13
そして、とうとう傭兵の砦も戦場となる。
「来たな」
「あぁ」
ビクトールとフリックが厳しい目を遠くに見えてきた王国軍を見た。
「お前ら!!!気を引き締めて行けよ!!!」
「「「おぉ!!!」」」
ビクトールの怒号に傭兵達は叫んだ。
「凄い……体がビリビリする」
○○はベランダから外の様子を見ていた。
「あぁ、これが戦争だからね」
レオナは厳しい目で同じように外を見た。
「……あんなにいっぱい……。大丈夫……かな……」
○○は真剣な表情で口にした。
「……さぁね」
レオナはふーっとキセルをふかした。
そして、徐々に両軍は近付いて行きーーー
「目を反らすなら部屋にいな」
レオナは柔らかく微笑んだ。
「いえ、そう言う訳には……」
○○は現実に戦っているビクトールやフリック、U主達を見守る。
そしてーーー
「あ?王国軍が退いていく!!」
「勝ったのかね」
二人は最後まで見続けていた。
「おかえりなさい!」
急いで階段をかけ降り、玄関を飛び出し、帰って来た戦士達を出迎える○○。
「あぁ」
「まだ、これで終わりじゃないだろうからな、気を引き締めておけよ」
疲れをあまり見せない様にするフリックとビクトールに対し、U主やジョウイは辛そうにぐったりと座っていた。
「みんな!ご飯出来てるから、食べて元気になって!」
○○はなるべく元気な笑顔で食事を配り始めた。
「ありがたい」
「はぁ!生き返る!!」
戦い慣れた傭兵達は○○の差し出す食事をガツガツと食べていく。
「うん!まだまだあるからね!たくさん食べてね」
○○はニコニコとスープを配る。
「○○!!」
「ビクトール!」
ビクトールが○○へ近付いて来た。
「悪いが、これをお前のリュックに入れておいてくれないか?」
ビクトールはそう言うと○○へ包みを渡した。
「これは?」
○○は不思議そうにビクトールを見上げる。
「おう、大事な物なんだ。頼めるか?」
ビクトールはニカッと笑った。
「わかった!ビクトールが私に頼み事って珍しいね。嬉しいけど」
「頼りにしてるぜ!」
ビクトールはそれだけ言うと忙しそうに走り去った。
「ほら!U主君もジョウイ君も食べて!」
しゃがみこむ2人は全く食事に手をつけていなかった。
「○○さん……」
「すみません……食欲が……」
2人はぐったりとそれだけ言う。
「でも、せめてスープだけでも」
○○は心配そうに覗き込む。
「ほらほら!2人共!!お姉ちゃんが特別に用意したよ!!」
ナナミが鍋を持って走って来た。
「な、ナナミ!」
「あ、○○さん!スープください!!」
U主とジョウイは慌てて○○からスープを受け取るとごくごくと飲み干した。
「……」
○○は呆然と2人の行動を見た。
「ありがとう!ナナミ!!でも」
「そ、そうなんだ!今、○○さんのスープ貰ったから!」
U主とジョウイは口々にナナミに言うが、
「スープだけじゃ元気出ないでしょ?!はい!煮込みハンバーグだよ!」
ナナミはニコニコと鍋の蓋を開けた。
「わぁ!良い匂いね」
○○が、その良い香りと見た目の煮込みハンバーグを覗き込む。
「でしょ?でしょ?!自信作だよ!○○さんも食べる?」
ナナミは上機嫌で鍋を○○へと差し出す。
「本当?じゃあ、一口」
「あぁ!!!」
「だ、ダメ!!」
手を出そうとした○○を慌てて止めるU主とジョウイ。
「え?」
「その、僕達とてもお腹が減ってるから」
驚く○○にU主はしどろもどろだ。
「でも、今さっき……」
「大丈夫だよ!U主!お姉ちゃんいっぱい作って来たから」
○○の言葉など気にする様子もなく、ナナミはニッコリと笑う。
「あー!あー!そうだ!○○さん!まだ配膳の途中ですよね?!」
ジョウイが大きな声で○○に話しかけた。
「あ、そうだった」
「それは!早く行ってあげてください!!他の人達も食事を待ってますよ!」
「そうね。残念だけど、ナナミちゃんの手料理はまた今度食べさせて!」
「うん!わかった!」
○○の言葉に少し残念そうにナナミは頷いた。
「「ほっ!」」
何故かU主とジョウイはほっとした様な顔をした。
食事を終えて、一息ついた時だった。
「来たぞ!!王国軍が来たぞ!!」
見張り台から大声と鐘の音が響いた。
「来たか」
フリックの顔が厳しいものに代わる。
「よし!お前ら!!!もう一戦交えるぞ!!!」
「「「おぉ!!!」」」
ビクトールの号令に傭兵達は急いで用意を整える。
「ビクトール!フリック!!」
○○は胸騒ぎを感じて、思わず2人を呼び止めた。
「お!○○!!行って来るぞー!」
ビクトールが大きく笑顔で手を振った。
「気を付けてね!」
○○は不安定そうにそう声をかけた。
「あぁ!」
フリックがそれに答え、軽く手をあげた。
そして、再び戦場へと傭兵達はかけて行った。
ビクトール達が率いる傭兵達が優勢かに見えた。
がーーーー
「何か……嫌な感じ……」
ぞわりと背筋に嫌な汗を感じながら○○は自分自信を抱き締めた。
「ーー!!後ろだ!!!」
傭兵の叫び声を聞き、砦の後ろを覗き込むと、そこにはーー
「ふぁ!はっはっはっ!!虫けらどもめ!!!」
狂皇子と呼ばれるルカ・ブライトの軍がそこにいた。
「っ!!!くそっ!!戻れ!!」
ビクトールの叫び声がするが、戦場はあっという間にハイランド軍が優勢かになる。
「ど、どうしよう!」
○○は真っ青な顔でレオナに向き直った。
「この砦はもう、ダメだね!生き残る為には逃げるんだ!!」
レオナは○○に厳しい声を出す。
「う、うん。そうだね」
○○は震える手を握りしめた。
「よし、ミューズに逃げるんだよ!」
レオナはそう言うと自分も準備をし始める。
○○はリュックを背負い直すと玄関へと足を向けた。
すでに外は火の海だった。
[ 13/121 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]