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「え?じゃあ、全く見えてないのかい?」
レオナが驚いた様に声を出した。
「そうなの。もーね、真っ暗。さっきはレオナに会えて良かった」
○○はにこりと笑った。
レオナは酒場を作るんだと張り切っていた。
手を引いてもらってここまでやって来たのだ。
「それはあんたも大変だねぇ」
レオナは○○を案じた。
「まぁね。でも、目が見えない以上に大変なのが……」
「なんだい?」
ーーーバタン
「レオナ!○○を見なかったか?」
扉が開き、フリックが血相変えてやって来た。
「……○○なら」
「しー」
「さっきまでいたんだけどね、出て行った」
レオナは○○が急に座り込んで姿を隠したので、そう理解した。
「そうか」
フリックはそれだけ言うと慌ただしく出て行った。
「目が見えない以上に大変ってのは、あれかい?」
レオナは呆れた様にフリックが消えた扉を見た。
「そう。まぁ、心配してくださるのは、大変嬉しく思うのですが、その、過保護過ぎと言いますか」
「うるさいと?」
「……簡単に言うとね」
○○は苦笑した。
「まぁ、心配でたまらないんだろう?」
レオナはクスクスと笑った。
「……他人事だと思って」
○○はため息をついた。
「確かにまだまだ知らない所だからああやって色々やってくれるのは嬉しいんだけど……。自分の仕事だってあるんだから」
○○は困った様に笑った。
「そうだね。大変な時期だからね」
レオナもため息をついた。
「でしょ?私の世話なんて焼いてないで、大切な事って他にもあるはずなのに……」
「○○」
レオナはにっこりと優しく笑った。
ーーーバタン
「やっぱりいたか!」
再びフリックが入って来ると、今度は○○を見付けた。
「フリック」
○○はフリックの声に反応した。
「ほら、行くぞ!うろちょろされて怪我でもされたら厄介だからな」
フリックはひょいと○○を肩に担いだ。
「ふ、フリック!怖いってば!何かするならその前に言ってよ」
○○はあわわわとフリックのマントにしがみつく。
「悪かった。担ぐぞ」
「遅い!」
フリックは全く悪く思わずにそう言った。
「邪魔したな」
「いいや」
フリック達が出て行った扉を見てレオナは笑った。
「どこに行くの?」
○○は不思議そうにフリックに聞いた。
「部屋だ。片付けたんだ」
フリックは歩きながら答える。
階段を少し登っては歩き、また少し登る。左に曲がり、廊下を行くまた階段を今度は一階分あがる。
そして、部屋の扉を開ける。
「着いたぞ」
フリックが○○を下ろす。
「二階?」
「そうだ」
○○の質問にフリックが頷く。
「まぁ、正確にはここは俺とビクトールの部屋だ」
「え?」
「で、こっちに扉がある」
フリックが○○の手を掴むと、ドアノブを触らせる。
「はい、ここが○○の部屋だ」
フリックがそう説明した。
「フリック達と同じ部屋?」
○○は不思議そうにした。
「まぁな、この部屋だけ妙にデカい物置が付いててな、改造した。お前も目が治るまでは同じ部屋のが安心だろ?」
「なるほど」
○○がドアを触って確認する。
「あ、ちゃんと鍵も付いてる」
「あぁ、ちょっと狭いが、今の○○には丁度良いだろう?」
フリックは○○の部屋にあるベッドに腰かける。
「……フリック、ありがとう……」
○○は困った様に言葉を出す。
「でも、でもね。フリックは戦いで忙しいでしょ?仲間も集めなきゃだし、サウスウィンドゥの兵士だって……。フリックは上に立つ人間なんだから」
○○は項垂れたまま話す。
「だから、私にばかり気を取られないで自分とここに集まった皆の為に……」
○○は言葉を失った。
何故ならフリックに抱き締められたからだ。
「……」
「ふ、フリック?」
フリックが無言のままだったので、○○はオロオロとする。
「……お前が似てるのか……。俺が成長してないのか……」
フリックはそう呟いた。
「……」
○○は戸惑いながらも大人しくしている。
「そうだな。○○の言う通りだ。やるべき事はたくさんある」
フリックは○○を離さないままだ。
「○○の期待に答えないとな。夜にはビクトールが戻るはずだ」
「うん」
「俺は明日には帰って来る。それまで目が見えないから不安だろうが、頑張れよ」
フリックは○○から離れ、両肩を叩いた。
「うん!フリック、頑張って来てね」
○○はにっこりと笑った。
やはり、視線が合わないので、少し心配になりながらも、フリックは何とか振り切る。
「じゃあな、レオナには言っておくからな」
フリックはそう言い残すと部屋を出て行った。
「さて、暇だからこの部屋でもまずは散策しようかな」
○○は自分の部屋を手探りで歩く。
シングルサイズのベッドと洋服ダンス。
中を開けるとどうやら持ってきた服とウェディングドレスも入っているようだ。
下の方にはリュックサックも入れてあった。
手触りでは、どうやらタンス扉の内側には鏡がある様だ。
「昔誰かが使っていた物かしら?」
○○はタンスの扉を閉じた。
次に手で壁伝いに探ると、どうやら窓がある様だ。
何とか開けると、人の声が聞こえた。
「こっちが城の入り口の方かしら?」
○○は人の声を聞いて安心し、窓を開けたままにする。
風も心地よく入って来る。
また壁伝いに探ると、もう入って来たドアだ。
「……手狭ね」
もう、探険が終わってしまった。
ついでとばかりにビクトール達の方の部屋も探険してみる。
壁伝いに探ると、ベッドがあった。それからこちらの方が大きな窓。
壁に何かにかかっていた。
「冷たい……硬い……?何だろう。盾かな?」
他にも槍の様な物がかかっていたりと、装飾品が飾ってあった。
逆の端にはもう一台ベッド。
そして、ドア。
「あれ?入り口?」
そっと開けてみて探ると、どうやらバスルームの様だ。
「あ、トイレとお風呂?良かった。近くて」
○○はホッとする。目が見えないのに遠くまで行く自信はなかった。
そして、洋服ダンス、入り口の扉。
壁伝いはこれくらいだ。
ゆっくり部屋の中央に行くと、大きめなテーブルと椅子が4脚あった。
「……酒瓶が転がりそうなテーブルね」
苦笑しながら部屋の探険を終了した。
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