暴れる。

「お、おい、こら!暴れるな!治療するだけだ!」

シードは○○をしっかり抱く。

「いい!いいから下ろして!」

○○は必死に抵抗する。

「おい、あんまり暴れると犯すぞ!」

「っ!!」

シードの低い言葉に○○は恐怖で静かになる。

「よしよし、大人しくしてな」

シードは○○を一度抱え直すと、ハイランド兵の屯所へ向かった。

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