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「……これって……」
「な?何にもないところだろ?」
ナナミの声を聞いてビクトールは笑った。
「ご、ごめんなさい!」
ナナミはビクトールに謝った。
ノースウィンドゥは荒れ果てた古城がたたずむ場所だった。
人の気配はなく、もちろん生活感もない。
あるのは無数の古ぼけた簡素な墓だ。
「なに!気にするなよ。もう三年前に終わったんだ」
ビクトールはポンポンとナナミの頭を叩いた。
「さーて、何にもない所だが、人が消えるのはきな臭いな。少し見て回ろう」
ビクトールはそう言うと先頭に立って歩き始めた。
「……何やってるんだ?」
ビクトールは手を合わせて目を閉じる○○を見た。
「みんなビクトールの知り合いでしょ?挨拶!」
○○は昔にビクトールが立てた簡素な墓に手を合わせていたのだ。
「そうか」
ビクトールは柔らかく笑った。
「ほれ、置いてくぞ!全部の墓にやるつもりじゃないだろ?!」
ビクトールはそう笑った。
「あ!待って!」
○○は慌ててビクトールの後を追う。
軽く一周するが、何もない。
「特に変わった様子は無いが……」
ビクトールは不思議そうに振り返る。
「なにやら騒がしい」
一瞬にしてその場の気温が一気に下がったかの様な、ゾワッと嫌な声が響く。
「だ、誰だ!?」
ビクトールが振り返り、声の主を探す。
「あ、あそこ!!」
U主の指す方向を見ると、そこには大きな黒いマントを纏った男が立っていた。
「ま、まさか……、そんなはずは……」
ビクトールは驚愕の表情をし、冷や汗を流した。
「うるさいので見に来れば……見た事のある顔だな」
男はねっとりとした話し方で声を出す。
「え?知り合い?」
ナナミが不思議そうに声を出す。
「…………ネクロード!!貴様!何故生きている?!」
ビクトールは野獣の様に敵意剥き出しで吠える。
「ね、ネクロードって、吸血鬼?だって、三年前に倒したんじゃ……」
○○はビクトールの怒りの表情に不安を感じる。
「そのはずだ!」
ビクトールはネクロードに向けて叫ぶ。
「あぁ、忌々しい。あの星辰剣とお前には世話になった」
ネクロードは露骨に嫌そうな顔をした。
「せいしんけん?」
○○は不思議そうに呟く。
「おい、逃げるぞ!こいつには普通の攻撃は効かない!!特別な武器が必要だ!」
ビクトールが叫ぶ。
「では、手土産を」
ネクロードは手を上げると、墓から死体がぼこぼこと涌き出る。
「っ!!」
ビクトールが驚愕の顔をした。
「な、なんだい!一体!!」
アイリが怯えた様に叫ぶ。
「見知った顔でもいたか?」
ネクロードはにたりと笑った。
「貴様ぁぁぁ!!!」
ビクトールがネクロードに叫ぶ。
「ビクトール!」
○○の叫び声にビクトールはハッと我に返る。
「フリード!逃げるぞ!」
ビクトールは冷静にフリードに指示を出す。
「は、はい!」
フリードは近くにいたU主の手を引く。
「で、でも!このままじゃ!」
U主は構えたトンファーを下ろす。
「良いから逃げるぞ!」
「ほぅ、我花嫁に相応しい女がいるではないか」
ネクロードの言葉にビクトールの頭には三年前の出来事を思い出す。
当時の花嫁候補はフリックの生まれ故郷、戦士の村の村長の娘、テンガアール。年はナナミやアイリほどの15才だった。
「ナナミ!アイリ!!」
ビクトールが2人を庇う。が、
「きゃっ!!」
「○○さん!」
フリードの焦った声が背後から聞こえた。
○○は突然現れた蝙蝠の大群に捕まったと思ったら、みるみる内にネクロードへと姿を変えた。
「ふふ、ビクトール。そんなに驚く事はないだろう。女性は元々男より魔力が高い。我真の月の紋章が力を増す。我花嫁には魔力が高い女性が相応しい」
ネクロードは長い舌で○○の首筋を舐める。
「っ!」
「貴様ぁぁぁ!!!」
ビクトールは怒りに刈られ、ネクロードと対峙する。
「び、ビクトール!」
○○は叫ぶ。
「○○!今助ける!」
「違うでしょ!?」
ビクトールの言葉に○○は恐怖を感じながらも否定する。
ビクトールは眉をひそめる。
「こいつには普通の攻撃は効かないんでしょ?なら貴方のやる事は?!れ、冷静になって!!!」
○○が叫ぶと、ビクトールは歯を剥き出しのまま止まった。
「ほう、面白い女だな」
ネクロードはにたりと笑った。
「……必ず迎えに来る!!」
ビクトールはナナミとアイリを担ぎ上げ、くるりと踵を返す。
フリードも暴れるU主を背負って走る。
「ふふ、今は逃げると良い」
ネクロードは平然とビクトール達を見送った。
「さぁ、我花嫁」
ネクロードは○○を連れて、ノースウィンドゥの古城へと飛んだ。
「っ!!!」
○○はあまりの高さに恐怖を感じたがらネクロードに掴まるのは嫌で、なんとか持ちこたえた。
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