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砦の外は傭兵達以外にもハイランド軍が敷地内に入っていた。


「うっ……!」

○○は恐怖で震える足を叱咤して何とか動かす。

「おっ、砦の人間か?」

急に声をかけられた○○は尻餅をついた。
後ろから人影が近付いて来たと思ったら、あっという間に剣を突き付けられていた。

「う……」

恐怖で声が出ない○○はもたつく手足で何とか少しずつ後ろへ下がる。

「へー、声も出ないのか?可愛いなぁ」

ニヤリと笑うハイランド兵に冷や汗を滴ながらも何とか逃げようと立ち上がろうともがく。

「っ!」

「おっと!」

○○は何とか立ち上がり、走り出すが、すぐに別の人間にぶつかった。

「ぐわぁっ!!!」

ぶつかった男に抱き抱えられたと思ったら、最初のハイランド兵の男が悲鳴をあげ、突っ伏した。

「うちのコックをあんまし虐めるなよ」

「ビクトール!!!」

ビクトールは血の付いた剣を振り、血を落とす。

「大丈夫か?悪いな、負けちまった」

ビクトールは真剣な表情でそう言うと剣を持ち直した。

「ううん!ビクトールが無事で良かったわ!他の人は?」

○○はビクトールにしがみついて聞いた。

「フリックはその辺にいると思うが。U主達はピリカを迎えに来てるはずだ」

ビクトールは早口でそう言うとやんわりと○○を引き剥がした。

「○○、ここはもうダメだ。とにかくミューズを目指せ!そこで落ち合おう。ちゃんと生き残ってな」

ビクトールはイタズラっぽく笑った。

「……いっしょ……ううん!ミューズで待ってるわ!」

○○は不安そうな顔をしたが、何とか自分を奮い立たせてニッコリと笑った。

「よし、良い子だ!アップル!!」

ビクトールは端に隠れていたアップルを呼ぶ。

「とりあえずは2人で一緒に逃げろ!ちゃんとミューズに行くんだぞ!」

「うん!」

「わかった!」

アップルと○○はお互いに頷く。

「よし、行け!俺達はまだやる事があるんだ!」

ビクトールに促され、アップルと○○はなるべく人気がない所を選んで走り出した。

「はぁっはぁっ」

「はっはっ」

近くに聞こえるのは2人の呼吸だけだが、遠くからは人の悲鳴、断末魔、焼ける音、倒れる音、戦う音が響いて来る。

臭いも血の臭いから、人の焼ける臭い、錆と鉄の混ざり合う不快な臭いが立ち込めていた。



「きゃっ!」

「アップルちゃん!」

アップルが石に躓き、倒れた。
○○は急いでアップルの傍らに引き返す。

「大丈夫?!」

○○がしゃがみこみ、手を差し出す。

「ひっく、ひっく」

アップルから聞こえるのは小さな泣き声だった。

「わ、私のせいで……」

「アップルちゃん……」

アップルは泣きながら口を開いた。

「いくらマッシュ先生の真似事をしても、私はマッシュ先生にはなれない……」

アップルは体を起こした。

「ダメだった……。私じゃ、ダメだった……」

「アップルちゃん。その、マッシュ先生って言うのは?」

優しい声で○○は聞いた。

「私の先生で、門の戦争の時の軍師をしていた方なの」

「軍師?ひょっとして、シルバーバーグ?」

「そう、マッシュ・シルバーバーグ。初代解放軍リーダーオデッサ・シルバーバーグの兄……。とても優秀な人だったわ……。軍師だけでなく、人間としてもとても尊敬出きる人だった」

アップルはポツリポツリと話始めた。

「オデッサ……。アップルちゃんは頑張ったよ。まぁ、負けはしたけど」

「軍師は!!軍師は負けたら意味かないわ……。先生だって」

涙の残る瞳でアップルはキッと○○を見上げた。

「アップルちゃんは軍師として初めての戦争だったの?」

「そう。だから、先生みたいに。失敗なんてしちゃいけなかったのに」

アップルは自分を責める様に声を出す。

「でも、マッシュ先生は優秀な軍師様だったんでしょ?今のアップルちゃんとは違うわ!」

○○の言葉にアップルは力なく頷く。

「今回は負けたけど、何?まだビクトールもフリックもみんないる!アップルちゃんもいるじゃない!ルカ・ブライトに一泡吹かせてやりましょうよ!」

○○はにこりと笑う。

「ここが落ちて「はい!おしまい」じゃないでしょ?!まだミューズもある!守らなきゃ!戦わなきゃ!!」

「○○さん……はい、そうですね」

アップルは少しずつ力を取り戻した様に笑った。

「ほら!立って!とりあえずは逃げなきゃ!ここを生きて逃げないと意味がないもの!」

○○の指したした手をしっかり握ったアップルは立ち上がった。

「ええ!まだ戦わなきゃですよね!」

「うん!」

2人はまた、走り出した。

「マッシュ先生ってどんな人だったの?」

「厳しいけど、優しい人でした」

アップルは柔らかく微笑んだ。

「へぇ、軍師様って、偉そうにいつも不敵な笑顔でふんぞり返って自信満々な人なのかと思った」

○○はニヤニヤと笑った。

「そんな人……います」

「え?いるの?」

「はい、シュウ兄さんならこの状況をすぐに打開してくれそう……」

アップルは急に真剣な目でブツブツ言い始めた。






「おっと、そこの嬢さん達」

すっかり気を取られて気付かずに敵に近付いてしまっていた。

「っ!!猛将、シード!!」

「猛将?」

アップルの焦った声に○○はその男を見た。

赤い髪に不敵な笑顔。白い軍服には戦争の後の汚れが付いていた。

「おや、俺の事を知っているとは光栄、だな?」

男ーーシードはニヤリと笑う。

「ハイランド軍の猛将、シード。家の位は低いけど腕一本でのし上がった実力者よ」

アップルの頬をスーッと汗が流れた。

「この辺人がほとんど来なくてよ、暇なんだわ。俺だって、本当は砦まで行って'風来坊'やら'青雷'やらと殺り合いたかったんだがな。運ないのかね?」

シードは軽話をする様に剣を振りながら喋る。

「アップルちゃん、この人強いのね?」

○○はコソコソと小声で話始めた。

「えぇ。とても」

アップルは硬い表情で頷いた。

「合図を出すわ、そしたら2人別々へ逃げましょう」

「え?!」

「このままじゃ、2人とも死んでしまうわ。2人で逃げても……。なら、どちらかが犠牲になってる間にどちらかが逃げられる……かもしれない」

○○の言葉にアップルは真剣に考える。

「どちらかが追いかけられても恨みっこなしよ?」

○○はイタズラっぽくウインクをした。

「……そうね、このまま共倒れよりましかもね」

アップルは薄く笑うと頷いた。

「おーい、お2人さん。何かの作戦会議は終わったかい?」

シードは暇そうに剣で肩を叩いた。

「いち、にっさん!!」

○○の声に2人は同時に左右に別れた。

「おっ!逃げるのか!」

シードは楽しそうにニヤリと笑う。


「あれ?逃げないのか?」

アップルがシードの視界から消えたのを見計らって○○はシードへと向き直った。

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