37
「では、参りましょう!」
フリードはキリリと声を出した。
「ノースウィンドゥはここから北西方向だ。まぁ、道が続いてるから迷うことはないだろう」
ビクトールはそう言うと空を仰いだ。
「このままだと、どこかで一泊キャンプだな」
日はまだ高いが、そう言った。
「よーし!じゃあ、張り切って行こう!」
ナナミが元気よく声を出した。
「……なんか、ガキのピクニックみたいだな」
やれやれとビクトールが前を行く3人の少年少女を見た。
「良いじゃない。気が滅入る事もないし?」
○○はにこりと笑った。
「そちらじゃないですよ!」
さっそく道を間違える3人にフリードが追い付いた。
「ったく。……悪かったな」
「何が?」
キョトンと○○がビクトールを見上げた。
「いや、○○が着いて来たのは……」
ビクトールはそこで口を閉じた。
「さぁ?」
○○はにっこりと笑った。
「でも、普段表に表情を出さない人の弱いとこ見ちゃうと気になるじゃない?」
○○が真剣な表情をした。
「……」
「まぁ、私には側にいる事しか出来ないけど」
○○は少し寂しそうにした。
「おら」
ーーペチン
「痛っ!」
ビクトールががははと笑いながら○○を叩いた。
「お前は良い女だな!」
「今更解ったの?」
○○はニヤニヤと笑った。
「ビクトールさーん!○○さーん!遅いよー!」
ナナミ達は走ったりとしていたので、すでに遠くにいた。
「はーい!行こう!ビクトール!!」
○○はビクトールの腕を掴むと走り出した。
戦闘はビクトールとフリードが前に立ち、U主とナナミも戦い、アイリと○○がサポートすると言う形だ。
「良い匂い!」
U主が焚き火に乗せられれ鍋から香るシチューに身を乗り出した。
「さすがは本職ですね!」
フリードもニコニコと笑う。
「うん!出来た!まぁまぁ、褒めるのは食べてからにして」
○○は上機嫌でシチューを皿に乗せ配る。
「良い匂い!いただきまーす!」
ナナミが元気よく声を出し、シチューを食べ始める。
「美味しい!!」
U主ははぐはぐとシチューを口にいれる。
「久し振りに上手いな!」
ビクトールも上機嫌でシチューを食べ進める。
「姉さんが作るより美味しいよ!」
アイリも大満足で食べる。
「ヨシノの作る物も美味しいのですが、やはり……」
フリードも気に入ったのがパクパクと食べる。
「ヨシノ?」
ナナミが不思議そうに聞く。
「あ、あぁ。私の妻です」
フリードは照れながら言った。
「へぇ、結婚してるんだ」
アイリは興味深く聞く。
「ええ。今はラダトにいます」
「ふーん!良いなぁ!憧れるなぁ!」
ナナミはうっとりと結婚生活に夢を見る。
どうやら同年代のアイリもナナミと同じようだ。
「ねぇねぇ!○○さんはフリックさんと恋人同士なの?」
「は?」
アイリが○○に問いかけた。
「だって、さっきの様子だとそうだろう?姉さんの行動とフリックさんの行動と!!」
アイリはグイグイと○○に詰め寄る。
「非常に残念ですが、違います」
○○は苦笑しながら言う。
「じゃあ、発展途上ってやつかい!」
アイリは納得したように頷いた。
「ふふ、だと良いわね」
○○はクスクスと笑った。
「ほれ!そろそろ寝ろ!明日は早く行くからな」
食事も終わり、くつろいでいた所をビクトールが声を出す。
「はーい!」
それぞれが毛布にくるまると寝転がる。
「では、ビクトール殿、時間になったら起こしてください」
「はいよ」
フリードはそう言うと寝転がり、目を閉じる。
「○○、お前も寝ろよー」
○○は毛布にくるまり、ビクトールの隣に座った。
「……」
「……」
ビクトールと○○はお互いに黙ったまま焚き火を見つめていた。
どのくらいそうしていたか、U主達の寝息が聞こえて来た。
サウスウィンドゥでは、休憩は入れたが、着いて、その日に出てきたため疲れた様だ。
フリードも寝息をたてている。
「ビクトール……」
「ん?」
○○が沈黙を破る。
「……ごめん、何て言えば良いのか見当たらない」
○○は小さく項垂れた。
「はは、気を使うなよ」
ビクトールはおかしそうに笑った。
「……だって……」
○○は膝を抱える。
「気にするなよ」
ビクトールは焚き火に木を入れる。
「私、ね。アナベルさんはビクトールの事、好きだったと思うよ」
「……」
○○は小さな声でポツリと呟いた。
ぱきんと焚き火がはねる。
「女の勘ってやつだけど……」
「……だろうな」
ビクトールは聞こえるか、聞こえないかと言うくらいの声で言った。
「あいつは、さ。色んな事を気にし過ぎだったんだよな。俺は……気にしてなかったのに、よ」
ビクトールはゴロンと寝転がる。
空には無数の星が輝いていた。
「…………」
○○は焚き火を見続ける。
「まったく、もっと気楽に生きてりゃ良かったのによ」
ビクトールは静かに目を閉じる。
「…………ビクトールも、ね」
○○がポツリと呟くのに驚いてビクトールは目を開けて○○の背中を見た。
「そう、だな」
ビクトールは起こした体を再び寝転がる。
「なら、少し寝るから頼めるか?」
ビクトールは目を閉じる。
「うん、解った。お休み、ビクトール」
○○はビクトールを振り返った。
「あぁ」
ビクトールの声が聞こえた。
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