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「いらっしゃいませ」
道具屋の店主が声を出す。
「のど飴が欲しいんだが」
フリックはカウンターに近付いた。
「あー……いつもの甘いのが売り切れで……苦いのならあるんですが?」
店主は言い辛そうにフリックを見た。
「それで良い」
フリックは頷いた。
「そうですか!いやー!本当に苦いらしくて、全然売れなくて!助かります!!」
店主は嬉しそうにのど飴をフリックへ差し出した。
「……そんなに苦いのか?」
フリックは少し不安そうに眉を潜めた。
「……みたいです」
店主は困りきった顔をした。
「……ま、まぁ、沈黙が治れば良いか」
フリックはのど飴を受け取った。
「ありがとうございます!あ、ちゃんと舌の上で転がして、唾液としっかり絡めて溶かしてくださいね」
店主は笑顔でのど飴の説明をした。
「あぁ」
フリックはのど飴を持つと、道具屋を後にした。
「ほれ、腕出せ」
ビクトールと○○は宿屋へ戻っていた。
「……」
○○は喋れないままビクトールへ素直に腕を出した。
「ちょーっとしみるぞー」
「っ!」
ビクトールが傷口を消毒して、絆創膏を貼る。
「しみるか?」
ビクトールの声に○○は素直にこくりと頷いた。
「まぁ、大したことねーからな!ほら、出来たぜ!」
「っ!!!」
パチンと絆創膏の上から傷口を叩いた。
○○は涙目でビクトールを睨んだ。
「おー、怖い怖い」
ビクトールは棒読みでそう言った。
ーーーカチャリ
「……!」
○○が帰ってきたフリックに近付いた。
「おお、フリック!のど飴あったか?」
ビクトールは消毒液などをしまいながら聞いた。
「あぁ。とりあえずな」
「とりあえず?」
フリックの言葉に不思議そうに声をあげた。
「○○」
フリックは○○にのど飴を渡した。
「……」
○○は口でありがとうと作り、のど飴の包みを剥がし、口に入れた。
「っっ!!!」
ポンッと、○○はのど飴を吐き出した。
「……」
「……」
「……お前、何してるんだ?」
ビクトールが呆れた様にのど飴を拾う。
「……!……!!」
○○は涙目で嫌々と首を横に振る。
肩は震えていた。
「ほれ!舐めろ!治らないぞ?」
ビクトールはのど飴を○○に差し出すが、受取ろうとすらしない。
「なんでだよ??」
ビクトールが不思議そうに首をかしげる。
「なんか、苦いらしいぜ」
フリックが説明をした。
「苦いのか……」
「……!……!!」
ビクトールの言葉にコクコクと何回も首を縦に振った。
「貸せ」
フリックはビクトールからのど飴を受け取ると○○に向き直る。
「ほれ、口を開けろ」
フリックの声に○○は口を抑え頭を横に振る。
「……」
フリックはイラっと青筋を立てる。そして、おもむろにグローブを外した。
「ほら!食え!」
フリックは○○の手を退かすと、グイグイと口にのど飴を押し付ける。
○○はフリックの手を逃れ、プイと横を向く。
「こら!」
フリックは左手で○○の顎を掴むと、グイッと上を向かす。
「入れろ!」
「……!!」
無理矢理のど飴を○○の口に入れる。
○○は舌で必死にのど飴を出そうとする。
「ダメだって!」
フリックは右手の人差し指でのど飴を奥へと押しやる。
「……!!……!!」
○○は声の出ない口を息荒くする。
「舐めろ」
フリックは人差し指を使ってのど飴を○○の舌の上で転がす。
「ちゃんと溶かすんだぜ」
ぐりぐりと口の中で動くフリックの指に翻弄されながら、○○は息苦しさから、フリックの袖を必死で掴む。
普通の飴より早く溶けるそれは、○○の舌の上で溶けて無くなった。
「これで、よし」
フリックが○○の口から指を引き抜く。○○の唾液が光る糸の様にフリックの指にまとわりついていた。
「どうだ?」
「……苦い……」
フリックの言葉に○○は涙目で訴えた。苦しさから、頬は真っ赤に染まっていた。
「すぐに慣れるだろ」
フリックは呆れた様に呟いた。
ビクトールはじーっと2人の様子を食い入るように見ていた。
「なんだよ、ビクトール」
フリックは変なビクトールの視線が気になり振り返る。
「お前ら………………エロい」
ビクトールはじーっと見ながら呟いた。
「はっ?……何言ってやがる!」
フリックは自分の行動を思い出して、慌てながら怒鳴る。
「お前な、そう言うエロい事は2人の時にするか、俺も交ぜろ」
ビクトールはニヤニヤとフリックに話しかけるが、視線は○○に向いている。
「っ!この、エロ熊!!!」
フリックはカッと顔を赤くしてビクトールを殴った。
「いって!なにしやがる!」
ビクトールはフリックを恨みがましく見た。
「お前が変な事言うからだろうが!」
「うるせー!お前が○○に変な事してたんだろ!」
「何言ってやがる!ただ、のど飴を舐めさせただけだろ!」
「やり方がエロい!言葉がエロい!お前がエロい!」
「エロいのはお前だ!!」
ビクトールとフリックがくだらない喧嘩を始めている頃、○○はようやく苦さから立ち直り始めていた。
「ふぅ、声出る様になった」
○○はホッとして喉に触った。
「○○!大丈夫だな?」
フリックがビクトールを無視して○○に向き直る。
「うん、フリック!ありがとう。まだ舌がピリピリするけどね」
○○はにっこりと笑いながら舌を出した。
「良かったな」
ビクトールがそう言いながら席を立つ。
「どこ行くの?」
○○はビクトールの後を目で追う。
「便所だよ!便所!」
ビクトールはパタンとトイレへ入って行った。
「あいつ」
フリックは目付き鋭くビクトールの消えた扉を睨んだ。
「ん?どうかした?」
○○はフリックの様子に不思議そうに首を傾けた。
「なんでもないぜ!」
フリックは照れ隠しに怒りながら言った。
「そう」
「それよりお前、気を付けろよな」
フリックは呆れた様に声を出した。
「ね、びっくりした!」
○○はハハハと乾いた笑いを浮かべた。
「笑い事じゃないぜ。まったく」
フリックは呆れた様に呟いた。
「ねぇ!それより、カッコ良かったね!さっきの人!!オウランさんだっけ?」
○○は嬉しそうにフリックに聞いた。
「あぁ。助かったな」
「うん!あ、今度会ったらちゃんとお礼言わなきゃね。ねぇ、フリック!」
「ん?」
急に○○がキラキラと目を光らせた。
「私も頑張ればあぁ、なれるかしら?」
「は?」
「凄い筋肉で綺麗だったね!女の人で初めてみたわ!」
○○はニコニコと笑った。
「……止めてくれ」
フリックは疲れた様に項垂れた。
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