56
「ん……」
○○は眩しさと重さと固さから目を覚ました。
「……おはよう」
「…………」
寝起きにフリックのドアップに固まる。
ほんのり、フリックの目の下は隈が出来ていた。
「お、おはよう」
○○はカッと顔に熱が集まるのを感じた。
「……ねぇ、フリック」
「ん?」
「何もしないんじゃ無かったの?」
○○は、フリックの腕枕で寝ていて、しかもしっかりと抱き締められていた。
「………………これくらいは良いだろう」
フリックはふて腐れた様に言った。
「ふふ、ちょっとびっくりしたけどね」
○○は嬉しそうに笑うと、フリックに抱き付いた。
「良かった。今度は覚えててくれて」
○○はホッとした様にフリックの胸板に顔を埋めた。
「……悪かったな。不安にさせて」
フリックは○○を抱く腕に力を込めた。
「ううん。今、幸せだから良いの」
○○はクスクスと笑った。
「…………そうか」
フリックは愛おしそうに○○を抱き締めた。
「さて、そろそろ起きる?」
○○はクスクスと笑う。
「………………」
フリックはもっと力を込めた。
「フリック、痛いよ」
○○は苦しそうに声を出した。
「…………」
それでもフリックは○○を離そうとしない。
「任務中でしょ?」
○○はクスクスと笑うとフリックの頭を撫でる。
「…………」
「おーい、フリックー。お腹空かない?」
「…………」
「テレーズさま探すんでしょ?」
「…………」
「やっぱり、あのシンって人が怪しいよね?」
「…………」
「フッチャーさん、連絡どうやってしてくるのかしら?」
「…………」
「そう言えばね、ルックも真の紋章宿してるのね」
「…………おい」
フリックから反応がないので、思った事を口にしていく○○。
それに、フリックがようやく反応する。
「なに?」
「…………お前、ずいぶんルックと仲が良いじゃないか」
フリックは○○の体をくるんとベッドに倒し、それに覆い被さった。
「うん、なーんか可愛いよねルック」
○○はクスクスと笑った。
「…………」
フリックは不機嫌そうに○○を見下ろす。
「え?まさか、ルックに妬いてるの?」
○○は不思議そうにフリックを見上げる。
「……そんなんじゃねーよ。ただ、ルックの扱いに慣れてるなーと思ったんだよ」
フリックはぶっきらぼうに言った。
「フリック」
「なんだよ」
○○は真剣な顔をした。
「大好きよ」
「ーーっ!!!」
○○がにっこりと微笑んだ。
不意を突かれたフリックは顔を赤くした。
「はい!じゃあ食堂行こうよ!お腹空いた」
○○はするりとフリックの下から抜け出してベッドから降りた。
「……はぁ、そうだな」
フリックはため息交じりに微笑んだ。
食事を済ませ、準備をすると、部屋を出ようとする。
「なぁ、○○」
フリックがドアを開けようとする○○に声をかける。
「ん?なに?」
○○が振り返る。
「ここ付いてるぞ、ソース」
「え?!どこ?」
○○は慌ててフリックが指差す口の端を手の甲で拭く。
「違う、こっち」
フリックが○○の頬に手を添えて親指で口を拭く。
「ありが」
とうと続ける時にフリックが○○の唇を奪う。
「ん!」
○○の唇を堪能するフリック。
「はっ」
「はぅ……」
フリックがゆっくり○○を離す。
「な、何も……しないんじゃ……」
○○はドアに背中を預け何とか立っていた。
「こんなの何かした内に入らないぜ」
フリックはニヤリと笑った。
「くっ!なんか、悔しい!」
○○は顔を真っ赤にした。
「くく、そんな顔で睨まれても怖くねーよ」
フリックはもう一度○○の唇を奪った。
「フリックさーーーん!!!おはようございます!!」
「げっ」
部屋を出るとニナがフリックを待ち構えていた。
「あら、ニナちゃん。おはよう」
○○はにこりと笑った。
「…………」
ニナは衝撃を受けた様に固まった。
「あれ?ニナちゃん?」
○○がニナの目の前で手をひらひらとさせる。
「よし、今の内に逃げるぞ!」
フリックは○○の手を掴む。
「女の子一人にさせておけないよ!フリックは行って良いよ」
○○は後は任せてと微笑んだ。
「……わかった。頼むぞ!」
そう言うとフリックは疾風のごとく去っていった。
「……さすが」
○○は少し呆れながらフリックの背中を見送った。
「ねぇ、ニナちゃん?」
○○はもう一度声をかけた。
「はっ!フリックさんは?!貴女は誰?!フリックさんのなに?」
意識を取り戻したニナは次々と質問する。
「フリックなら、ナナミちゃん達の所よ。私は○○。フリックの妻です」
一応そう言う設定を思い出すとそう頭を下げた。
「ふ、ふぇーーーん!!!」
ニナはそれを聞くと大声で泣き始めた。
「あらら、泣かせちゃった」
○○は困った様に笑った。
「み、認めないわ!貴女がフリックさんと夫婦だなんて!」
ニナがキッと○○を睨み付けた。
「うーーん。そうね」
○○は悩みながら言った。
「……でも、フリックには私よりももっと大切な人がいるのよ?」
「もっと……大切な人?」
ニナはえぐえぐと泣きながら聞き返した。
「うん。フリック本人に聞いてみたら?」
○○はにっこりと笑った。
「……な、なんで」
「ん?」
「なんで○○さんは私にそんな事言うの?」
ニナは不思議そうに聞いた。
「うーん、恋をするってね、私は良い事だと思うの。結果はどうあれ、恋愛って常に人を成長させるわ」
○○はにっこりと笑った。
「私は可愛いものの味方だもの」
○○はクスクスと笑った。
「じゃあ、私がフリックさん取っちゃっても?」
ニナはそう強い瞳をした。
「ふふ、あげる気はないわよ」
○○はニヤリと笑った。
「っ!!フリックさーーーん!!!私、負けないわーーー!!」
ニナはまた元気良く飛び出して行った。
「あら、火に油ね」
○○はクスクスと笑った。
[ 56/121 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]