31
「ふぁー……」
○○は、あくびをして、伸びをした。
思いきり寝たお陰か、頭がスッキリとしている。
「あれ?ここは?」
○○はキョロキョロと辺りを見回した。
まだ、太陽は昇っていないが、ほんのり明るくなっていた。
「そうだ。確か、ビクトールが。ビクトール!!」
○○はまだ体は少しふらつくが、立ち上がるとビクトールを探した。
「お?起きたか」
ビクトールはにこりといつもの様に笑った。
○○は少しその表情にホッとした。
「何してたの?」
「ほれ、ナツメ」
ビクトールが籠いっぱいのナツメを見せてきた。
「これは?」
○○は不思議そうにビクトールを見上げた。
「お前さん、調理師のくせに知らないのか?これは干して食うんだよ」
ビクトールは呆れた様に○○を見た。
「いや、私も調理師よ!それくらい知ってる!」
「そうかい」
はははとビクトールは笑った。
「じゃなくて!」
「その内わかるよ」
ビクトールはニヤリと笑った。
「もう。そう言えば、誰もまだ来てないの?」
○○は不安そうに聞いた。
「あぁ。っと、あれは」
ビクトールの指差す方を見ると、青い人影が北、ミューズの方から歩いて来るのが見えた。
「あれって……」
○○は目を凝らして良く見ようとする。
だんだんと近付いて来るのは紛れもなく
「フリック!!!」
○○は喜びに声を高くした。
「やれやれ、やっと来たな」
ビクトールもフリックの姿を確認するとホッとした様に息を吐いた。
「○○、ビクトール。無事だったか」
フリックもホッとした様に2人を見た。
「良かった!!たくさん兵士が向かったから……心配だったよ」
○○はふらつく体も手伝って、フリックに抱き付いた。
「っ!あぁ、あれくらい何ともないが、さすがに疲れたな」
フリックは抱き付かれ驚いたが、苦笑してため息をついた。
「ヨーヨー!お二人さん!お熱いねー!」
ビクトールがひゅーひゅーと茶化すが
「そんな場合じゃない!!お、おい!○○?!大丈夫か?!」
フリックが焦った様に声を出す。
「無理、体、動かない」
あははと乾いた声で○○は笑った。
「何だ、まだ回復してねーのか?」
「どう言う事だ?!」
ビクトールの言葉にフリックは怒りながら説明を求めた。
「いやね、クルガンに会ってさ」
「っ!知将のか?!」
「あぁ。そんで、逃げる為にこいつ無理してレベル4魔法まで唱えやがってな」
ビクトールは呆れ気味に説明する。
「な、何をやってるんだ!そりゃ、倒れて当たり前だ!!」
「ご、ごめんなさい」
フリックの怒鳴る声に○○は身を縮めた。
「だが」
フリックが手を伸ばすと○○はビクリと震える。
「良くやった」
フリックは優しく○○の頭を撫でた。
「……フリックぅ……」
○○は涙を堪えて、フリックを見上げた。
「よし!感動の再会はそれくらいにして、船に乗ろう。クスクスまで行かなきゃな!ここも安全とは限らねー」
ビクトールはそう手を叩きながら言った。
手早く荷物を纏めると、ビクトールが荷物を持ち、○○はフリックに支えられる様にコロネの村へ入って行った。
村はまだ朝早いせいか、眠りに包まれていた。
「静かだね……」
○○は辺りをキョロキョロと見回した。
「まだ、早いからな。こっちが船着き場だ」
ビクトールを先頭に、どんどん村のなかを進んで行った。
そして、何人かの漁師が船の手入れをしていた。
彼らは本業の傍ら、旅人達を船で違う町まで送る副業もしているのだ。
「よう、悪いんだが、クスクスまで乗せてくれないか?」
ビクトールが人懐っこい笑顔で一人の漁師に話しかけた。
「良いが、お前さん達、傭兵とかじゃないだろうな?最近は物騒でな」
漁師はジロジロと3人を見回した。
「いやいや、あっしはしがないナツメ売りです」
ビクトールは先ほど採ったナツメを見せた。
「後ろの2人は妹夫婦でな。妹が少し体調を崩しているので、早めに行きたいんだ」
ビクトールはするすると止めどなく嘘の身の上話をする。
フリックは慣れている様で呆れながらビクトールを見ている。
「そうかい。それは大変だな。良いぞ。さぁ、お乗りなさい」
「ありがたい!」
ビクトールは嬉々として2人を振り返襟、笑った。
「揺れるからな、旦那さんはしっかり奥さんを支えてやんな」
「あ、あぁ」
「っ!」
漁師の言葉にフリックは緊張しながら○○の腰に手を回して船に乗せ、座った。
○○は照れた様子を必死で隠していた。
ビクトールが隣でニヤニヤと笑っていた。
「今日は天気が良いからあまり、揺れんと思うが気を付けなさい」
漁師は注意だけすると、船を走らせた。
走り始めると、ビクトールは目を閉じて項垂れた。どうやら仮眠を取るらしい。
「ビクトール疲れているのね。私を担いでここまで来たから」
○○はこそこそと漁師に聞かれない声でフリックに言う。
「……そうか。クルガンは大丈夫だったのか?」
フリックは眉根にシワを寄せて聞いた。
「うん。殺されそうになったけど、紋章のお陰で助かったわ。もう、あまり使いたくないけど」
○○は困った様に笑った。
「そうしてくれ。毎回魔法の使い過ぎで倒れられたら、こっちの心臓が持たないぜ」
フリックも困った様に笑った。
「お二人さん」
「は、はい!」
突然漁師に声をかけられて驚く○○。
「結婚して長いのかい?」
どうやら世間話をするようだ。
「あ、いえ、まだ式も挙げてないの」
○○はにこりと笑った。
「そうかい、奥さんは白のドレスとか似合いそうだね」
にこにこと漁師が言う。
「あ、ありがとうございます」
○○は顔を赤くする。
「体調を崩してるとは、おめでたかい?」
漁師が聞くのをフリックは固まる。
「え?ううん、残念だけど違うの」
○○はそんなフリックを見てクスクス笑った。
「そうかい。子供は良いぞ!早く出来ると良いな」
「うん、そうですね」
漁師の素直な言葉に○○も素直に答える。
「ほら!見えてきたぞ!あれがクスクスだ」
漁師の指の先には大きな港町があった。
「わぁ……」
○○は嬉しそうに目を細めた。
「着けるぞ。少し揺れるからな」
「お、着いたか」
船着き場に着くと、ビクトールは目を覚まし、一番に降りる。
「ほら、○○」
ビクトールが手を伸ばし、○○を陸へと引き上げる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
○○は嬉しそうに笑った。
「おう!」
ビクトールは○○の言葉が何だかくすぐったく感じた。
「おい、旦那さんよ」
漁師がフリックを呼び止めた。
「なんだい?」
フリックは振り返る。
「あんなに良い嫁さんだ。大切にするんだぞ」
「あぁ、分かってる」
「それと」
こそりと漁師がフリックの耳元に寄る。
「夜はちゃんと可愛がってやるんだぞ」
「っ!!!」
漁師のニヤリとする笑いに、フリックは顔を赤くして、焦る。
「フリック?顔赤いよ?」
ビクトールが金を払っている時に○○は不思議そうにフリックに近付いた。
「っ!!!なんでもない!!」
フリックは照れを誤魔化す為に叫んだ。
「変なフリック」
○○ぽつりと呟く。
「よーし、ほんじゃ、どうするか?ここまで来ちまえば、サゥスウィンドゥはもうちょいだからな」
ビクトールは町を見渡した。
「……ねぇ、ビクトール」
「ん?」
○○が申し訳なさそうに声を出す。
「もし、大丈夫なら、この町に泊まらない?体調を戻さないと私、迷惑ばかり……」
○○はしょぼんと落ち込みながら言った。
「いや、迷惑だなんて思ってないが」
ビクトールは○○の頭を優しく撫でた。
「体調を戻すのには賛成だ。俺もフリックもあんまり寝てないしな」
「っ!そっか!そうだよ!ごめん」
○○は頭を何回も下げた。
「おい、ビクトール。あんまり○○をいじめるなよ」
フリックが呆れながらビクトールを軽く睨む。
「いじめてないだろ!」
ビクトールもムキになって答える。
「ほんじゃま、宿屋へ行くか」
ビクトールの号令で宿屋を目指した。
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