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「お!○○!!無事だったか?!」

合流地点にはビクトールが馬と一緒にいた。

「う……うん。生きてる」

○○は曖昧にそれだけ言うとフリックのマントをきつく握った。

「そうか、とにかく良かった」

ビクトールは何となく事態を察知して、○○の頭を二回ぽんぽんと叩いた。

「う……ん」

○○は耐えていた涙がゆっくり流れた。

「よしよし」

ビクトールは優しく笑うと、頭を撫でた。

「猛将に会った」

フリックはふぅーと息を吐いた。

「何?!猛将って、あのシードとか言う奴か?」

ビクトールは驚いて目を丸くした。
○○はシードの名前にビクリと体を震わせた。

「あぁ」

フリックは馬の様子を見る。

「そうか、○○。良く無事だったな」

ビクトールは肝心した様に○○を見た。

「フリックが来てくれなかったら……。ありがとう、フリック」

○○はにっこりと笑ってフリックを見た。

「あぁ。俺もな、あの時は助かった」

フリックは馬が走れる事を確認すると、○○に近付いた。

「あの時?」

「【ねむりの風の札】」

「あぁ!」

○○はポンと手を叩いた。

「でも、ねむりって」

フリックは呆れた様に笑った。

「え?だって!他に持って無かったし」

○○は不思議そうに頭を傾げる。

「おいおい」

フリックははぁーと溜め息をついた。

「な、何で溜め息?」

「ねむりの風は強い相手にはかかりにくいんだよ」

ビクトールが苦笑いをしながら教えた。

「そ、そうだったんだ!……効いて良かった……」

○○は恥ずかしそうにうつ向いた。

「いや、助かったのは事実なんだからな」

フリックは優しく笑うと、○○の頭を撫でた。

「さて、ほんじゃま行くか!白鹿亭」

ビクトールがそう言いながら馬に乗る。若干、恐る恐るだ。

「え?ミューズじゃないの?」

○○は不思議そうにビクトールを見上げる。

「……あー、まぁ、急がなくて良いだろ」

ビクトールは歯切れ悪く言う。

「ほら」

フリックがひょいっと○○を馬に越せ、自分はその後ろに乗る。

「この格好であんな街の中を歩きたくはないだろう」

フリックが耳元で静かに言った。

「っ!そ、そっか、ごめん。ありがとう!」

○○は今更ながら自分の姿に恥ずかしくなり身を縮めた。

フリックはそんな○○を優しく見ると、馬を走らせた。







「いらっしゃいませ」

白鹿亭に着いて、一番に見たのは女亭主のヒルダの優しい笑顔だった。

「3人だ」

ビクトールが手短にそう言うと、ヒルダはにこりと笑って鍵を二つ用意した。

「シングルとツインで宜しいてますね。では、こちらへ。お風呂の用意は出来ていますよ」

ヒルダは○○の格好を見ても騒がす、慌てず、浴室へ案内した。

「殿方はお部屋へどうぞ」

「あぁ、任せるよ」

ビクトールは軽く手を振ると、フリックと二人で二階の客室へと消えて行った。

ヒルダは他の人間に○○の姿を晒さない様に、然り気無く浴室へと案内する。



「はい!我が宿の自慢のお風呂です!貸切りにしますから、ゆっくり汗を流すと良いわ」

ヒルダはにこりと風呂の蓋を開けた。

「あ、ありがとう」

○○はヒルダの然り気無い優しさにまた涙が出そうになった。

洗い場に置いてある椅子に座り、洗面器でお湯をすくい、体にかける。

「っ!!」

知らすぬまに付いた小さな擦り傷はお湯に濡れると痛んだ。

体と髪を丁寧に洗い湯船に浸かる。

「ふぅ」

一日で、色々な事があったせいか、とても疲れてしまっていた。

○○は静かに目を閉じて鼻のすぐ下までお湯に浸かる。


「っ!!」


すぐに、先程のシードとの行為が思い出され、恐怖が甦って来た。

「お客様ー」

「あ、はい!」

ヒルダの呼ぶ声にホッとして、声を出す。

「ここにタオルと、私のお古で申し訳ないのですが、服を置いておきますね。後、下着は新品ですから!」

「すみません」

ヒルダの優しい声に○○は自然に笑顔になる。

「いえ。それと、要らない物がありましたら、この袋に入れておいてくださいね」

ヒルダはそれだけ言うと、部屋へと消えて行った。

「良い人……」

○○はほっこりとした気持ちになり、風呂を満喫した。



風呂からあがり、着ていた服や下着は全て処分した。
お気に入りの下着ではあったが、とても履く気にはなれなかった。

用意して貰った着なれない服を着て、フリックのマントを丁寧に畳むとフロントに出た。

「もう宜しいのですか?」

いち早く気が付いたヒルダが○○へと声をかける。

「はい!あの、ありがとうございます」

○○は美人女亭主にお礼を言う。

「いえいえ。この世は持ちつ持たれつですわ。はい、お部屋の鍵です。すぐにお食事になりますので、お連れのお客様とこの階の食堂へお越しください」

ヒルダはにこりと食堂の方を手で示しながら言った。

「はい」

○○は鍵を受け取ると、まずは自分の部屋へと入り、リュックサックを置いた。
そしてすぐに隣の部屋をノックする。


ーーーガチャッ


「あ、食事だから食堂へだって」

ドアが開き、ビクトールが出て来たので、手短に言う。

「おう!腹も減ったしな……」

ビクトールはそう言いながらもじっと○○の格好を見ている。

「な、何よ……。あぁ、この服?ヒルダさんのお下がりを貰ったの!普段こんな服着ないからね、変?」

○○はビクトールのジロジロと見て来る視線に、照れながら答える。

ヒルダの用意した服はとても可愛らしい膝たけのワンピースで、ヒルダが着るにも少し若い感じの物だ。

「いやいや!良いぞ!馬子にも衣装だな!」

「それ、褒めてないわよ!」

ビクトールの軽口に○○は言葉を荒げた。
いつもの様なやり取りに、○○はビクトールに心の中で感謝した。

「入り口で何をやってるんだ」

呆れた様にフリックが出て来た。

「いや、○○の格好が似合ってるって話だ」

ビクトールがニヤニヤとフリックを手招きする。

「ど、どうかな?」

やはり、何故か照れながら○○はフリックに聞いた。

「あぁ。似合ってるぜ」

フリックは素直ににっこりと笑った。

「ありがとう」

○○は嬉しそうに笑った。

「それだけー?それだけですか?色男さん」

ビクトールがつまらなそうにフリックを見る。

「充分だよ!それにビクトールは一言余計なの!」

○○は少し怒った振りをしてビクトールを見上げる。

「だとよ、熊」

フリックはニヤリと笑いながらビクトールを見た。

「二人とも冷たいわー」

ビクトールはすねた様に口を尖らせた。

「ほら!早く行こう?私、お腹ペコペコだよ!」

○○は二人の手を引く。

「そうだな」

「よし!行くか」

二人は素直に○○に従った。

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