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○○は一晩を展望台で過ごし、朝日が昇ると同時に酒場にいた。

嫌な事を考えなくて済むのは忙しく働いている時。
なので○○は一心不乱に仕込みをしている。


「おや、○○!早いね」

レオナがやって来た時にはすでに仕込みも終わりかけていた。

「おはよう、レオナ!いよいよだたと思うと、もういてもたってもいられなくて」

○○は苦笑した。

「そうかい。そろそろ大広間で出陣式だよ。見に行かないのかい?」

レオナは○○を誘う。

「……うん。今日は良いや」

○○はフリックに会えないと笑顔で断った。

「そうかい」

レオナはそう言うと酒場を後にした。





「○○」

自分以外誰もいない酒場に入ってきたのはレオナに聞いてやって来たフリックだった。

「っ!お、おはよう、フリック」

○○は平常心を保ちながらそう挨拶をする。
しかし、フリックとは目が合わせられない。

「お前、昨日はどこにいたんだよ?心配したんだぜ?」

フリックがゆっくりと○○に近付く。

「…………ううん」

○○は首を横に振る。

「……○○?」

フリックはその反応に眉間にシワを寄せた。

「何でもないよ」

○○はフリックから顔を背ける。

「…………何かあったのか?」

フリックは静かに声を出した。

「…………」

○○はフリックに嘘をつきたくなく、無言だ。

「○○!!」

フリックは○○の肩を掴むと自分の方へ向ける。

「一体どうした?何があった?」

フリックは少し焦りながら声を出した。

「フリック……」

○○はじっとフリックを見つめる。

「早く、この戦争を終わらせて。勝ってきてね」

○○はにっこりと微笑んだ。

「…………ああ。任せとけ」

フリック一瞬戸惑ったが、そう笑った。






U主は美しい甲冑に身を包み、ルルノイエへ進撃して行った。

○○は一人部屋に閉じ籠っていた。

ベッドに座り、ただひたすらフリック達が勝って帰って来るのを待つのだった。





U主達はルルノイエを進み、ルシアを破り、ゲンカクと親友で敵のハーンを倒し、進んだ。

「U主殿、ここから先はブライト王家の居室……賊の入り込む場所ではありません」

U主の行く手をクルガンが立ち塞がる。

「ここが最後に残った俺たちの国。最後に残った、俺たちの誇り。それを汚させはしない!!!」

シードも立ち塞がった。負けていて尚力強い立ち振舞いの知将と猛将は敵ながら尊敬できる。

「そこをどいてくれ」

U主が声をあげた。

「ふざけるな!!それが出来ると、思ってるのか!!」

シードが声を荒げた。

「っ!!力付くでも通させてもらう!」

○○はトンファーを構える。

「そうだ、来な!」

「いきますよ、U主殿」

シードとクルガンも剣を抜いた。



両者一歩も退かずに戦う。

シードはフリックに剣を振り下ろす。
フリックはとっさに避ける。

「っ!!」

「フリック!!」

シードは避けたフリックの襟首を掴み、引き寄せる。
それを見てビクトールが叫んだ。

「○○を抱いたぜ」

「っ!なんだとぉっ?!」

シードが耳元で囁いた言葉にフリックは激昂した。

フリックは至近距離から剣を振り抜く。

「っと!はは、青雷のフリック。お前とは本気で殺り合わなきゃな」

シードはそれを避けながらニヤリと笑った。


シードとクルガンは強力な魔法を使ったり、絶妙な協力攻撃もしてきた。




しかし、たった二人の知将と猛将はU主達の前に倒れる。




「そんなに……不思議か……U主。俺たちが戦うことが……?」

倒れるシードはU主を見て声を出す。

「U主殿……貴方が同盟軍の希望だったように……ジョウイ殿もまた、我らにとって希望だった……。ルカ・ブライトを押し止め……ハイランドを導く……希望だった……それだけさ……」

クルガンもそう声を出した。

「行けよ…………俺達には……もう戦う力など……残ってはいないさ……」

シードは手を振る。

U主達はその場を立ち去り、前に進んだ。

「先に言ってくれ」

フリックが立ち止まるとU主を見た。

「え……」

「すぐに追う」

フリックの真剣な言葉にU主は頷いた。



「……青雷の……フリック殿」

シードがニヤリと笑った。

「何だ、猛将シード殿」

フリックがシードを見下ろす。

「これを……あいつに返さないとな。…………あー、血が付いちまったな」

シードは震える手で猫のネックレスを取り出す。

「……」

フリックは無言でそれを受け取る。

「何で……俺じゃなくて……お前なんだろうな」

シードはフリックを見た。

「さあな」

フリックはシードを見る。

「まぁ……これじゃあ……あいつを幸せ……に出来ねー……な」

シードは途切れ途切れに声を出す。

「……良いのか?これ」

フリックがシードの血の付いた猫のネックレスを掲げる。

「ああ、元々……お前がやったやつ……だろ?俺には……これがある」

シードは懐から大事そうにノートを取り出した。

「それは?」

「あいつが……記憶を無くして……た、時の……日記……だ」

シードは日記に優しく口付ける。

「……やっぱりお前だったのか」

フリックは静かに声を出した。

「まぁ……な」

シードは嬉しそうに笑った。

「来世が……あるなら……今度こそ……」

シードはニヤリと笑った。

「来世でもやらねーよ」

フリックは真面目な顔を少し歪ませた。

「容赦……ねーな……」

シードは笑った。

「あいつを……泣かせたら……地獄から……出ていくからな」

シードはフリックを見た。

「肝に命じておくぜ」

フリックはシードに背を向けた。




「クルガン……俺は楽しかったぜ……この国の事を想い……未来を想い……ぞんぶんに戦った…………」

シードは倒れたまま天井を見る。

「そうだな…………この国と運命を共にするのも……よかろう……」

クルガンは楽しそうに笑った。

シードは残る力で○○から貰った焼き菓子を口に入れた。

「……うまい」

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