03

○○の砦での生活が始まって早数週間。

砦で働く人も増えてきた。


妖艶な酒場の店主レオナは部隊編成や伝言板役もこなす。
倉庫番のバーバラはビクトールと同郷のようだ。
後は鍛冶屋にリンネ係も数人。
傭兵の数もかなり増えてきた。

○○は大人数の食事に悪戦苦闘の毎日を送っていたが、ここに来て、やっと慣れてきた。


ビクトールの計らいで、傭兵達も何班かに別れて毎日一班ずつがジャガイモの皮剥きや皿洗い等をやった。


そんなある日



「ごちそうさん!」

今日も昼食が終わり、自分の食べた皿が乗った盆をカウンターに置いていく。






「あ!ちょっと!貴方!ちゃんとお盆持ってきてよ!」

○○の怒った声が食堂に響いた。

「あぁ?!」

食べ終わった膳を片付けずに食堂を出ようとした傭兵がどすの効いた声を出した。

「あぁ、じゃなくて、お盆!」

○○は怯まずにその傭兵にしょうめんから向く。

「なんなんだ!たかがコックの癖に俺に命令する気か?!」

傭兵はイライラと声を荒げた。

「命令じゃないわ。ルールでしょ?みんな自分の食べた物なんだから自分でちゃんと片付けてよ」

○○は冷静に傭兵を見据えた。
回りはどうなるかと興味津々に様子を見ていた。

「あぁ?!なんで俺がジャガイモの皮剥きしたり皿洗いしたりするんだよ?!その上盆を下げろだ?!ふざけるな!」

傭兵は怒りに任せて○○の胸ぐらを掴んだ。

「貴方は食事を適当に考え過ぎだわ」

○○はあくまで冷静な態度だ。

「俺達は傭兵なんだ!雑用なんざやってられるか!」

「雑用だって大切な仕事でしょ?」

「じゃあ、お前がやれ!」

「私には食事を作る仕事があるわ。自分で全部出来るならジャガイモの皮剥きも他の人に頼まないもの」

「なんだと!」

傭兵は○○に手を降るあげた。

(殴られる!)


だが、痛みはいつになっても来なかった。

(?)

そろりと目を開くとフリックが傭兵の腕を掴んでいた。

「止めておけ、相手は女だぞ」

フリックは無表情で静かに声を出した。

「ふん!副隊長様のお出ましか」

傭兵は掴まれた腕を振り払った。

「何の騒ぎだ」

フリックは冷静に声を出す。

「へ、この女が生意気なんでね」

傭兵は悪びれずにフリックを睨み付ける。

「生意気?」

フリックは無表情のまま○○を見る。

「や、ただ、自分で食べた物を片付けてくれないから注意しただけ」

○○はフリックの表情に怯みながらも声を出した。

「なら、お前が悪い。最低限のルールくらい守れ」

フリックは傭兵に冷たく言い放つ。

「……あんた、なんなんだ?」

傭兵はイライラとフリックを睨み付ける。

「あんた、いつも偉そうに。ここの副隊長だかなんだか知らないけど、さして強そうにも見えないが……それに」

傭兵はチラリとフリックの剣に視線を落とす。

「生まれた国の習慣だかなんだか知らないが、剣に女の名前なんぞつけやがって」

傭兵にニヤニヤと嫌な笑いを浮かべた。

「あーあ、あいつ地雷踏んだな」

「ビクトール!」

いつの間にか来ていたビクトールに腕を掴まれ、フリックと傭兵との間に距離が出来た。

「今……何て言った……」

「へぇ、副隊長様お怒りですか」

「我が剣≪オデッサ≫を愚弄するなら、この剣の錆びになるが良い!!」

○○は今までに見た事の無いフリックの怒りにゾクリと身を振るわせた。

「よし!俺が勝ったらこの傭兵団は俺が指揮する!」

傭兵はニヤリと笑うと真剣な表情をした。

「び、ビクトール!あんな事言ってる!」

「大丈夫だって、フリックが負けると思うか?まぁ、見てな。それに良い頃合いだ」


ーーガコン!


「キャッ!」

傭兵が椅子を蹴り飛ばした。それを合図にフリックは剣を引き抜き素早く間合いを詰める。
フリックは上段から袈裟斬りを叩き込む、が、傭兵は辛うじて剣で払いのける。
弾かれた剣を素早く建て直し、横から垂直に脇腹を狙い剣を振る。

「チッ!」

傭兵は剣の柄でなんとか止めるが、フリックはそれを読み、空いた反対側の肩に剣を叩き込んだ。

「ぐはっ!」

傭兵は肩をおさえてうずくまる。

「それくらいの強さで俺に挑もうとしたのか」

フリックは冷静さを取り戻し、剣を拭って鞘に納めた。

「……」

「闘いってのは、いつどんなモノかは本人による。○○だって、毎日毎食俺達の為に食事を作ってるんだ。それを手伝う位でガタガタ言ってんじゃねぇ!」

フリックは冷静に言い放つ。

「わ、悪かった……」

「俺に言ってどうする」

傭兵の謝罪にフリックは言う。
傭兵は○○に向き直り、土下座をして床に額を押し付けた。

「悪かった!最近、闘いも無いし、雑用ばかりで飽き飽きしてたんだ!許してくれ!!」

傭兵は土下座のまま声を出した。

「あ、うん、良いよ!私ももっと美味しい物作るように頑張るね」

にこりと笑うと傭兵は顔を上げて安堵の表情をした。

「さすがー!」

「フリック副隊長!」

「一生付いて行きます!」

フリックの強さに感動した傭兵達が次々に声を出す。

「何言ってやがる!お前等○○が殴られそうでも止めなかっただろ!!お前等全員連帯責任だ!!砦の表100周して来い!!」

フリックは回りの傭兵達に怒号をあげた。

「ひー!」

「えー?!」

「返事は?!」

「「「は、はい!!!」」」

フリックの大声に傭兵達は急いで表に出て行った。
先程の傭兵はちゃんと盆を片付けた。

「あ、ありがとうフリック」

○○は恐る恐るフリックに近付いた。

「あぁ。まぁ、そろそろ不満も出る頃だと思っていたからな」

「え?」

「傭兵の本分は戦闘だからな。いくら訓練してても物足りないもんさ。だから、誰かしらに当たりたかったんだろう。怖い思いさせたな」

フリックがぽんぽんと○○の頭を叩く。

「っ!」

○○は顔に熱が集まるのを感じた。

「どうした?」

フリックが不思議そうに○○の顔を覗き込んだ。

「あ、ううん!さっきの、急に怖くなって!」

○○は誤魔化すようにそう言った。

「そうか、こんな時は今度からすぐに俺かビクトールに知らせろ。○○じゃ傭兵になんて勝てないからな」

「そうだぞー、無理はするなよ」

フリックとビクトールは優しく○○に声をかけた。


「うん、ありがとう」

○○は少しだけ胸の高鳴りを感じていた。

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