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U主の意思は強く、同盟軍のリーダーに正式に決定した。

改めてこの元ノースウィンドゥ市が正式な同盟軍新本拠地となり、城の名前もアシタノ城と決まった。

そして、レックナードと、その弟子ルックが現れ、約束の石盤なる物を残してレックナードは再び消えた。





「……何度見てもない……か」

約束の石盤には○○の名前は刻まれてはいなかった。

約束の石盤にはU主を始め、ナナミや軍師のシュウ、名医のホウアンなどが載っていた。もちろんビクトールやフリックもその名はある。

「……トウタくんまであるんだ。あ、リィナちゃんもアイリちゃんも」

○○は面白くなって、約束の石盤を隅々まで見た。

「よく飽きないね」

呆れ気味の生意気な声が聞こえた。

「えっと、ルックくんね?私は○○は宜しく」

○○はルックににこりと笑った。

「……別に聞いてない」

ルックは可愛い顔をプイッと子憎たらしく背けた。

「……」

○○は少々このルックの扱いに困っていた。
見た目は美少女と間違うくらいの美少年。しかし、性格は極めて悪い。

「……ねぇ、約束の石盤って仲間になったら、名前が刻まれるの?それともルックくんが彫るの?」

○○は世間話をする様に話しかける。

「彫らないよ。頭悪いの?」

可愛らしい顔が毒を吐く。

「……じゃあ、不思議なのね」

○○は負けじとにこりと笑った。

「……何度見ても無いものは無いよ」

ルックは冷たく言い放った。

「ふーん」

○○はすでに自分の名前が無いのは気にしていないようだ。

「…………気にしないの?」

ルックは興味なさそうに呟いた。

「ん?何が?」

○○は約束の石盤から目を離し、ルックを見る。

「無いんだろ?名前」

ルックは小さく呟いた。

「気にならないよ。子供じゃないし。別に名前が無いから必要とされてない訳じゃないしね」

○○はにっこりと笑った。

「ふーん」

ルックは持っていた本に視線を落とした。


2人とも話す事がなくなり、お互いに別々の事をする。


ふと、○○は目を閉じたままルックを見た。

「ねぇ、ルックくん」

「なんの用?」

ルックは名前を呼ばれて面倒臭そうに顔をあげた。

「ルックくんは真の紋章持ち……とは、少し違うの?」

○○は不思議そうに聞いた。

「…………どういうこと?」

ルックは○○を睨み付けた。

「なんて、言うか……ルックくんの紋章って、ルックくんに絡み付いて見えるから」

○○は素直にそう言った。

「…………ってか、なんで真の紋章持ちって知ってるのさ?」

ルックは不機嫌に聞いた。

「あ、えーっとね。私、真の紋章が分かるの。目を閉じると見えちゃうんのよ」

○○は目を閉じたままルックを見る。
すると、ルックの魂の様な物も一緒に見え、それに紋章が絡み付いて見えるのだ。

「…………変なの」

ルックは本に視線を落とした。

「そうだよね。やっぱり変だよね」

○○はクスクスと笑った。

「で?それは何の紋章か聞いても良い?」

○○はルックの隣に腰を下ろした。

「……勝手に隣座らないでよ……」

「照れない、照れない」

不機嫌なルックに○○は笑いかける。
○○はルックの扱いが段々とわかってきた。

「……照れてない」

「で?なんなの?」

○○はルックをじっと見つめた。

「……真の風の紋章……」

ルックは根負けした様に呟いた。

「へぇ!風の紋章なんだ」

○○はにこにこと笑った。

「なに?その笑い方。気持ち悪いよ」

「照れない、照れない」

「照れてない!」

ルックの毒にも○○はサラリとかわした。

「さっきのレックナードって女の人も真の紋章持ち?」

○○はルックを覗き込む。

「見えたんでしょ?」

「うん」

「なら、そうじゃない?」

ルックは冷たくそう言った。

「何だろう。あ、扉みたいな……違うかな。どっちかって言うと……門……かな?」

○○は見えた物をルックに説明する。

「……本当に見えるんだ」

ルックは珍しく興味を持つ。

「あ、合ってるの?」

○○はルックを振り返る。

「真の門の紋章、裏。頭悪くても門の紋章戦争聞いた事くらいあるでしょ?」

ルックは言葉は冷たいが、そう説明する。

「うん、3年前のトラン共和国の戦争ね?」

○○は頷いた。

「それの元になった紋章をレックナード様が宿してる」

ルックは頷いた。

「へー!じゃあ、ルックくんやレックナードさんもビクトールやフリック達と一緒に3年前の戦争に参加した仲間なのね!」

○○は嬉しそうに笑った。

「そうだね。熊はそのままだけど。青いのは青臭さが無くなったかな」

ルックは興味なさそうに呟いた。

「熊に青いの、か」

○○は苦笑した。

「さ、て、そろそろ私も仕事に戻ろうかな」

○○はうーんと、伸びをした。

「すぐそこの酒場でご飯作ってるから良かったら食べに来てね」

「……うん」

○○のにっこり笑顔にルックは頷いた。

「じゃあ、色々と教えてくれてありがとう。楽しかったわ」

○○はルックに手を振ると、酒場へと向かった。

「…………」

ルックは吊られて手を振りそうになるのを慌てて下ろした。

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