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○○は逃げる様にその場を離れた。
何故自分がここまでイライラとしてしまうのか、分かっているが気付きたくはなかった。
もし、解っても叶う事はないから。
とは、言ってもフリックとリィナの間に何があったのかは聞きたくなかった。
「はぁ……なんで私が嫉妬なんて……」
○○は困った様に項垂れた。
「○○!!」
「っ!」
フリックが追いかけて来たのが分かり、歩くスピードを速くする。
「待てって!」
「何でよ」
「話があるんだ」
「私は無いもの」
○○はフリックから逃げる。
「俺は別にリィナとは」
「何で一々私に言い訳なんてするのよ!」
○○はイライラしながら言葉をきつくする。
「そりゃ、お前……」
フリックは眉間にしわを寄せる。
「フリックがどこで誰と何してても私には関係の無い事でしょ?!」
「っ!!」
フリックは青雷の名に相応しい速さで一気に間を詰める。
○○の手を捕まえると無理矢理自分の方へ向かせる。
「お前、本気でそれ言ってるのか?!」
フリックは声を低く○○を真剣な目で見つめる。
「だ……だって……」
余りにもフリックの真剣な目に○○は戸惑う。
「だって!!」
○○はフリックの手を振り払うと逃げ出した。
「○○!!」
フリックは○○の背を追う。
「っ!!」
○○は何かに蹴躓いた。
「おい、大丈夫か?」
フリックは○○に近付いた。
「……?あれ?」
○○は慌てた様に手で地面を撫で回す。
「何してるんだ?」
フリックは雰囲気の変わった○○を不思議そうに見る。
「……フリック?」
「どうした?」
フリックは座り込む○○の前に座る。
「ふ、フリック?そこに……いるの?」
○○は不安そうに眉を下げる。
「は?」
「フリック!」
「ここにいるぜ」
○○はフリックの声がする方を向く。
そして、ペタペタと手で地面を撫で、フリックにたどり着く。
「ね、ねぇフリック。何で急に暗くなったの?」
「え?」
○○は不安そうにフリックの方へと顔を向ける。
フリックは○○と視線が合わないと感じた。
「見えない……のか?」
フリックは眉間にしわを寄せて聞く。
「そ、そうなるのかしら……。声は聞こえてるのに真っ暗で……」
○○は不安そうにフリックの服を掴んだ。
「きゃっ!」
フリックは○○を横抱きにし、持ち上げた。
「フリック?」
○○は自分の置かれている状況がわからずオロオロとする。
と、急にフリックが○○を抱えたまま走り出した。
「さっきの何だったのかな?」
傭兵の一人が口を開いた。
粗方配膳が終わった所で、自分達も食べ始めた。
「○○か?」
「そうそう。フリック隊長見たら逃げたよな」
「痴話喧嘩じゃねーか?」
「え?あの2人くっ付いたのか?」
「まだじゃねーか?」
「フリック隊長が我慢出来ずに手ぇ出して避けられてる!」
「……ありえる」
「な?」
「どうかなー。ビクトール隊長ならやりそうだが」
「そうか?」
「え……まさか」
「な、なんだよ」
「隊長2人でって事か……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……まさか」
「だ、だよな」
「わかんねーぞ」
「おい!!」
「「「ひぃーーー!!!」」」
突然聞こえたフリックの声に傭兵達は悲鳴をあげた。
「ビクトールを見なかったか?!」
「…………た、隊長なら、スープ食ってまた城に入って行きましたよ」
「そうか」
フリックはそれだけ聞くと城へと走って行った。
「な、なんだ?」
「なんで○○を抱えてたんだ?」
「「「さ、さぁ?」」」
「ビクトール!ビクトール!!」
フリックは○○を抱えたまま大声で叫ぶ。
「な、何だよ、騒々しいな」
ビクトールはフリックの叫ぶ声に驚きながら出てきた。
「いた!○○が!」
汗だくのフリックを物珍しそうに見ながらビクトールは近付いてきた。
「よお、○○。お姫様抱っこって奴だな」
ビクトールはニヤニヤと気軽に言う。
「ビクトール?」
○○は不思議そうにビクトールの声がする方を見る。
「?どうした?」
ビクトールは視線の合わない○○を不思議そうに見た。
「目が見えないみたいだ」
フリックは簡潔に言った。
「喉の次は目か?バッドステータスかかりすぎだろ。待ってな、確か目薬が……」
ビクトールは笑いながら道具袋を探る。
「おっ!あったぞ!今、さしてやるからな」
ビクトールが○○の顔を触るとピクリと反応する。
「本当に見えてないんだな。っておい、フリック!いつまで抱いてやがる!目薬させないだろ?!」
ビクトールが言うと、フリックは素直に○○をその場へ下ろした。
「っよっと」
「っ!!」
「どうだ?」
「…………見えない」
ビクトールの言葉に○○は泣きそうに答えた。
「おい、ビクトール!」
フリックはイライラと声を荒げる。
「おっかしいなぁ、クスクスで買ったんだぜ」
ビクトールは不思議そうに目薬を見た。
「……あの道具屋……」
フリックは見えない道具屋を睨む。
「ふむ、ビクトール」
「っ!?」
急に第三者の声がして、○○はビクリと震えた。
「おい、星辰剣。いきなり喋ったら○○が驚くだろう」
ビクトールが剣に向かって怒った。
普段なら○○は不思議そうにするが、目が見えないので反応出来ない。
「な、なに?これ?」
目が見えないはずの○○がビクトールの腰に下がった剣を見る。
「見えるのか?」
フリックは勢い込んで聞いた。
「う、うん」
○○が頷くので、ビクトールは仕方なく剣を掲げた。
「娘、お前からネクロードの臭いがする」
剣ーー星辰剣が重々しく口を開いた。
「喋った……」
○○は不思議そうに星辰剣に目を合わせる。
「やい、星辰剣!どう言う事だ?!」
ビクトールはネクロードの名前に反応した。
「娘、奴に噛まれてはいないな?」
「は、はい」
○○は素直に頷いた。
「それならば、一緒に居過ぎたせいだろう。奴の魔力にやられたのだな」
星辰剣はそう説明した。
「魔力に……」
○○は原因がわかり、少しホッとする。
「そうだ。魔力が高かったのが災いしたな」
「なんでお前だけ見えるんだよ」
ビクトールが不思議そうに星辰剣を見る。
「まぁ、奴は腐っても真の月の紋章の持ち主。同じく真の夜の紋章である私だ。私だけ見えても不思議はあるまい」
星辰剣はやれやれと説明した。
「で?どうすれば治る?普通の目薬じゃ効かないぞ?」
フリックがそう詰め寄った。
「そうだな。同じ真の水の紋章なら癒してくれるだろう」
「それはどこにある?!」
「うーむ……確かグラスランドの方に出たと噂があったな」
「グラスランドだな?」
「まだ35年前ほどの話だ」
星辰剣の話にガクリと肩を落とすビクトール。
「だが、先程の小僧が輝く盾の紋章を宿していたな?あれでも大丈夫だ」
「それを先に言え!!」
ビクトールは全力でそう叫んだ。
「U主は?」
フリックが焦り声を出す。
「あ、さっきラダトへ行ったよ」
○○が口を開いた。
「そうだったな」
フリックがため息をついた。
「あ、ありがとうございます、星辰剣さん!」
○○の言葉にギロリと星辰剣が睨んだ。
「…………星辰剣……様」
「礼にはおよばん」
○○がせっかく見える、星辰剣に睨まれ、怯えた。
「ま、まぁ、とにかくU主が帰ってくるまでの辛抱ね」
○○はにっこりとビクトールとフリックがいる方を見て笑った。
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