27
丘上会議の見学を終え、宿屋へと帰って来た。
「でも……自分達の同盟が襲われてるの、あんなに非協力的だと思わなかった……」
○○は寂しそうに呟いた。
「まぁな、それだけ自分が可愛いってのもあるし、面倒ってのもあるし、実際自分の所が襲われた訳じゃないからな」
ビクトールは軽く笑いながらそうこぼした。
「……。リューベとトトは、あんな目に合ったのに……」
○○は知らずに握り拳を作っていた。
「気持ちは解るが、上なんてあんなものさ」
ビクトールが皮肉気味に笑った。
宿屋のドアが開く。
「ビクトール!」
「アナベル!どうした?」
ミューズの女市長は入って来るなりビクトールを呼んだ。
その声にわらわらと酒場には皆が集まって来た。
「ハイランド軍も迫ってる。詳しくは市庁舎でするから来てくれ」
アナベルは張りのある声で簡潔に言う。
「なるほどな、了解だ」
ビクトールは残っていた酒を飲み干し、立ち上がった。ビクトールの声を聞き、アナベルは足早に踵を返した。
「僕たちも行きます!」
U主とジョウイがビクトールの前に出る。
「お前たち……」
「行かせてください!」
2人の少年は真剣な目でビクトールを見上げた。
「解った、準備をしろ」
ビクトールは静かそう告げた。
「みんな!気を付けてね!」
そして、宿屋を後にした。
戦闘はビクトールとフリックの傭兵仲間だったギルバートを見事寝返らせる事に成功した。
「あ、忘れてた」
○○はリュックサックから、ビクトールから預かっていた物を見付けた。
それを持って酒場に行くと、ビクトールとフリックが酒を飲んでいた。
「また飲んでる」
○○は少し呆れて2人を見た。
「まぁな、飲みたい時もあるんだよ」
「いつもじゃない」
「違いない」
がははと笑うビクトール。
「あれ?レオナは?」
「お使いだ。だから、こうして俺達2人がお留守番を承っているんだぜ」
ニヤニヤとビクトールが笑った。
「…………。あ、そうそうビクトール!忘れてたんだけど、これ」
「なんだ?」
「砦で預かっていた物」
ビクトールに包みを渡した。
「あぁ!そうだったな!助かった」
ビクトールは包みを受け取ると思い出した。
「なんだ?」
フリックも興味深そうに聞く。
「アナベルと飲もうと思ってな。取り寄せてあったんだ」
ビクトールが包みを取ると、中から綺麗な瓶が出てきた。
「お酒?」
「あぁ。あいつは忙しくなると、すぐ休みを取らなくなるからな。息抜きに、な」
ビクトールはそう言うと、大事そうに瓶を持った。
「そっか。思い出すの遅くてごめんね」
「いや、これから丁度行って来る所さ」
ビクトールは席を立ち上がった。
「そっか、アナベルさんに宜しく伝えてね」
「あぁ」
にっこりと笑う○○の頭を、ポンポンとビクトールは叩いた。
そして、宿屋を後にした。
「ビクトールもアナベルさんも、自分の幸せは考えないのかしら?」
○○はビクトールの出て行ったドアを見つめた。
「……お互いに立場が違い過ぎちまったんだろ」
フリックは酒をぐいっと飲み干した。
「でもさ!忙しい人こそ家族って大事だと思うの」
○○はビクトールの座っていた席に腰掛けた。
「そうかもな。でも、上に立つ人間が国や街より大事なもんが出来ると、それに足をすくわれたりするもんさ」
フリックは酒をジョッキにそそいだ。
「好きな人の為に頑張るって、ならないの?」
○○は眉根にシワを寄せる。
「……愛する者が欲望と解っててそれを望んだら、それを手に入れさせてやりたくなる」
フリックはぐいっと酒を煽った。
「力を手に入れた人間に陥りやすい事さ」
フリックはじっと○○の目を見た。
「……ふーん……」
○○は小さく唸り始める。
「もしかしたら、アナベルさんは……それほど好きなのかな……」
○○はポツリと呟いた。
「かもな」
フリックはそう、頷いた。
「はぁ、なんでもっと簡単に考えられないのかしらー」
○○はテーブルに突っ伏した。
「人の命が係ってるからだろ」
「……なるほど」
フリックはジョッキに口を付けながら○○を見た。
「フリックは凄いね」
「あ?」
「私なんて、まだまだ。なんか、無駄に生きてきた訳じゃないのに……」
○○はテーブルに頭を押し付けたまま、小さく弱音を吐く。
「……俺は○○の方が凄いと思うぞ?」
「……?」
フリックの言葉に少し頭を上げる。
「弱いくせに他の奴の事を優先して自分が辛い目にあってみたり、かと思うと能天気な事言い始めたり」
「ちょっと、褒めてないでしょ?」
くくく、と笑いながら言うフリックに対して○○は口を尖らせた。
「俺はそんな所に……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……。荷物の整理は終わったのか?」
「……あ、やってる所です」
「なら、早く行ってこい」
「い、行って来る」
微妙な空気が流れ、フリックも○○もお互いに焦りながら、別れる。
階段を昇り、振り返るとフリックと、丁度目が合った。
「……なんだ?」
「ううん。……フリック」
「ん?」
「ありがとう」
「っ!な、なんだよ、急に」
「なんとなく、よ」
それだけ言うと、パタパタと○○は階段を昇りきり、部屋に入った。
「……まいった……」
フリックの呟きは誰もいない酒場に消えて行った。
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