25

「最近、そればかり見ているな」

ハイランド軍で知将と呼ばれるクルガンが猛将と呼ばれるシードを見た。

「あ?あぁ」

シードはソファに寝転がり、猫がモチーフとなっているチェーンの切れたネックレスを眺めていた。

「何か曰く付きのものか?」

さしてその物自体には興味は無いが、あまりにも時間があるとそれを見ている相棒には興味をそそられるようだ。

「いや……。傭兵の砦でコックをやってた女のもんだ」

シードは揺れる猫をぼーっと見つめる。

「…………そうか」

クルガンは呆れた様にシードから視線を外した。

「それがさ、なかなか良い女でさ!こう、怖がってるくせに、他の奴の事考えたり、気丈に振る舞ったり」

「……」

シードは楽しそうに話すがクルガンは机に向かい、仕事をこなす。

「別にナイスバディとかじゃないんだけどさ!触り心地は良いし、感度もよさそうだったな」

「……」

「あとなー!声も良かったぜ!っておい、クルガン!聞いてんのか?!」

「いや」

「って、聞いてるじゃねーか!」

クルガンの感情のこもらない声にシードは突っ込みを入れる。

「ったくよー!あの青雷が邪魔しなかったらなー」

「……お前がそんなに執着するのも珍しいな」

クルガンはようやく書類から目を離した。

「あー?そうか?」

「来る者拒まず、去る者追わずじゃないか」

クルガンは呆れた様に言う。

「あー、そうかもな」

シードはネックレスに視線を戻した。

「今度会ったらかっ拐って来るか」

シードはぽつりと呟いた。

「拐ってどうするつもりだ」

クルガンは仕事を再開させた。

「そんなん、嫁にすりゃ良いだろ!つーか、それしかないな」

シードは良い考えを思い付いた子供の様に笑った。

「……強姦した相手をか?」

「み、未遂だ!」

シードの言葉にクルガンはため息をついた。

「恐怖を与えたのには代わりあるまい。そんな相手が喜んで嫁に来るわけがないだろう」

「そ、そんな事……」

「ある」

「……」

珍しくシードは落ち込んだ様に押し黙った。

「はぁ。名前は?」

「あ?」

「相手の名前だ。少し調べてやる」

「クルガーン!!」

呆れながらもシードに甘いクルガン。シードは感動した様にクルガンに抱き付いた。

「えぇい、鬱陶しい。で?名前は?」

「……知らねー」

「は?」

シードの言葉にクルガンは間の抜けた声を出した。

「知らないぜ。傭兵の砦のコックだって事くらいだな」

シードは考え込みながら口を開いた。

「…………………………そうか」

クルガンは盛大にため息をついた。


ーーーコンコンッ


「クルガン様!シード様!」

「入れ」

兵士が入って来た。

「次はミューズへ向かうとの事です!今回はジル様もおいでになります」

「は?ジル様が?」

シードは不思議そうに声を上げた。

ジルとはルカ・ブライトの妹君である。

「詳しくは大広間にてとの事です!」

敬礼をすると、兵士は部屋を後にした。

「ミューズか!」

シードはニヤリと笑った。

「女にかまけるのは良いが、仕事はしろよ」

クルガンはシードに厳しく言った。

「おう!任せておけって」

シードは握り拳を作って答えた。








「お帰り。おや、子供達は?」

レオナが不思議そうにビクトールとフリックを見た。

「あぁ、何でも、ジェスのお手伝いだとさ。レオナ、酒!」

ビクトールはよいしょと椅子に座った。

「はいよ。フリック、あんたもかい?」

「あ、あぁ。○○は?」

フリックはキョロキョロと見回した。

「○○かい?あの子なら洗濯物を取り込みに中庭にいるよ」

レオナは酒をつぎながら言った。

「そうか。俺の酒は後で良い」

フリックはそう言い残すと中庭へと消えて行った。

「ふーん。あの2人って、どうなってるのかね?」

レオナは酒をビクトールに渡しながら口を開いた。

「あぁ?さーな」

ビクトールはフリックの消えた方を見ながらため息をついた。





「【ふくしゅうの大地】!」

唱えると、○○の右手に宿った土の紋章がすぐに光出した。


ーーーキーン


「ふぅ……」

○○は自分にかかった魔法をキョロキョロ見る。

「補助系魔法って、良く分からないわ」

「○○!」

「フリック、お帰り」

名前を呼ばれて振り替えればフリックがこちらへ向かって来た。

「紋章の練習か?発動までの時間が短いな」

フリックは肝心した様に○○を見た。

「良い所に来たわ、フリック!ちょっと私に攻撃してみて!」

「は?」

○○の言葉にフリックは眉根を寄せる。

「今ね、【ふくしゅうの大地】を自分にかけたんだけど、ちゃんとかかってるか分からなくて……」

「いや、だからって」

○○の言葉にフリックが困った顔をする。

「ダメ?じゃあ、練習でも勿体なかったかな?」

○○も困った様に右手を見た。

「おりゃ」

「きゃっ!」

○○が油断した隙に、フリックが右手で○○を叩こうとした。

「お、ちゃんと反撃したな」

フリックの手を避けて、自分の手で逆にフリックを叩いていた。

「ご、ごめんね!」

フリックを叩いてしまった事に○○は謝った。

「お前の攻撃なんぞ、痛くも痒くもないな」

はははとフリックは笑った。

「そ、そっか。でも、勝手に体が動いて変な感じね」

○○は不思議そうに自分の両手を見た。

「そうだな。紋章は慣れだからな」

フリックはにっこりと笑った。

「そうだね。頑張る!あ、フリックがここに来るのも珍しいね?洗濯物?」

○○が畳んだ洗濯物を籠に入れながら聞く。

「いや、これをな。今朝渡し忘れて」

フリックがカサカサと小さな箱を取り出した。

「これは?」

フリックが投げて寄越した小さな箱を○○は受け止める。

「開けてみな」

「うん」

フリックに促され、箱を開ける。

「これ……は?」

中からは小さな薄いピンク色の真珠がひとつ付いたネックレスが出てきた。

「ピンクパールのネックレスだと。朝市で買ったんだぜ」

フリックはにこりと笑った。

「え?パール?!そ、そんな高級な物貰えないよ!」

○○は慌てて箱の蓋を閉めるとフリックへ押し返した。

「は?」

てっきり喜ばれると思っていたフリックは少し驚く。

「だ、だって!パールって言ったら海で取れる宝石でしょ?そんな高価な物、受け取る理由がないもの!」

○○はそう捲し立てた。

「……それしか○○が持ってる指輪を付けられそうな物が無かったんだよ」

フリックは○○の態度にムッとして声を出した。

「え?あの指輪の為に?」

○○はフリックをキョトンと見上げた。

「でも、そこまで言うなら……。これ売ってた店、閉店するから安く買えたのにな」

「そ、そうなの?」

「あぁ。でも俺は使わないしな。捨てるか……」

「っ!!」

「質にでも入れるか……」

フリックはそう言いながらチラリと○○を見る。

「せっかく朝早く起きて行ってきたのにな」

「ご、ごめん、フリック。あの」

○○は小さく謝る。

「なんだ?」

「も、もし良かったら、それ、私にくれる?あ、買い取るのでも良いし!」

○○は申し訳なさそうにフリックを上目使いで見上げた。

「初めっから、素直にそう言えば良いんだよ。ほら、指輪出せ!」

笑顔のフリックに促され、財布から指輪を出した。

「はい」

「よし、ほら、後ろ向け」

フリックが手早くネックレスに指輪を通した。

「え?」

「付けてやる」

フリックは言いながらくるりと○○を反転させた。

「髪の毛上に上げろ」

「うん」

片手で髪の毛をかきあげると、フリックは器用にネックレスを○○の首に付けた。

「ほら、出来たぞ」

フリックの声に合わせて○○は自分の首にかかったネックレスを見た。

「ありがとう、フリック!今度こそ大事にするね!」

○○は頬を染めながら嬉しそうに笑った。

「……あぁ」

その顔にフリックは見とれてしまったが、○○はネックレスに夢中で気付かなかった。

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