12
しばらくは平和な日々が続いた。
少年達は戦闘に長けた戦士や役に立つか怪しい者達も連れてきたが、戦力が多いに越したことはないと、傭兵達は歓迎した。
しかし、平和な日々は長くは続かず、トトの村が壊滅した。
「え?トトの村が?!」
○○は不安そうにU主とジョウイを見た。
「はい。それで、これからリューベへツァイさんと言う人に会いに行くんです」
ジョウイがしっかりとした口調で言った。
「そ、そう。気を付けてね。あ、ツァイさんに会うならこれを持って行って」
○○は今朝作った肉まんを包んで渡した。
「はい!必ず渡します」
U主は肉まんの包みをきちんとしまった。
「それで、レオナさんと○○さんにお願いしたいのですが。ピリカと言います」
ジョウイの後ろからひょっこりと女の子が表れた。
「あら、可愛い」
子供好きな○○は嬉しそうにピリカの前に座り込んで目線を合わせた。
「こんにちは、ピリカちゃん」
○○はにっこりと笑いかける。
「…………」
ピリカは少しだけ頭を下げた。
「ピリカはトトの村の生き残りで、今は……声が……」
ジョウイはつらそうに笑うとピリカの頭を撫でた。
「そっか。お兄ちゃんが帰って来るまでお姉ちゃん達と一緒にいよう?」
○○はにっこりと笑うと手を差しのべた。
ピリカは一度ジョウイを見上げて、大人しく○○の元に行った。
「良い子だね」
「では、宜しくお願いします。ピリカ、良い子にしているんだよ」
ジョウイはにっこりとピリカに笑いかける。
そして、少年達はリューベへと出掛けて行った。
傭兵達の夕飯が始まる時間。
「夜には帰って来るよ。ご飯食べよ?」
○○はピリカを誘って食事にする事にした。
ピリカは黙って従い、○○の隣に腰を掛けた。
「はい、どうぞ!召し上がれ」
ピリカはちらりと○○を見上げてから、食事を食べ始めた。
ピリカは一日中大人しく、レオナや○○、バーバラの所を行ったり来たりしていた。
結果的に砦の女性陣には慣れたものの、傭兵達の事は怖がっていた。
「寝たかい?」
「はい」
レオナの小さな声に○○も小さく頷く。
○○は眠りについたピリカの頭をそっと撫でた。
「疲れたんだろうね」
「知らない人ばかりで、……辛い事もありましたからね」
ざわざわ
「騒がしいね」
レオナは上の方を見た。
「帰って来たのかしら?」
「それにしては……」
レオナと○○はピリカの眠る地下から静かに出た。
「そうか……リューベも……」
フリックが怒りを露に声を出した。
「ルカ……。狂王子か。とりあえずご苦労さん!ゆっくり休んでくれ」
「はい……」
ビクトールの言葉に素直に頷くとU主とジョウイは会議室の扉を開けた。
「○○さん!」
驚いたU主は○○の青い顔を見て、叫んだ。
「……リューベ……が?」
○○はカタカタと震え始めた。
「○○さん」
「ツァイさん!」
顔見知りのツァイが真面目な顔で○○に近付いた。
「ほ、本当に……?」
○○は辛そうな顔でツァイの服を掴んだ。
「すみません。勝てる自信が無かったので、隠れて過ぎ去るのを待ちました」
「ツァイさん!」
「違っ!僕達が弱いから!ツァイさんは守ってくれて!」
正直に話すツァイに少年2人はフォローをする。
「あ……ごめんね。違うの……。責めてる訳じゃなくて……」
○○は青い顔のまま3人に首を振った。
「違っ……っ!!」
○○は涙を流すと踵を返した。
「○○!!」
フリックが去って行く○○を追った。
「待て!コラ!」
外に飛び出した○○をフリックは何とか砦の敷地内で捕まえる。
「離して!!」
○○はフリックを振り払おうと必死に手を振る。
「落ち着け!」
フリックは無理やり自分の方へ向けさせる。
「私、リューベが!みんなを!早く!」
○○はパニックを起こした様に叫んだ。
「もう、間に合わない!」
「っ!!!」
フリックの静かな低い声にびくりと動きを止める。
「今から行っても間に合わない。これからリューベへ行って、もし残党がいたらどうする?お前も無駄死にする気か?」
フリックの冷静な声に○○は泣き始める。
「だっ……だって……。ますたーが……。みんなが……」
ぽろぽろ涙を流して力無く○○はその場に座り込んだ。
フリックに握られている手だけを上げている格好だ。
「……○○。お前はミューズへ逃げろ」
フリックは静かにそう告げた。
「これからはここも戦場になる。お前を守ってる余裕は無くなるかもしれない」
「……」
フリックは○○の顔を覗き込む様にしゃがむ。
「明日には他のメイド達もミューズへ逃がすつもりだ」
「フリック……」
「お前も行け」
「……嫌」
フリックの顔を真剣に見返して○○は冷静に言った。
「嫌ってお前……」
「私まで逃げたら食事はどうするの?」
「そんなの、どうにでも……」
「反乱が起きても?腹が減っては戦は出来ぬ!でしょ?」
「……」
○○のしっかりとした声に今度はフリックが押し黙る。
「お願い!邪魔はしないわ!死んでも構わない!だから……」
「……簡単に死ぬとか言うな」
フリックは睨むように○○を見た。
「……死なないよ。私は。だからお願い!」
○○は手を組むとフリックをじっと見た。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はぁ」
「ね?」
「わかった。その代わり旨い飯作れよ」
「うん!ありがとう!フリック」
呆れ気味のフリックに笑顔満開でお礼を言う○○。
「とにかく、危ないと思ったら逃げろよ!」
「うん!」
「一人になるなよ!」
「うん!」
「それから……」
フリックは深呼吸をした。
「死ぬんじゃないぜ」
「わかった。どんな事しても生き残るわ!」
○○もにこりと笑って答えた。
第二の故郷と呼べるリューベも壊滅した。
残るは傭兵の砦だけとなった。
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