26
「どうしたの?」
夕方に酒場に行くとフリックが一人で酒を飲んでいた。
「あぁ。U主達がハイランド軍の駐屯所へ偵察に行かされてたんだよ」
フリックが静かに言うが、怒りが滲み出ていた。
「え?そ、そんな!危険な!!」
○○はつらそうに声を出した。
「しかも、ジョウイがまだ帰って来ていないんだ」
「え……」
○○が辛そうにフリックの向かいの席に腰を下ろした。
「そ、そんな……」
「大丈夫だ」
「え?」
青い顔をしたまま○○が聞き返す。
「大丈夫。そう思っていると大体の事はうまくいくさ」
フリックはグイッと酒を煽った。
「……。そうね」
○○は大人しくテーブルに目を落とした。
「ジョウイ!ジョウイが帰って来た!!」
ナナミの大声に○○は腰を上げた。
「な、大丈夫だったろ?」
「うん!」
フリックの静かな声に○○は嬉しそうに笑った。
U主、ナナミ、ピリカは素直にジョウイが帰って来た事を喜んだ。
しかし、ジョウイは一人、笑顔に翳りがあった。
翌日
「へー!丘上会議を見学に行くんだ!」
「そうなの!」
ナナミは嬉しそうに○○に報告をした。
「良いなぁ、私も行きたい」
にこにこと○○が笑った。
「一緒に行きましょうよ!」
U主がそう提案した。
「あ!良いね!一緒に行こうよ○○さん!」
ナナミもそう言って○○のワンピースの袖を引く。
「え?でも、ピリカちゃんと遊んでないと」
「私が見てるから行っておいでよ」
レオナがキセルをふかしながら言う。
「え?い、良いのかな?」
○○がおずおずと提案に乗り始めた。
「そうですよ!行きましょう」
ジョウイまでもがにこりと笑った。
「じ、じゃあ、定員オーバーだったら素直に帰って来るわ」
○○はそう言うと、U主、ナナミ、ジョウイの4人で、宿屋を後にした。
「お!○○も来たのか!」
ビクトールが丘の入り口で待っていた。
「一人増えても大丈夫?」
○○が不安気に聞いた。
「大丈夫だろ」
「やった!じゃあ、早く行こう!!」
ビクトールの言葉にナナミがはしゃぐ様に急かした。
「な、ナナミ!転けないでね!」
U主がはしゃぐ姉を心配そうに追いかけた。
「なに?この顔が証明書だろうが?!」
入り口の係員の女性に向かってビクトールは怒りながら口を開いた。
「誰ですか?!ちゃんと許可書を持ってきてください!」
係員の女性は頑なにそう捲し立てた。
「お前ら何を騒いでいるんだ」
呆れた様に現れたのはフリックだった。
「ふり」
「あなた!もしかしてフリックさんですか?!'青雷'の?!」
ビクトールの言葉に被せたのは係員の女性。興奮気味に捲し立てた。
「……あ、ああ」
フリックは女性の勢いに気圧されながら答えた。
「私!大ファンなんです!!あの、握手して貰って良いですか?」
女性は声高く手を出した。
「い、いや。もうすぐ会議が始まるから……」
「感動です!ありがとうございます!!あ、お連れの方もどうぞ!!」
フリックの手を無理矢理握って握手をすると、上機嫌で入り口をあけた。
「……」
「……なんで、お前ばっかり」
「知るか!」
悲しそうなビクトールにフリックは呆れながら叫んだ。
「フリックさーん!モテモテ!」
ナナミがニヤニヤとフリックを覗き込む。
「うるさい!」
フリックがナナミを怒鳴った。
「フリック、色男は辛いわね」
○○もニヤリと笑った。
「お前な……」
フリックは疲れた様にため息をついた。
「わー!凄い!」
会場内は既に、会議者達が入室を始めている所だった。
「な、ナナミ、あぶな」
「きゃ!」
ドンッとナナミにぶつかったのは、白い軍服の背は低いが体の大きな男だった。
「邪魔だ小娘」
男は馬には乗れそうもない巨体を揺らしてナナミの横を通り過ぎた。
「なっ!なによ!そっちが当たって」
「失礼しました、レディ。お怪我はありませんか?」
先程の男と良く似たデザインの赤い軍服に身を包んだ好青年がナナミの前でしゃがみ込み、手を差し出した。
「え?レディって私?!」
ナナミは驚きながらその青年の手を取った。
「なにぶん、急いでいたもので。許していただけますか?」
青年はにこりと紳士的な表情でナナミへと聞いた。
「え?あ」
「おい、カミュー何をしているんだ!行くぞ」
ナナミがわたわたと慌てていると、また、似たデザインの青い軍服に身を包んだ青年が声を出した。
「騎士の務めを果たしている所さ。では、レディ」
赤い軍服の青年ーーカミューはにこりとナナミへ上品な笑顔を向けると、優雅な足取りで他の2人を追った。
「なっなっなっ!レディだって!」
ナナミは興奮気味にU主の背中をバシバシと叩いた。
「い、痛いよ、ナナミ。ほら、席に座ろう」
○○は困った様にナナミを席に座らせた。
「ねーねー、今の人誰かな?」
ナナミは声高く聞いた。
「あ?あー、マチルダ騎士団の奴だな」
ビクトールが先程の3人を見ながら答えた。
「えー!騎士団!!カッコイイ!!ね?」
ナナミはジョウイにも声をかけた。
「そ、そうだね」
ジョウイは呆れながらも頷いた。
「えー、感動が少ないよ!ね?○○さん!素敵だったよね!」
ナナミが今度は○○へと向く。
「うん!凄い素敵だった!良いなぁ!ナナミちゃん!!」
さすがは女性の○○。やはり興奮している様だ。
「……ああ言うのが好みか?」
フリックが呆れた様に口を開いた。
「フリックさん!女性はやっぱりカッコイイ男性を見てしまうわ!」
○○がきりりと真面目にフリックに言う。
「フリックだって、美人に弱いくせに」
「あぁ?」
ぽそりと呟くとフリックは怒った様な声を上げた。
「大丈夫!フリックも滅多に見られない男前だから!」
○○が先程より小さな声で、フリックにだけ聞こえる声で囁いた。
「っ!!」
「あ!始まるー」
すでに○○は会議に気を取られたが、フリックは驚きの表情で○○をしばらく見つめていた。
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