02
リューベの村から傭兵の砦へ就職先が変更になった○○は荷造りを完了して宿屋の食堂で待っていた。
「何時ごろ来るんだい?」
宿屋の主人が○○に聞いた。
「手紙の時間はそろそろなんだけど……」
○○は最後の日まで食事の仕込みをしていた。
ーーカラーン
「準備は出来てるか?」
入って来たのは熊のような大男こと、ビクトールだ。
「えぇ。大丈夫」
○○がキッチンから出て来る。
「そうか……なんだかギャラリーがうるさいんだが……」
ビクトールがふと、窓を見ると村の女達が張り付いていた。
「ねえねえ、あれが?」
「カッコイイかしら?」
「いえ、熊ね」
「熊だわ!」
などなど。
「あの色男が来ると思ったんだろう」
宿屋の主人は同じく窓を見ながら言った。
「あ……あーあ、なるほどな」
ビクトールはうんざりした様に呟いた。
「あの後、ちょっとした騒ぎになってたからね」
○○は楽しそうに笑った。
フリックとビクトールがリューベの村に来た時に、フリックを見た村娘が騒いでいたのだ。そして、今日迎えに来ると言うので一目フリックを見ようと宿屋へ女達が集まったのだ。
「残念だったな。今日、砦完成で受け渡しだからな。フリックの奴は先に行ってる。○○にはキッチンの説明やなんやらを一緒に受けて貰おうと思ってな」
ビクトールは頭をかきかき説明した。
「うん、宜しくね、ビクトール」
○○は荷物と茶色皮のリュックサックを背負う。
「おいおい、一般人の○○を連れて1人で大丈夫なのか?」
宿屋の主人が不安そうにビクトールを見る。
「おう!問題ないぜ!俺様に任せておけって」
ビクトールはニヤリと笑った。
「っと、あんまり時間もないからな。そろそろ行くぞ」
ビクトールはひょいっと○○の荷物を持つ。
「え?あ、大丈夫!自分で持つよ!」
すたすたと歩くビクトールに慌てて追い付く。
「いやに軽いな……これで本当に大丈夫なのか?」
ビクトールは不思議そうに荷物を持つ。
「え?うん。着替えとか化粧品とか、そんなもの」
○○はビクトールから荷物を取るのを諦めて持って貰う事にした。
「じゃあ、お世話になりました!」
「気を付けてな!」
「なんかあったら帰って来いよ!」
「泣かすなよ!」
「行ってきます!」
○○は笑顔でみんなに手を振った。
「さてっと、頑張って歩いてくれよ!馬ならすぐだが、歩きだからな」
「うん!ビクトール傭兵なのに馬には乗らないの?」
歩調の違いから、少し早歩きで○○はビクトールに並ぶ。
「あれな、あんまり得意じゃねーな。と、速いか?」
「ううん!大丈夫!早歩きは得意なの」
○○はにっこりとビクトールを見上げた。
「そうか。おっと、さっそくお出ましか」
ビクトールが急に鋭い目に変わる。
カットバニーが出て来たのだ。
「奴等は弱いが数が多くてな。○○少し離れてな!」
ビクトールは実に楽しそうに剣を振るった。
次々に倒れていくカットバニー。
ビクトールは重い一打でカットバニーを一撃で倒して行く。
「ほい、終了」
剣についた血や肉片を拭うと、疲れた様子もなく鞘に納めた。
「大丈夫か?やっぱり気持ち悪いか?」
ビクトールが静かな○○を苦笑しつつ振り返る。
「か」
「か?」
「カッコイイ!」
「は?」
意外な言葉に驚き間抜けな声を出すビクトール。
「なんか、今まではのめーんとしてたのに、戦闘の時はカッコイイのね!ビクトールって!!」
「そ、そうか?のめーんの意味が解らんが」
キラキラとした尊敬の眼差しを受け、ビクトールは少し照れながらも悪い気はしなかった。
「やっぱり女としては男に守られるって憧れだしね」
○○はにっこりと笑った。
「そうか。ちゃんと守ってやだからな。じゃあ、行くぞ」
ビクトールは気分良く歩き出した。
戦闘の回数は少ないが一回に出て来るモンスターの数は多かった。
だが、それに関わらず、ビクトールは次々に倒して行った。
「よっし、ついたぞ!」
「わぁ!」
疲れで汗を拭いながらだった○○だったが、真新しい砦に元気を取り戻した。
「おぅ!これが俺達の城だ!」
ビクトールも嬉しそうに砦に近付いた。
「早かったなビクトール、○○」
フリックが出て来た。
「おう!俺様に任せておけばな」
へへんっとビクトールが鼻を高くした。
「業者が待ってる。行くぞ」
フリックはすたすたと入り口へ行ってしまった。
「俺達も行くぞ!」
「はい!」
ビクトールに付いて○○も砦に入った。
「まぁ、分かるだろうが、上に部屋と会議室がある。この階は食堂と風呂がある。下には鍛冶が出来るスペースに、牢屋と部屋がある。倉庫も下だ」
業者は早口に説明していく。
「これが玄関の鍵、牢屋、個人の部屋、と、風呂と……まぁ、色々だ!」
「お、わかった」
ビクトールが受け取り、説明終了。
「で、そっちの嬢ちゃんがコックか?こっち来い、厨房の説明をする」
「あ、はい!」
○○が業者の男に付いて厨房へ消えた。
「ここからだな」
「あぁ。また新しい仕事だな。抜かるなよ、フリック」
「ふん」
ビクトールとフリックは新しい砦を見回した。
「じゃあ、説明終わったんで帰ります」
業者はさっさと帰って行った。
「さてと、とりあえず○○の部屋に案内する」
フリックが○○の荷物を持つと階段を上がる。
「え?自分で持つよ!」
○○は慌ててフリックを追う。
「これくらい、大丈夫だって」
フリックは全く気にした様子なく2階へ上がった。
「こっちがビクトールの部屋で、このでかいのが会議室。ここが俺の部屋で、ここが○○の部屋だ」
フリックがざっと説明した。
「え?こんな良い部屋貰えるの?」
○○が驚いた様に声を出した。
「もちろんだ。何かあった時の為にフリックの部屋の隣が良いだろう?これが、部屋の鍵だ」
ビクトールが○○の手に鍵を渡す。
「うん、ありがとう」
○○は嬉しそうに2人に笑って礼を行った。
「おう!そろそろ腹が減ったな!」
ビクトールはにこりと笑った。
「うん!美味しいの作るね!」
○○は真新しいキッチンで食事の仕込みを始めた。
こうして3人の新しい生活が始まった。
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