33
ーーーカーンカーン
鉄を打つ音が響き渡るのは鍛冶屋の中だ。
「よう!頼みたいんだが!」
ビクトールが声をかけると、鍛冶師は手を休めた。
「はい、いらっしゃいませ!」
まだ年若い鍛冶師の男はにこりと笑った。
「剣を頼みたいんだが。テッサイはいないのか?」
ビクトールはキョロキョロと店の中を見回した。
「すみません、師匠は留守にしていて。いつ戻るか……。今は俺がこの店を任されています!」
鍛冶師の男は元気に胸を叩いた。
「そうかい。まぁ、テッサイに任されたなら大丈夫だな!任せるぜ」
ビクトールは剣を鍛冶師に預ける。
「任せてください!では、拝見しますね」
鍛冶師は剣を鞘から抜く。
「うーん。たくさん切りましたね」
鍛冶師は難しそうな顔をした。
「そうでもないさ」
ビクトールは事もな気に言う。
「では、お預かりします」
鍛冶師な剣を鞘に納めた。
「俺も頼む」
フリックも剣を鍛冶師に渡す。
「こちらも……なかなか……」
鍛冶師はさらに難しそうな顔をする。
「では、お二つお預かりですね。少しお時間もかかりますが」
と、鍛冶師はチラリと○○を見る。
「え?あ、私は少し散歩でもして来ようかな?」
○○は何となく邪魔にされた様な気がして、そう切り出した。
「そうか?」
ビクトールは○○を振り返る。
「うん!せっかくの港町って初めてだし!」
○○はにこりと笑った。
「……気を付けて行って来いな」
フリックは少し眉間にしわを寄せて言った。
「うん!じゃあ!」
○○は逃げる様に鍛冶屋を後にした。
「もしかして、女人禁制とかだったのかしら?」
○○は港へと足を向けた。
「気持ち良い。あ!」
○○は可愛らしいお店を見つけた。どうやらカフェの様だ。
「いらっしゃいませ」
ウエイトレスに案内され、湖の見える席へ案内される。まだ、開店したばかりか、客はまばらであった。
「ご注文はお決まりですか?朝のケーキセットには、お値段そのままで、ケーキにコーヒーか紅茶がつきます」
ウエイトレスはメニューを広げて説明した。
「あ!良いわ、それをお願いします。紅茶で」
「かしこまりました。紅茶にはミルク、レモン、ストレートがあります」
「うーん、じゃあ、ストレートを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ウエイトレスが下がると、○○は湖へと目を向けた。
遠くには陸が見え、その向こうには小さく町が見えた。
○○はじっと遠くを見ていた。
「お待たせいたしました。朝のケーキセットでございます。ごゆっくり」
ウエイトレスが持ってきた物は、小さなチョコレートケーキとロールケーキとチーズケーキの3つが乗っていた。
「可愛い、いただきます」
○○は上機嫌でケーキを口に入れた。
「久しぶりに美味しい!はぁ。こんな時間……久しぶり」
○○は最近の出来事を思い出した。
ハイランドとの休戦協定が結ばれ、すぐにU主とジョウイが流されて来た。
トトの村、そしてリューベの村が壊滅。
傭兵の砦も壊滅。シードに襲われる。
○○の体が震える。
フリックに助けられ……
○○はどうしても思い出すフリックとの一夜に照れながら思いを振り払う。
ふぅと、ため息をついた。
結局、フリックはあの時の事を何も言わない。
だが、今朝の反応は自分の妄想ではないと改めて認識した。
「はぁ。彼の頭の中は今でもオデッサさんでいっぱいなのにな」
○○はポツリと呟いた。
ケーキは殆ど食べ終わり、紅茶も飲み終わった。
○○はお金を払うとカフェを後にした。
鍛冶屋の窓を覗くと、まだビクトールとフリックは熱心に話している。
仕方がないと鍛冶屋から程近い大きな橋を渡る。
「おい!あの女なんてどうだ?」
「いや、古くさい服を着てるじゃねぇか!金にならねぇよ!」
「馬鹿か!お前は!あの首もと!ありゃ、パールだぜ」
「おっ!なら良い獲物じゃねーか!」
「女は売っちまえば金になるしな!」
「よう!女の一人歩きは危なくないか?」
人相の悪い男がにっこりと○○に近付いた。
「ご心配なく!貴方達のが怪しいし」
「っ!!」
○○は一人で近付いて来た男の後ろに複数の男達を見ていた。
「まぁ、なんだ!ちょっと遊んでけば良いって」
男はそろりと○○に近付く。
○○は嫌悪感を剥き出しに右手を上げる。
「おりゃ!」
「っ!!」
後ろの男が○○にナイフで攻撃をした。うっすらと腕に傷がついた。
「へっへっへっ!沈黙の紋章成功!」
男はニヤニヤと○○に近付くと両手を掴んだ。
「……!」
○○は離してと叫ぶが、声にならない。
紋章が使えない○○はただの非力なコックである。
「よしよし、そう暴れるなよ」
男は○○をあやす様に声を出す。
「……!!」
○○の口は何度も叫んでも声は出ない。
「よし、連れて行こう」
「待ちな!!」
男達の声に女性の声が交じる。
「なんだ、お前は!」
「あんたらに名乗る名前はないよ!!」
女性は素早く重い拳を男に喰らわす。
「ぐはっ!」
「この、あま!!」
男達が呻いている。
「どこからでも来な!!」
女性も構える。
「おい!女に寄ってたかって何やってるんだ!」
「……!」
騒ぎに気が付いたフリックとビクトールがのんびりとやって来た。
「お!うちのコックに手を出すとは、命知らずなやつらだな。丁度良い!こいつの切れ味を試したかった所だぜ」
ビクトールは楽しそうに剣を引き抜くと笑った。
「くそ!分が悪い!!」
「逃げろ!!」
男達はわらわらと逃げ出した。
「……!」
○○は声の出ない口を開いた。
「おい、○○。お前どうしたんだ?」
ビクトールは○○を見た。○○は口をパクパクとさせながら、指で喉を指したりして、喋れない事を伝える。
「沈黙をかけられたか」
フリックは眉間にしわを寄せて言った。
「どうやらナイフに沈黙の紋章が付いてたみたいだね」
女性は○○の腕の傷を見た。
「……!!」
握られ、痛かったのか、顔を歪ます○○。
「悪かったね。痛かったのかい?」
女性の声に○○は素直に頷いた。
「うちのコックが世話になったな」
ビクトールは女性に礼を言った。
「礼にはおよばないよ。私はオウラン」
女性ーーオウランは名乗った。
「俺はビクトール。こっちはフリック、で、こっちは○○だ」
ビクトールがまとめて自己紹介をした。
「そうかい。○○。私はボディーガードをしてるんだ。もし、この男どもが頼りにならなかったら、いつでも言いにおいで」
オウランは女性の○○でも見とれる声で○○の頬に手を這わせた。
「っ!!」
○○は顔を真っ赤に染めてコクコクと頷いた。
「じゃあね、のど飴でも早く舐めな」
オウランはくるりと踵を返すと颯爽と去っていった。
「……っ!」
○○が、オウランの後ろ姿に見とれていると、フリックに急に腕を引かれた。
「これか、傷は」
フリックはイライラと○○の傷口を見た。
傷は浅く、血が滲んでいる程度だ。
「浅くて良かったな」
ビクトールが傷口を見て安心した。
「ったく!一人で出歩くからだ」
フリックはブツブツと言う。
「のど飴は無かったな?」
フリックがビクトールを振り返る。
「ああ」
「じゃあ、買ってくる。○○はビクトールと宿で待ってろ」
フリックはそう言い残すと道具屋へと足を向けた。
「ほれ、傷口消毒してやる」
ビクトールの手招きで○○について行った。
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