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○○はフリックともニナとも別れて一人散策をしていた。
「グリンヒルも広いのね。学園の方は私じゃ目立つから、街の方にでも行ってみようかな」
○○は街の方へと足を向けた。
「わっと!」
「すまない」
誰かとぶつかり、○○はバランスを崩した。
「あ、いえ、こちらこそ」
○○がそう言ってぶつかった相手を見ると、昨日見たテレーズのボディガードとされる異国の剣士、シンだった。
「っ痛っ!」
○○が立ち上がった瞬間、足に痛みを覚えた。
「……痛めたか?」
シンは○○の足元に膝を付く。
「い、いえ、大丈夫です!」
○○が慌てて言うが、シンは足の様子を見る。
「ふむ、少し腫れたか。大事ないとは思うが、すまなかった」
シンは眉間にしわを寄せ、謝る。
「いえ!こちらも不注意だったので」
「少し待っていろ」
シンはそう言うと宿屋の方へ向かった。
○○はチャンスと考え大人しく近くに座って待つ事にした。
少し時間が過ぎた。
もう帰ってしまったのではないかと思った時にシンは帰ってきた。
「待たせたな」
「いえ」
言葉短くシンが言うと、包帯と氷の入った袋を持って来た。
「……痛むか?」
シンが腫れを押し、確認する。
「くっ!」
○○は必死に痛みを我慢する。
「骨には異常は無さそうだ」
シンはそう言うと、氷の入った袋を腫れている部分に包帯で固定していく。
「あの……私、昨日田舎から着いたばかりで何も知らないのですが、テレーズ市長代行はどちらにいらっしゃるんでしょうね?」
○○の言葉にシンは鋭い目を向けた。
「いや、あの!同世代でこんな大きな都市の市長代行って、仲間内で話題になって。どんな方なのか一目見てみたかったなーって」
はははと笑うとシンはまた包帯へと視線を戻す。
「テレーズさまの居場所は私もしらない」
シンはきっぱりと否定した。
「……知ってますか?視線が左に揺れると嘘らしいですよ」
「……」
○○の言葉にシンはさっきより鋭い目を向けた。
「た、大切な人なんですね」
「お前には関係ない」
シンはそう言うと包帯を巻き終わり、立ち上がる。
「何の為に聞くのかは知らんが、私は何も知らない」
シンはそれだけ言うと立ち去った。
「ふぃーー。怖かったよー」
シンの姿が見えなくなってから、○○はそう情けない顔で呟いた。
「でも、良い人かも」
○○は足に巻かれた包帯を見た。
「はぁ、これじゃあもう探索も出来ないなぁ。部屋に帰ろう」
○○はため息交じりに立ち上がった。
「っ!痛い……」
○○はよろよろと壁づたいに歩いた。
「○○さん!」
「どうしたの?!」
帰り途中でU主達に出会った。
「ちょっと足を痛めて」
○○は困った様に笑った。
「大変!ヒックス肩貸してあげて!」
テンガアールが○○に近付いた。
「うん」
ヒックスが○○に肩を貸す。
「ありがとう、ヒックスくん」
○○は一瞬戸惑ったが、ありがたく手伝ってもらう。
「テンガもそっち支えて」
「うん!」
ヒックスの声にテンガアールは素直に従う。
ヒックスとテンガアールに支えられ、○○は保護者寮についた。
「どうした?」
丁度フリックも帰ってきた所だった。
「えへへ、足をちょっと」
○○は照れ臭そうに笑った。
「全く、ほら、ヒックス貸せ」
フリックがヒックスとテンガアールから○○を受け取ると、ひょいっと横抱きにした。
「じゃあ、○○の事は俺に任せろ。お前達はもう寮に戻る時間だろ?」
フリックはそう言うと保護者寮に入って行った。
「さすがフリックさん!」
ナナミは嬉しそうに笑った。
「ヒックスもあれくらい出来る様にならないとね!」
テンガアールがヒックスに言った。
「え……」
ヒックスは困った顔をする。
「…………全く」
ルックは呆れたような顔をした。
「で?どうしたんだ?」
フリックは横抱きにしたままベッドに腰を下ろした。
「シンさんに会ってぶつかった」
○○は恥ずかしそうに呟いた。
「……会ったのか?」
フリックは○○を覗き込む。
「うん。あの人テレーズさまの居場所知ってるよ。知らないはずが無いよ」
○○はフリックを見上げる。
「ずいぶん自信満々だな」
フリックは関心した様に見る。
「女の勘!!」
○○はキリリと笑った。
「…………そうか」
フリックは呆れた顔をする。
「と、言うかちょっと鎌かけたらね、めちゃくちゃ怖い顔で睨まれたの」
○○はふぅとため息をついた。
「……そうか」
フリックは眉間にしわを寄せた。
「ところで○○」
「ん?」
「お前、ニナに何を言った?」
「へ?」
「あいつ、俺とお前が夫婦って知ってるのになんであんなに追いかけて来るんだ?」
フリックは声低く訪ねる。
「…………えへ」
「えへじゃねー!」
○○の笑顔にフリックが怒る。
「ちょっと恋愛について語っただけよ?」
○○はフリックの怒る声に少し冷や汗を感じる。
「………………はぁぁ」
フリックは盛大なため息をついた。
「怒った?」
「呆れてんだ」
○○が恐る恐る聞くとフリックは呆れて言った。
「ご、ごめんね」
○○がフリックをうかがう。
「お前ね……」
「ん」
フリックはそう言うと○○に唇を重ねる。
「……自分の敵増やしてどうすんだ?」
フリックがそう聞く。
「あら、あんな子供も敵になるの?」
○○はニヤリと笑った。
「……ならないな」
フリックは少し考えて答えた。
「でしょ?」
○○はクスクスと笑った。
「あの年代の女の子には仕方がないわよ」
○○は笑う。
「でも、煽るなよ。俺が大変なんだ!」
フリックが反発する。
「ふふ、フリックさんたら、モテモテね」
○○は楽しそうに笑う。
「お前だけで手一杯だよ!」
フリックはそう言うと再び○○に口付けた。
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