36

サウスウィンドゥ市に到着して、数日後。まだ、仲間は誰一人到着しては来なかった。


「はぁ……」

洗濯物を畳みながら○○はため息をついた。

「何だ?○○。ため息なんかついて」

ビクトールが通りがかりに○○を見た。

「ビクトール。まだ、誰も来ないなぁって……」

○○は不安そうに瞳が揺れた。

「まぁ、そうだな。みんなバラバラに逃げたからな。クスクス出る時には船も規制されてたから、ここまで来るのも大変かもな」

ビクトールは気にした様子なくそう言った。

「……そっか……」

○○は洗濯物を畳み続けた。

「ビクトール、どこか行くの?」

「あぁ、何か、イイ予感がするんだよ」

ビクトールはにかりと笑った。

「イイ予感?」

「あぁ、ちょっと、行ってくる」

「あ!今日はグランマイヤー市長さんと会うんでしょ?」

「そいつはまだ先だ」

「そっか、気を付けてね」

「おう!」

ビクトールはそう言うと宿屋から出て行った。






大量の洗濯物を片付けると、喉が乾き、たまには食堂で甘い物でも飲もうと階段を下りる。

「え?」

○○は思わず目を疑う。

「今、お前も呼びに行こうと……」

「ナナミちゃん!U主君!ピリカちゃん!!」

ビクトールの言葉を遮る様に○○が叫んだ。

「「○○さん!!!」」

ナナミとU主とピリカも○○に気が付くと、走り寄ってきた。

「3人とも、無事だったんだ!!」

「うん!」

「良かった!!」

○○とナナミ、ピリカは抱き合って再会を喜んだ。

「?ところでジョウイ君は?」

○○が不安そうに見るが、ジョウイの姿は見えない。

「実は……」

U主はつらそうな顔でミューズの出来事を離した。





「なるほどな、アナベルが暗殺されたとは聞いたが、ジョウイが……な」

ビクトールは難しい顔をした。
○○は少しだけ心配したが、ビクトールはいつもの調子だ。

「で、でもでも!ジョウイがそんな事するなんて……きっと何かがあったのよ!」

ナナミが懸命に今はいないジョウイを庇おうとする。

「でも……ジョウイ……」

U主はつらそうに項垂れた。

「ほら、U主君!顔をあげて!ナナミちゃんもわたわたしない!ピリカちゃんが見てるよ」

○○はにこりと笑った。

「親にまで見放されたジョウイの事を心配してあげられるのは幼馴染みの貴方達だけでしょ!」

「○○さん……」

U主はノロノロと顔をあげる。

「信じてあげるのも、間違いを正してあげるのも、幼馴染みの貴方達の役目でしょ?」

○○はナナミとU主のおでこを優しく指で弾いた。

「○○さん……!うん!そうだよね!また皆で暮らすんだもん!」

ナナミは元気よく頷いた。

「そうだね!僕たちがしっかりしなきゃね!」

U主も元気よく頷いた。

「ところで、そちらのお嬢様達は?」

うずうずと○○が後ろの3人の男女を見た。

「あぁ、紹介するね!アイリとリィナとボルガン!!」

ナナミは嬉しそうに○○とビクトールとフリックへ紹介する。

「アイリだ」

ショートヘアーのエキゾチックな少女が笑った。

「ぼるがんだぞ!」

体の大きな少年が大きな声で言った。

「ふふ、リィナです。宜しく」

長い黒髪の少女はフリックに一歩近付き妖艶な笑みで笑った。

「あ、あぁ……」

フリックは一歩下がりながら頷いた。

「私達は旅芸人。街から街へと流れています」

リィナはにっこりと大人っぽい笑顔を見せる。

「なんだけど、私達も戦乱に巻き込まれちまってね。困ってた所をU主達と一緒にコロネからクスクスに来たってわけさ」

アイリがハキハキと答える。

「ふねできたー」

ボルガンは嬉しそうに笑った。

「船は確か規制されたと聞いたが」

フリックが不思議そうに答える。

「うん!漁師のおじさんがちんちろりんに勝ったら船を出すって言って!」

ナナミが説明をした。

「「ちんちろりん!」」

ビクトールとフリックが同時に声を出す。

「え?なになに?」

ナナミは驚き、2人を見た。

「そいつらの名前は?」

ビクトールが聞き返す。

「確か、タイ・ホーさんとヤム・クーさんとか」

○○が思い出しながら言う。

「懐かしい名前だな!」

フリックは嬉しそうに笑った。

「あれは?着物の美人もいたか?」

ビクトールが聞く。

「?いえ、2人だけでしたよ」

「残念だったな、フリック」

U主の言葉にニヤニヤとビクトールが笑う。

「あれはもう勘弁して欲しいぜ」

フリックがチラリと○○を見ながら項垂れた。

「何?」

フリックの視線に○○が気になり声をかける。

「何でも……」

「フリックと昔、熱ーい一夜を共にした相手さ」

ビクトールがニヤニヤと下品に笑う。

「ふーん」

○○がフリックをじーっと見つめる。

「違っ!一晩中お酌をさせられたんだ!しかも相手はザル!」

フリックは慌てて疲れた顔をした。

「別にそんなに慌てなくても」

○○は苦笑した。

「で?そちらさんは?」

アイリがビクトール達に目を向ける。

「傭兵の砦でお世話になったビクトールさん、フリックさんに、○○!」

「ビクトールだ、熊じゃねーぞ」

「ぷ!」

ビクトールの言葉に○○が吹き出す。

「フリックだ」

「○○です、宜しくね」

全員の自己紹介が終わる。

「まぁ、何はともあれ無事に合流出来て良かった。これからサウスウィンドゥ市長と面談なんだが。来るか?」

ビクトールがU主に聞いた。

「行きます!」

U主が元気よく答える。

「そうか、じゃあ行くぜ」

ビクトール達は宿屋から出て行った。

○○は久し振りにピリカと遊んでいた。

「ピリカちゃん、ちょっとの間ジョウイ君とはお別れでつまらないけど、お姉ちゃん達と遊ぼうね」

「……」

○○の笑顔にピリカも熊のぬいぐるみを抱っこして笑う。

「あ、熊さん怪我してるね。ちょっと待ってて」

○○は一度部屋に行き、裁縫道具を持ってくる。

「ピリカちゃん、熊さん元気にしてあげるから貸してくれる?」

ピリカは○○の言葉に素直に熊を渡した。

「ありがとう!すぐできるからね」

○○はにこりと笑うと解れを縫い始めた。
ピリカはじーっと見ている。

「は、い!出来た!」

○○が、縫い終わった糸をぱちんと切った。

「……」

ピリカは嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。


割りと早く市庁舎に行っていた一行が帰ってきた。

「あ!お帰り!その人は?」

眼鏡の男に気付いた○○が声をかける。

「こいつはフリード・Yサウスウィンドゥの役人だ」

「こんにちはフリードと申します!」

ビクトールの紹介に眼鏡の男ーーフリードは礼儀正しく挨拶をする。

「ちょっくら、ノースウィンドゥで事件発生らしいから、行ってくるぜ」

ビクトールがちょっと引っ掛かる笑顔で言う。

「?」

○○は不思議そうにビクトールを見る。

「ビクトールさんの故郷なんだって!」

ナナミが楽しそうに言う。

(ビクトールの故郷って確か……。それで……)

○○はビクトールの引っ掛かる笑顔に納得をした。

「僕も行きます!」

U主がいち早く答える。

「私も!」

「私も行くよ」

ナナミとアイリがU主に続く。

「行っても楽しくないぞー」

ビクトールが困った様に笑う。

「私はピリカちゃんとお留守番をしてるわ」

リィナはにこりとピリカと微笑み合った。

「るすばん!」

ボルガンも留守番組に加わった。

「じゃあ、俺は」

フリックが声を出すとリィナが近寄る。

「女、子供だけでは心配だわ」

リィナは妖艶にフリックへと迫った。

「え?いや……」

フリックがたらたらと冷や汗を流す。そして、答えていない○○を見る。

「じゃあ、フリックが行かないなら私は行くわ」

とにっこりと笑った。

「っ!○○!」

フリックは焦った様な声を出す。

「良いかな?ビクトール」

○○はビクトールを見上げた。

「うーん……まぁ、良いか」

ビクトールは頭をかきながら答えた。

「お、おい!」

フリックは慌てたが、

「ふふ、宜しくお願いします」

リィナの色っぽい声に、言葉を詰まらせた。

「……フリック」

○○はにっこりと満面の笑みをフリックに向けた。

「良かったね」

「っ!!」

フリックはショックを受けた顔をした。

「準備できたら出発するからな」

「「「「はーい!」」」」

ビクトールの号令に素直に返事をした。

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