46
ようやく○○が暗闇に目が慣れてきた。
自分の部屋からレオナのいる酒場までは一人で行き来出来るようになっていたある日。
「U主達が帰って来たぞ!!」
傭兵の一人がそう叫んだ。
「お、帰って来たのかね。これで、やっと目が治るじゃないかい」
レオナがキセルをふかした。
「良かった!」
○○は嬉しそうに言った。
「大広間に行くんじゃないかい?」
「うん、行ってみる」
レオナの言葉に○○が頷いた。
ダダダダダと、廊下を物凄い速さで誰かが走って来る。
ーーバタン
「○○!」
乱暴に酒場のドアを開けて入って来たのはフリックだ。
「あ、フリック!今ね」
○○がフリックの声に反応した。
「っ!!ちょっ!」
フリックはツカツカと酒場に入り、○○を抱き抱える。
「急ぐぞ!」
フリックはそのまま酒場を飛び出した。
「行っておいで」
レオナは目の見えない○○ににっこりと微笑んだ。
フリックは○○を抱き抱えたまま大広間へと走った。
「あ!フリックさん」
U主はドアを振り返った。
「??なんで○○さんを抱っこしてるの?」
ナナミは不思議そうにフリックと○○を見た。
「ちょっとな」
フリックはゆっくりと○○をU主の前に下ろした。
「……眩しい……。お帰りなさいU主くん、ナナミちゃん、アップルちゃん」
○○は何故か眩しさから目を手で覆う。
「眩しい?」
ビクトールが不思議そうに○○を見る。
「うん、今まで真っ暗だったのに、急に眩しい」
○○は困った様な顔をする。
「え?真っ暗?」
ナナミは混乱しながら聞く。
「……おそらく、輝く盾の紋章のせいだろう」
星辰剣が重々しく口を開いた。
「とにかく、今○○は目が見えなくてな、普通の目薬じゃ効かない。悪いが、お前の紋章で治してやってくれ」
フリックが簡単に説明する。
「あ、はい!【大いなる恵み】」
U主は右手を○○の目に掲げて紋章を発動させる。
「……」
○○はまばたきをすると、キョロキョロと見る。
「見えるか?」
「っ!見えるよ!」
久し振りに見るフリックの整った顔にドギマギとしつつ、答える。
「ありがとう、U主くん」
「お役に立てて良かったです!」
U主は嬉しそうに笑った。
「もー、ずっと暗闇でつまらなかったわ」
○○は辺りを見回した。
「……」
「どうした?」
○○が目をパチパチとしているのに気が付き、フリックが声をかけた。
「……微妙に治ってない」
「え?」
「目を閉じるとまだU主くんが眩しいし、星辰剣様が見える」
○○は困った様に笑った。
「まぁ、真の水の紋章ではないからな。完璧ではないな」
星辰剣が声を出した。
「そ、そうなんですか?」
○○が星辰剣を見る。
「まぁ、特に問題は無かろう。真の紋章が解るだけだ」
星辰剣は言う。
「は、はぁ」
○○は仕方がないと笑った。
「そうだU主
、アップル。 どうだった?軍師さまとは話がついたのか?」
ビクトールが2人を振り返った。
「シュウ兄さんは協力を約束してくれました。 すぐに追いつくはずです」
アップルはにこりと笑った。
「あとは、その軍師さん次第ってわけか。 しかし、信用できるのかねぇ、 破門になったような奴なんだろう……」
「ならば、今すぐこの場より立ち去ってもらおう」
ビクトールの言葉に若い男の声がかぶさる。
「シュウ兄さん!!!はやかったですね」
アップルは嬉しそうに若い男ーーシュウを振り返った。
「支度以外にも用事があったので、馬を飛ばした。途中、3頭もつぶしてしまったがな」
シュウはそうアップルに言うとビクトールを振り返える。
「おい、そこの大きいの。おまえがビクトールか?」
「あぁ……そうだが」
ビクトールは頷いた。
「よく聞け、俺に従い俺の策に従えば王国軍を破るなど容易いことだ。だが、俺のことを信じられなければおまえらは敗れ去るだろう」
シュウは上から目線で言う。
「勝ちたければ、以後俺に対し 疑いを持つような言葉を発するな。 それができないなら、戦いのジャマだ。出ていってもらおう」
シュウは厳しく言い放った。
「………………アップル、こいつが破門になった理由がなんとなく、わかるぜ……」
ビクトールは呆れながらアップルに言った。
「アップルちゃん、私、この人なんか知ってる」
○○はアップルにこっそりと言った。
「え?」
アップルは不思議そうにした。
「ほら、前に言ってた‘軍師様って、偉そうにいつも不敵な笑顔でふんぞり返って自信満々な人なのかと思った’って」
○○は苦笑した。
「……まさしく、です」
アップルも苦笑する。
シュウとフリック、ビクトールは話を続けていた。
「ハイランド軍は自由に動かせる軍は1万ほど。そのうち、1/3はサウスウィンドゥの元兵士、 条件さえととのえば、こちらに寝返らせることはできる。
これがかなえば、こちらの軍勢は5000、対するハイランド軍は7000。勝ち目は充分ある」
シュウは事も無げにそう言い放つ。
「へっ、ペテン師が……あんたの言うことを聞いていると本当に勝てそうな気がしてくるぜ。それで、具体的にはどんな策がある」
ビクトールは楽しそうに笑った。
「フリード、お前は、敵軍に潜り込んでサウスウィンドゥの兵士のあいだに『この戦いがおわったら、降伏した兵士は全員殺される』とウワサを流せ」
シュウはフリードを振り返る。
「わ、わかりました!」
フリードは頷いた。
「あとの者はこの城を守って時間を稼ぐ」
「それで、どうする?援軍が来るあてはない。フリードの流すウワサだけで、サウスウィンドゥの兵が寝返るとも思えんぜ?」
ビクトールがシュウに聞く。
「敵はこの城を包囲するように布陣するはず。こちらは、少数の部隊で敵軍をさけて回り込み、ソロン・ジー本体の背後をつく。
敵の大将を叩けば軍に動揺が起こる。そうなれば、サウスウィンドゥの兵は必ず寝返る」
シュウはそう説明する。
「ちょっと待てよ。ここは、みさきの先だ。包囲している敵をどうやってすり抜けるんだ?」
フリックはノースウィンドゥの地形を思い浮かべながら言う。
「王国軍は今まで、地上の上の戦いばかりで、水上の戦をしたことがない。あちらにとって、湖はジャマ物にすぎん。ソロン・ジーもそう考える」
シュウは一度言葉を区切る。
「だが、こちらにとって湖は見はらしの良い、平地と同じだ。すでに近くの村をまわって、船をかりうける手はずは整っている」
シュウは当然の様に言った。
「手回しが良いですね。なんだか勝てそうな気がしてきましたよ」
ツァイもそう頷いた。
「賭けてみるか、あんたに」
ビクトールも頷いた。
「それで、ソロン・ジーの部隊を叩くのは 誰がやるんだ? まぁ俺か、ビクトールが……」
フリックがシュウを振り返る。
「いや、その役目は別の人間にやってもらう」
シュウは静か言った。
「U主、 きみにこの役目を果たして欲しい」
シュウはU主を振り返る。
「え、そんなこと言われても……」
U主は驚いた様に言った。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってよ。なによ、なによ、勝手に難しい話をしてたかと思ったら、なんでU主がそんな危ない役目を引き受けなきゃいけない の?」
ナナミがシュウにそう言った。
「U主、 きみにこの役目を果たして欲しい」
シュウはナナミを無視する形でそう強く言った。
「わかったよ……」
U主は頷いた。
「ハイランドを……ルカ・ブライトを止めるためのカギはきみの手の中にある。宜しく頼む」
シュウはU主の肩に手を措いた。
「では、すぐに仕事にとりかかってもらおう。フリード、兵士たちを寝返らせるためのセリフをおれが書いておくから……」
「はい!!亡きグランマイヤーさまのためにも!サウスウィンドゥ市民のためにも!!!わたくし!! 全力をもってあたらせてもらいます!!!!」
「あ……ああ、頼む」
フリードの勢いにシュウは少し押された。
「ビクトール、フリック、ツァイは、出来るだけこの城の防備をかためろ。アップルは2000の兵のうち精兵300を選び U主のもとに集めるんだ」
「はい!」
シュウの言葉にアップルは勢い良く返事をする。
「今度こそは勝ち戦といきたいもんだな」
ビクトールは頷いた。
「くさるなよ」
フリックはそう笑った。
そして、ハイランド軍を迎え撃つ手筈は整った。
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