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「おい!うちのコックをいじめるなっての!」

ミューズから逃れて来たビクトールが、○○に追い付いたようだ。

「っ!!ビクトール!!」

○○はビクトールを見た。

「○○大丈夫か?」

「うん!」

ビクトールは剣を肩に背負っている。○○はビクトールの姿に安心した様に頷いた。

「しっかし、猛将の次は知将か?お前って、つくづく運がないな。フリック並みか?!」

ビクトールはそう言ってケラケラと笑った。

「お前は、'風来坊'だな」

「覚えててくれて、ありがとうよ」

ビクトールはクルガンの声にニヤリと笑った。

「お前が猫の持ち主か?」

「猫だぁ?!」

クルガンの言葉の意味が解らず、すっとんきょうな声を出す。

「ネックレスだ」

「っ!」

クルガンの声に反応したのは○○だった。
それを見たビクトールは何を言っているのか理解した。

「あれはフリックの野郎だ」

ビクトールはやれやれといない男の名をあげた。

「……青雷……」

「そうだ」

クルガンは何かを納得した様に呟いた。

「さて、じゃあそこ通してもらいやしょうか?」

ビクトールは会話中に○○とクルガンの間まで移動していた。

「そう言う訳にもいかん」

クルガンは腰を落として構えた。

「そいつは、残念だ!」

ビクトールは両手で剣を握ると、クルガンに迫る。
ビクトールは力ある一打を食らわそうと剣を振り上げる。

しかし、クルガンは素早く避ける。さらに、反撃をビクトールへと喰らわすが、ビクトールもギリギリで避ける。

「そ、そうか」

○○は解ったと呟いた。ビクトールは力があるから、一撃は強いけど、クルガンの方が素早いのだ。
せっかくの一撃も、当たらなければ意味がなくなってしまう。

「なら、【ふくしゅうの大地】!!」

○○が素早く紋章を発動をする。

「くっ!」

クルガンが丁度ビクトールに攻撃をしている所であった。
ビクトールはクルガンの攻撃を紋章の力も借りて避けると、そのまま攻撃も喰らわす。

「ぐっ!!」

クルガンはもろにビクトールの重い一撃を食らい、よろける。

「ナイス!○○」

ビクトールはそう言うと、クルガンに追い打ちをかけようと剣を振るが、ギリギリのところで避けられる。

クルガンが○○をチラリと睨み付ける。

ぞくりと恐怖が背中をかける。

「【守りの天がい】!!」
「【雷撃球】!!」

「○○ーー!!!」

○○とクルガンはほぼ同時に呪文を唱えた。
ビクトールは片腕をあげ、凄まじい爆風に耐えながら叫んだ。

「っくっ!」

先に声をあげたのはクルガン。

「はぁ、はぁ、はぁ」

爆風が収まると魔法防御で助かった○○がいた。

「○○!!」

ビクトールの声に○○はチラリと目だけを向ける。
○○は魔力を使い過ぎで倒れそうになっていた。

対するクルガンも爆風の勢いに体勢を崩していた。

「○○!!」

ビクトールは○○を肩に担ぐと、その場から逃げ出した。

「くっ!待て!」

クルガンはフラフラと立ち上がった。

「ふ、【ふるえる大地】ぃ!!」

○○は残り少ない力で、震える声で叫んで、紋章を発動をさせる。

「おい!!」

「ぐっ!!!」

ビクトールの焦った声に、クルガンの苦しそうな声が重なった。

ビクトールは後ろを振り向かずにその場から走り去った。

○○は意識を失っていた。







(首が……痛い)

○○の意識が浮上する。

「ん……い……」

「お、起きたか?」

○○の呟いた声に、目を閉じていたビクトールが、反応した。

「びく、と……る?」

○○は薄目を開けて確認する。

「気分はどうだ?」

ビクトールは○○のおでこに手を置いた。

「首……痛い……高い……固い」

「……ずいぶん言ってくれるじゃねーか」

ビクトールはニヤリと笑った。


○○が少し目を動かして、今の情況を確認した。

どうやは夜明けはまだ先の様だ。
そして、ビクトールの膝に頭を乗せる、膝枕状態で寝ている。

「ここは?」

だいぶ意識がハッキリしてきたのか、○○の声はしっかりして来た。

「すぐそこがコロネの村だ。とりあえず、気絶してるお前さんを担いで入るには妖しい時間だったからな。野宿中だ」

ビクトールは説明をした。

「……ごめんね、ビクトール。もしかして私を担いでここまで?」

○○は申し訳なさそうな顔をする。

起き上がろうとするが、くらりと目眩に襲われ、すぐにビクトールに押し戻された。

「まだ、寝てろ。お前は魔力を使い切っちまったんだ」

やれやれとビクトールは苦笑した。

「あぁ、夜通し歩いちまったぜ。まぁ、お陰でここまで着いたがな」

ビクトールは○○の頭を優しく撫でた。

「他の人は?」

「……まだだ」

「そう」

ビクトールは静かに否定の言葉を口にした。

「フリックが、コロネの村で待ってろって」

○○はビクトールを見た。

「あいつなら、すぐに来るさ」

「……ビクトール、どうしたの?」

「ん?」

「……なんか……」

ビクトールはいつもの顔をしている。飄々と掴み所の無いような、そんな表情を。
しかし、○○には、何だか泣いている様に見えた。

「ビクトール……何が、あったの?」

○○は優しく両手でビクトールの両頬を包み込んだ。

「…………何も」

ビクトールは愛おしむ様に○○の片方の手を握り締めた。
しかし、その目は○○を見ているが、違うものを見ている様でーーー。

「ビクトール……もしかして、アナベルさんに何か……」

○○の声にビクトールは眉ひとつ動かさずに○○の目を見つめている。

「…………アナベルは、死んだ」

「っ!!!」

「と、言っても噂だ。ハイランド兵士達がそう叫んでいた。死体も見ていない」

ビクトールは全く表情を崩していない。なのに、やはり泣いている様に見えた。

「ビクトール……」

ビクトールはゆっくり上半身を屈め、○○の上に覆い被さった。
○○はごく、自然な動作でビクトールをだきしめた。

「○○…………悪い…………」

ビクトールはそう言うと、札を一枚取り出した。

「【ねむりの風】」

ビクトールは静かに札を発動をさせる。

「びく、と……る……」

○○は再び眠りに落ちて行った。

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