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「……う……いて」

フリックは頭の痛みで目を覚ました。
カーテンから漏れる光は早朝を表していた。

「朝か……気持ち悪……」

呑み過ぎからくる二日酔い。
フリックは目を閉じると寝やすい様にモゾモゾと動く。

「……?」

手に当たるのは温かいすべすべとした柔らかな感触。

そして

「……ん……」

女の声が耳元で聞こえた。

一気に覚醒するフリックはガバッと起き上がる。

「いたっ……」

また女の声があがる。
フリックは首に巻き付いた柔らかな腕に固まる。

「……………………」

フリックはまだ眠る女の顔を恐る恐る覗き込む。

「………………○○」

フリックは顔を真っ青にして○○の顔を確認した。

「な、なんだ。この状況……。き、記憶が……」

フリックは慌ててキョロキョロと見回した。
どうやら○○の狭い部屋のベッドの上の様だ。

「……ん……フリック?」

「っ!!」

○○は目を覚ました。まだ、目は虚ろとで、とろんとしている。

「……○○、お、俺……」

フリックは冷や汗をかきながら○○を見る。

「……フリック、おはよう」

「っ!!」

○○の微笑んだ顔にフリックは釘付けになる。

「ねぇ。これ、取って?」

○○がフリックの首から自分の腕を取るとフリックに腕を見せる。
そこにはフリックのトレードマークでもある青いバンタナで○○の両手が拘束されていた。

「っ!う……あぁ」

フリックは戸惑いながらも、バンタナを外した。

「はぁ、やっと自由になった」

ヒリヒリと痛むのか、○○はバンタナで縛られていた腕をさすった。

「っ!」

「ど、どうした?」

○○が頭を押さえながらうつ向く。

「あ、うん。昨日泣き過ぎちゃったからかな?頭が痛いの」

○○はそう言って笑った。

「っ!!すまん!」

フリックはベッドの上で頭を下げた。

「え?」

○○は不思議そうにフリックを見た。

「き、昨日の記憶がまるでない」

フリックは頭を下げたまま言った。

「……結構飲んでたもんね」

○○は困った様に笑った。

「お、俺はお前に酷い事をした……のか?」

フリックは恐る恐る聞いた。

「え?あ?うーん、どうかな?バンタナは怖かったけど……」

○○は正直に言った。

「っ!!わ、悪かった!昨日の事は忘れてくれ!」

「え?」

「その、なんだ!昨日俺がしたのは、何かの間違いだ!だから」

フリックは必死に自分のしてしまったであろう酷い事に対して謝罪する。

「……フリックは昨日の事は無かった事に……したいの?」

○○はずきずきと刺さる胸を押さえて聞く。

「そ、そりゃ、出来る事なら……」

「…………」

フリックが恐る恐る頭を上げると○○の顔をみた。

「っ!!」

○○は静かに泣いていた。

「……フリックがそうしたいなら……わ、私……」

○○は両手で自分の顔を隠した。

「っ!○○!俺、責任と」

「別に責任取るような事してないから」

○○はフリックの言葉を遮る。

「分かった。フリックとは今まで通りにする。でも、今はフリックとは楽しくお喋り出来なさそう」

○○はフリックから背を向けて、乱れた服を直した。

「○○……」

フリックは○○の後ろ姿を辛そうに見た。

「ごめ、フリック。出てって……」

○○が言うと、フリックは素直にベッドから降り、○○の部屋を後にした。

「っく……っひっく……」

○○の部屋からは声を押し殺した泣き声が聞こえて来た。

フリックは自分のバンタナをくしゃりと握り潰して、顔を覆った。









日が上がり、皆が起き始める時間。
結局フリックは自分のベッドの上でずっと○○の部屋のドアを見つめていた。
しかし、記憶は一切も戻らなかった。

「くーっ、頭痛え。久々の二日酔いだぜ」

ビクトールが大あくびをしながら起きた。

「お、フリック起きてたのか?」

「あぁ」

ビクトールがベッドに座るフリックを見る。
フリックは目を閉じ、頷いた。


ーーガチャッ


「お、○○。おはよーさん」

部屋から出て来た○○にビクトールが手を振った。

「おはよう、ビクトール!フリック!二人とも、もう飲み過ぎだよ!」

○○はにこりと元気に挨拶をした。

「○○……」

フリックは腰を浮かし、ベッドから降りた。

「ん?なに?」

○○はフリックににこりと笑った。しかし、視線は合わない。

「……いや」

「変なフリック」

○○はクスクスと笑った。

「ビクトール!あんまりフリックに迷惑かけちゃダメだよ。フリックが運んで来たんだからね」

ビクトールに○○は言う。

「そうだったのか。悪いなフリック」

「いや……」

ビクトールの言葉にフリックはとりあえず頷いた。

「それより、○○どうした?目が真っ赤だぞ」

ビクトールが不思議そうに○○を見た。

「あ?これ?聞いてよ!目にゴミが入っちゃって凄く痛かったんの!目も擦ったから。もー、痛くて痛くて……」

○○は困った様に笑った。

「そうか。あんまり擦るとダメだぜ」

ビクトールは立ち上がると○○の頭をぽんぽんと叩いた。

「うん、ありがとうビクトール」

○○は素直に笑った。

「さて、U主の気持ちは決まったかね?俺達は大広間で待つか」

ビクトールがフリックを振り返る。

「……そうだな」

フリックはため息をつくと、頷いた。

「ねぇ、私も行って良い?」

○○はおずおずとビクトールを見た。

「あぁ、これからを決める大事なものだ」

ビクトールはそう言って笑った。

「じゃあ、行くぞ」

「うん!あ、ほら、フリックも行こうよ」

○○はフリックを手招きした。

「あ、あぁ」

フリックは○○の後を追った。

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