32

クスクスでは、予算と部屋数の関係で3人とも同室だった。

初めはとりとめのない話をしていたが、○○が、すぐにダウン。次にほぼ無眠無休プラス○○を担いでいたビクトールがダウン。そして、何人ものハイランド兵士を凪ぎ払ったフリックも沈没した。





そして、朝を迎えた。


「うーん!体が軽い!!」

○○は伸びをして、体の調子が良い事にご機嫌だ。

まだ2人が寝ているのを確認すると、着替えを持ってバスルームに入った。


着替えと洗顔、歯みがき、化粧などの朝の支度を終えて出ると、2人がもぞもぞと動き始めていた。

「おはよう!ビクトール!フリック!外、良いお天気だよ」

○○はにっこりと元気な声を出した。

「んー、後5分」

ビクトールがそうモゴモゴと言うので近付いてみる。

「ねぇ!もうお日様高いよー!お腹減ったよー」

○○が、ゆさゆさと布団越しに揺らす。

「へっ?きゃあ!」

○○は急に手を捕まれたと思ったら、凄い力でビクトールに布団の中へ引きずり込まれた。

「ち、ちょっちょっと!ビクトール!!」

ポカポカと叩くが、布団の中でしっかり抱き締められえいるので、逃げられない。

「んー、後5分」

「っ!!」

ビクトールは○○の耳元でわざと低い声を出す。

それでも、ぱたぱたと暴れる○○。

「や、ちょっと!フリック!!起きてーー!!!」

○○が助けを呼ぶ。

「おいおい、○○。俺に抱かれてるのに、他の男の名前を呼ぶなって」

ビクトールはニヤニヤと笑いながら、○○の足を触り出す。

「や!ちょっと!どこ触ってるのぉ!!や、だ、ダメ!!」

ビクトールが○○をくすぐり、くすぐったさで真っ赤な顔で涙目になる。



がばりと、布団が剥ぎ取られる。




「熊……テメェは何をやってるんだ!!」

異変に気付いたフリックが布団を剥ぎ取ったのである。

「ふりっくぅ……」

ビクトールにくすぐられ、スカートは太ももまで捲れ、腰にはしっかりビクトールの太い腕が巻き付き、赤い顔の涙目で○○はフリックの名を呼ぶ。

「ふ、フリック?!ちょっ!目がマジ過ぎて怖ぇよ!!!」

ビクトールが慌てて○○から離れ、ベッドから降りた。

「よし、覚悟は出来たな」

フリックの目は据わっていた。
フリックはおもむろに愛剣オデッサを引き抜く。

「ま、待て待て待て!!!冗談だろ!す、スキンシップ!!」

ビクトールは両手を前に出す。

「過剰過ぎだ!!!」

フリックは勢いと共にオデッサを降り下ろした。

「うわー!!おま、本気過ぎだ!!」

ビクトールは転がる様に逃げる。

「つーか、こんな事前にもあったな」

ビクトールは降りおろされた剣を見ながらゴクリと喉を鳴らした。

「よくかわしたな、大丈夫だ熊」

フリックはにこりと笑いながら、

「次は外さねぇから」

フリックは再び剣を振り上げる。

「や、止めろー!!」

ビクトールは本気で叫び出す。




ーーーぼすん




「うわっぷ!」

ビクトールの顔面を枕が直撃した。

「……」

フリックは呆気に取られたせいで、すっかり怒りが覚めた。

「へへ!やったね!あースッキリした!」

枕を投げた張本人○○は嬉しそうに笑った。

「うん!これで許してあげるわ!ビクトールには色々お世話になったから」

○○はそうにこりと笑った。

「○○!」

ビクトールは助かったと喜ぶ。

「さあ!フリック!2人で朝ごはん食べに行こう!私、お腹減っちゃった!」

○○は剣を鞘に納めたフリックの腕を掴んだ。

「そうだな、行くか」

フリックもやれやれとため息をついた。

「え?ちょっ?許してないよな?それ!」

ビクトールは2人を呆然と見つめる。

「あ、ビクトールも来て良いけど、違うテーブルね!もちろん奢りよ」

○○はにこりとビクトールに振り返った。

「えーー!!」

ビクトールはショックを受けた顔をする。

「自業自得だ!」

フリックは冷たい視線を送った。









「そう言や、その服は初めて見るな」

3人は、宿屋の食堂で朝食を食べている。
ビクトールは○○のワンピースを見て言った。

○○はヒルダに3着のワンピースを貰っていた。
今までは、2着のハイネックのワンピースを交互に着ていたが、初めて開襟のワンピースを着ているのだ。

「うん!やっと着られる様になったから」

○○はにこりと嬉しそうに笑った。

「着られる?今までは着られなかったのか?」

ビクトールが不思議そうにワンピースを見た。

「うん、痕がのこ……」

「ぶっ!」

○○の言葉にフリックが吹き出した。

「何だよ、フリック!汚ねぇな!」

ビクトールはフリックを嫌そうに見た。

「ごほごほ」

眉間にしわを寄せ、咳き込むフリックは○○を見た。

「いや、あの、ちょっとこれだけ細くて!倒れたせいで、やっとはけるようになったの!」

○○は焦りながらフリックを見ない様にビクトールに説明をする。

「なるほどなぁ。確かに少し痩せちまったな」

ビクトールはジロジロと○○を見た。


「ほ、本当に?やった!」

○○は嬉しそうに拳を握った。

「おいおい、女は抱き心地が一番だぞ!な!フリック!」

ビクトールが真剣にフリックに意見を求める。

「は?ま、そ、だな」

フリックは一瞬怒ったが、頷いた。

「だろ!?な!○○!それ以上は痩せるなよ!」

ビクトールが真面目腐った顔で言った。

「セクハラでーす」

○○は冷めた目で2人を見た。

「所で、そのネックレスは?」

開襟のワンピースになった事で、ピンクパールと指輪のネックレスが○○の首を飾っているのが見られた。

「ん?可愛いでしょ?フリックに貰ったの!この指輪を付けとくチェーン欲しいって言ったら探して来てくれたの!」

○○はにこにことネックレスをビクトールに見える様に引っ張った。

「ん?あれ?この指輪……見た事ある様な?」

ビクトールはうーんと記憶を探る。

「おっ!これ、あの猫の首輪じゃねーか?!」

ビクトールは閃いた。

「凄い!!良く分かったね!」

○○はビクトールの記憶力に心底驚いた。

「そうなのか?」

フリックは驚いてネックレスを見た。

「そうだよ!くれた張本人は覚えてないのに」

○○はビクトールを羨望の目で見つめた。

「まぁな!伊達に傭兵の隊長やってないぜ」

ビクトールは鼻高々に言った。

「良く、それだけあったな」

フリックはネックレスがシードに取られたはずと、心の中で付け加えた。。

「たまたまね、リュックサックに入ったの」

○○はにっこりと笑った。

「そうか」

フリックはそう頷いた。

「所で、今日はどうするの?これからサゥスウィンドゥに行くの?」

○○が今日の予定を聞く。

「それでも言いが、連戦で剣が傷んだらからな。鍛冶屋に行く」

ビクトールがそう答えた。

「鍛冶屋!」

○○は興味津々と声を出した。

「ここには腕の良い鍛冶師がいるんだよ」

フリックがそう付け加えた。

「へぇ」

「よし、じゃあ、飯食って、荷物まとめたら出発だ!」

「はい!」

ビクトールの号令に○○は楽しそうに答えた。

[ 32/121 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -