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「ここがグリンヒル!大きいね」
ナナミは少し離れた場所からグリンヒルの入り口をうかがった。
「もう!あんまり見てると怪しまれるよ!」
テンガアールがナナミを引っ張る。
「そうだよ、ナナミ。少しは落ち着いてよ」
U主はそう言いながらウズウズとグリンヒルの門の方を見ていた。
「似てますね、さすが兄弟」
ヒックスは苦笑しながらU主とナナミを見た。
「……馬鹿なだけだよ」
ルックは相変わらず冷めた目で見ている。
「はぁ……先が思いやられるぜ」
フリックはため息をついた。
「ふふ、大変ね。フリック先生?」
○○はクスクスと笑った。
「悩みの半分はお前だ」
フリックは呆れた様に呟いた。
「え、そんなに?」
○○はキョトンとフリックを見た。
「大丈夫よ!死にはしないから」
○○は笑った。
「…………」
フリックはじとっとした目で○○を見る。
「フリックったら、本当に心配性ね」
○○は嬉しそうに笑った。
「お前ね……」
フリックはため息をついた。
「U主殿、 なんとか間に合いました。 フリック殿、 これが入学のための書類です。3年前から入学することになってた事にしてあります。途中、戦乱で足止めをくらっていたと答えてください」
フッチャーが現れて、書類をフリックに渡した。
「 あ、ああ……なあ、フィッチャーおまえ口がうまそうだから役目をかわってくれないか?どうにも性があわなくて」
フリックがフッチャーに困った様に笑った。
「○○さんの夫役は楽しそうですが、そうはいきません。グリンフィルに私の顔を知る者が多いですから」
フッチャーはフリックの願いを退けた。
「やっぱり、行くしかないか。それで、もぐりこんだ後はどうするんだ」
フリックはやれやれとフッチャーに聞く。
「今、テレーズさまのいどころをさぐってもらっています。わかりしだい、何かの方法で知らせますのでそれまで待っていてください」
フッチャーは生真面目にそう言った。
「ああ、わかったよ。さぁて、いくかリーダー」
「フリックさん!!!!リーダーなんて呼んだらすぐバレてしまいますよ!この書類、名前のところはあいてますから 何か偽名をつくっておいてください。それじゃ、おねがいしますよ」
フリックの言葉にフッチャーは怒った様に声を出す。
「どうするU主。どんな名前にするかおまえが決めてくれ」
フリックは面倒そうにU主に言う。
「うーん、坊っちゃん!!」
U主は嬉しそうに言う。
「……他にしろ」
フリックはため息をついた。
そして、みんなの偽名を決めた。
ちなみに、フリックの偽名はブルーサンダーと名付けたが、偽名はいらないと退けた。
「グリンヒルはいま、軍団長さまの命により、用のない者を中にいれることはできん」
門番がU主一行の前に立ちはだかる。
「一応、用はあるんだが……」
フリックが呆れた様に書類を出した。
「なに……入学希望者? ほーーー、こいつらが学院にか? 」
門番は訝しげに書類を見た。
「ああ、3年前から書類は出していたんだが、戦争だか、なんだかがあったんだって?まったく、良いとばっちりをくらってさ。 こっちは、カナカンの田舎から出てきてるってのに」
フリックはやれやれと声を出した。
「で、おまえは? 先生って顔でもないし、子だくさんの父親、ってわけでもなさそうだが」
門番がジロジロとフリックを見た。
「だれがこいつらの父親なんだよ。俺はそいつらの親たちに、ここまでの引率と用心棒のために雇われたんだよ」
フリックが呆れた様に門番を睨み付けた。
「ぷっ!」
○○は耐えきれずに笑い出した。
「……おい、○○」
フリックは呆れた様に○○を見る。
「だ、だって、フリック子沢山!!」
○○は笑いを堪えきれずに、ルックの肩にすがり付く。
「……馬鹿じゃないの?」
ルックが冷たく言うが、特に○○を退かせるつもりはないようだ。
「照れない、照れない」
「照れてない!!」
○○はクスクスとルックを見る。
「……お前は?」
門番は○○を見た。
「俺の嫁さんだ」
フリックは仕方なく親指を指した。
「そうか。書類は本物みたいだな。よし、入れ。だが、くれぐれももめごとはおこすんじゃないぞ」
門番はそう言うと書類をフリックに渡した。
無事にグリンヒル内へ入った。
「さぁて、知らせが来るまでは……そうだな、まずはお前らの入学書類を出しに行くか。おい、迷子になるなよ」
フリックはナナミ達を振り返る。
「だれが、迷子になるっていうのよ。そんな子供じゃないわよ」
ナナミがそう腰に手を当てた。
「ほら、いいから、行くぞ」
フリックはやれやれと声を出した。
グリンヒルの学校へと続く道で、制服に身を包んだ金髪の少女とハイランド軍の兵が揉めていた。
「ふん! 人のことエッチな目つきでながめるから よ。自業自得だわ!!」
勝ち気な少女はそう兵士を睨み付ける。
「いいかげんにしないと、女子供といっても容赦しないぞ!」
兵士は怒鳴りあげた。
「容赦しない?どうするつもり?え?何をするの?」
少女は負けじと兵士に怒鳴った。
「え…えっと……それは……」
兵士は少女の勢いに押され気味だ。
「なんだ、あれは?」
フリックは少し呆れながらそのいさかいを見た。
「えーーー、うそ、うそ、U主、なんで助けないのぉ!それでも男の子なの?」
ナナミはおろおろするU主を怒る。
「ここで目立って捕まったら、 全ておしまいだからな。ほら、行くぞナナミ、○○」
フリックは○○の腕を掴むと引きずる。
「待て、逃げる気か!」
兵士の声が少女を追って近付いて来た。
「フーーーーーンだ!あんたたちなんか、うちのお兄ちゃんが やっつけちゃうんだからね!」
少女はフリックの後ろに隠れた。
「お兄ちゃん!」
○○は驚いてフリックを見上げる。
「お、おい、ちょっと待てだれが……………」
フリックは慌てて自分の後ろに隠れた少女の姿を追いかける。
「なんだぁ、今度はおまえが相手か? 」
兵士がフリックと対峙する。
「こんな女…………」
「そうよ! あんたたちなんか、ケチョンケチョンにやっつけてやるんだから!!」
知らないとフリックが言おうとすると、少女はフリックの後ろからべーっと舌を出す。
「ふん!何言ってやがるそんなダサいなまくら剣で何ができるってんだ!!!」
兵士はフリックの腰に下がる剣を見た。
「うわ!ダメ!逃げて!」
○○が慌てて声を出すが、時すでに遅し。
「…………!!! おい、おまえ。こいつがなまくらかどうか、試してみるか?」
フリックは声低く、怒気をはらんだ声を出した。
「え?そ、それは……」
さすがの兵士も、フリックの殺気に気圧される。
「その首で試し斬りしてもいいんだぞ」
フリックは愛剣【オデッサ】を抜くと、ニヤリと笑った。
「ちっ、くだらねーーー、こんなことやってられないぜ。おまえら、今日のところは見逃してやるぜ」
強がる声を出すが、冷や汗は止まっていない様だ。
「それは、ありがとさん。ほら、行くぞU主…… じゃないや」
フリックは誤魔化しながら、○○の手を引く。
「目立つなとか言って、自分が一番目立ってるー」
ナナミはニヤニヤと笑った。
「うるさい!ほら、行くぞ!!」
「え??? あ………… 」
少女は、去っていくフリックを見つめた。
「フリック……」
「なんだ?」
「恋に落ちた音を聞いちゃった」
「はあ?」
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