55
「さて、私も落ち着きますか」
○○は保護者寮に入ろうとする。
「っ!!」
「しーっ!」
急に口を後ろから押さえられた。何事かと見ると、フリックに後ろから捕まり、手で口を押さえられ、草影に飛び込んだ。
「フリックさーーーん!!!どこーーー?!」
ニナが近くを過ぎ去って行った。
「はぁ……」
「モテモテね、フリック」
ため息をつくフリックに○○はクスクスと笑った。
「お前、他人事だと思って……」
フリックは○○を睨んだ。
「そんな事ないわよ。他の女の子ばかり見てたら、私も浮気しちゃうわよ」
○○はクスクスと笑った。
「……楽しんでるじゃねーか!」
フリックは小声で怒鳴った。
「さて、寮に入ろう。みんなは学生寮へ行ったよ」
○○がニナがいない事を確認して、外へ出た。
「そうだな。部屋までは追って来ないだろう」
フリックもやれやれと立ち上がる。
「部屋はひと部屋しかないのよ。まぁ、夫婦なら良いわね」
寮の受付の女性に言われた部屋に入ると、そこは割と広い部屋だった。
しかし、ベッドは大きな物がひとつだけだった。
「んー!疲れた。私、先にお風呂入って来る!」
○○は荷物をあらかた整理すると、風呂場へと向かった。
「あぁ」
フリックは頷くとソファーに腰を下ろす。
旅の疲れを癒して風呂から上がると、フリックが代わりに風呂へと入った。
「……ベッド一台……か」
○○はため息をついて、ベッドに転がった。
気が付くと、うとうととしていたらしい。
風呂場からフリックが出て来た音に目を覚ました。
「悪い、起こしたか?」
フリックは○○の様子をうかがう。
「ううん、お腹も空いてるから丁度良い」
○○は眠たい体を何とか起こした。
「なら、食堂行くか?」
「うん」
○○は素直に頷いた。
食事を済ませ、再び部屋に入ると○○はベッドに倒れ込んだ。
「うー、疲れた。眠い」
○○は目を擦る。
「眠いなら、寝ろ」
フリックはベッドに乗っている枕と毛布をひとつずつ持つ。
「?何してるの?」
○○は不思議そうにフリックを目で追う。
「こっちで寝るんだよ。まさか、同じベッドには寝られないだろ?」
フリックはソファーに枕と毛布を投げた。
「えー、大丈夫だよ。一緒に寝ようよ」
○○はベッドにうつ伏せで寝て、顔をあげた。
「は?お前、酒も飲んでないのに酔ってるのか?」
フリックは眉間にしわを寄せる。
「そんなに毛嫌いしなくても……」
○○は落ち込んだ様に項垂れる。
「いや、嫌ってる訳じゃなくてだな……」
フリックは慌てながら頭をかいた。
「……大丈夫。襲ったりしないから」
○○はにっこりと笑った。
「おまっ!……それは女の台詞じゃないだろ?」
フリックが呆れながら○○に近付いた。
「だって、フリックは私に興味ないんだから、そうなるでしょ?」
「あ?」
○○は困った様に笑った。
「私は良いよ?……フリックになら、何されても」
○○は柔らかく微笑んだ。
「……何言って……」
「だって、前にも言ったけど、私、フリックの事好きだもん」
○○は少しスッキリとした顔をした。
「え……」
「フリックはこの気持ちが迷惑なだけかも知れないけど、やっぱり一度認めちゃうと、辛いね」
○○は苦笑しながら言った。
「フリックの事、気持ちに整理が付くまでは、好きでいさせてね」
○○は泣きそうな顔で笑った。
「………………待った……」
フリックは片手で顔を押さえて、片手で○○の前に掌を見せた。
「ん?」
○○は不思議そうにフリックを見上げる。
「……お前が俺の事?」
「うん、好き」
フリックは混乱しながら、聞いた。
「前に言った?」
「うん、フリックが酔ってた夜」
○○が頷いた。
「え?あの日、俺はお前を縛って無理矢理……」
フリックは恐る恐る聞く。
「うー、ううん。あの日、フリックが私の事を「キスも抱きたいと思うのはこの世の中でお前だけ。好きだ」って言ってくれたの。それで、私もフリックが好きって……」
○○の言葉にフリックは赤くなっていく。
「あ、でも、フリックすぐ寝ちゃったから、その後は何もなかったよ!えっと……キスはしたけど」
○○は付け加えた。
「…………」
フリックは真っ赤な顔を片手で隠した。
「あ、で、でも、別にちゃんと踏ん切り付けるから!」
○○が慌てて弁解する。
「フリックは今でもオデッサさんが好きなのは分かってるし、それでも良いなぁって思ったけど、フリックにとってはそれも迷惑な話だよね!」
○○は早口で捲し立てる。
「だ、大丈夫!分かってるから。ソファーじゃ、風邪とかひいたら困るし、休まらないし、そう思って。だから、深い意味はないよ?」
○○はあははと乾いた笑いを見せた。
「……そんな気持ち、わかっても困る」
フリックは顔を隠したまま呟いた。
「え?」
「○○のその気持ちに踏ん切りなんて、つけられたら困るっつたんだよ!」
フリックは怒った様に声を出した。
「え?でも……っ!」
フリックは慌てる○○の体を抱き締めた。
「……ふ、フリック?」
○○はフリックに抱き締められて、固まる。
「悪かった。あの日の酔っ払った俺が正解だ」
フリックはそう呟いた。
「お前が、○○が好きだ」
フリックはぎゅっと抱き締める腕に力を込めた。
「え……う……」
○○は思っていなかったフリックからの言葉に涙を溜める。
「まだ、オデッサに似合う男にもなってないが、○○がいてくれたら、なれそうな気がする」
フリックは切なそうに声を出した。
「わ、私もフリックが……好き」
○○は涙を流した。
「○○……」
フリックは触れるだけの口付けを贈る。
「……フリック、どうしよう……」
○○は不安そうにフリックを見上げる。
「どうした?」
フリックはただならぬ気配に○○の顔を覗き込む。
「私ね、フリックにフラれたと思ってたから、シュウ軍師とあんな約束したのに。これじゃあ、知将にも猛将にも会えない、U主くんを守れないよ!」
○○は焦った様にフリックに訴えた。
「初めっからあんな奴等に○○を渡すわけないだろう」
フリックは真剣な顔をした。
「……でも、私、もしもの時は……」
○○はフリックの服を掴んだ。
「ダメだ。もう○○は俺のモノだぞ。勝手に他の男に触らせるなよ」
フリックは眉間にしわを寄せた。
「……うん、善処します」
○○は、苦笑しながら 言った。
「……で、フリックはどこで寝る?」
○○は再びベッドに寝転がると、フリックのスペースをあけた。
「……」
フリックは無言でソファーに置いた枕と毛布を持ってきた。
そして、○○の横に寝転がると、背中を向けた。
「……フリック?」
○○は不思議そうにフリックの背中を見つめる。
「……今は任務中だからな。これ以上はしない」
フリックはそう言った。
「……………………くぷぷ」
○○は声を殺して笑った。
「フリックって、真面目!でも……そんな所も好きよ」
「っ!!」
○○はフリックの背中におでこを付けて呟いた。
「お休みなさい、フリック」
「あぁ」
○○もフリックに見習って、フリックに背中を向けた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………やっぱり○○、ちょっとだけ……」
フリックがそう振り返ると、
「すーすーすー」
○○は気持ちよさそうに寝息をたてていた。
「………………はぁ、お休み○○」
フリックは○○のおでこに口付けをすると、寝る事にした。
「……やべえ、眠れなくなった……」
フリックは夜中盛大なため息をついた。
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