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「……な、何で……」

○○は展望台の中に閉じ込められ、シードを見上げた。

「だから、お前に会いに来たんだよ。他にないだろ?」

シードはニヤリと笑った。

「っ!もしかして、さっきの空の影も?」

○○は先程チャコと見た異変を思い出した。

「そうだ。けど、安心しな。ここに忍び込んだのは俺だけだ。この事を知ってるのは俺とクルガンだけだしな」

シードはニヤリと笑った。

「しかし、お前凄いな」

シードは座り込む○○の正面にしゃがみ、目を間近で合わせる。

「な、何が?」

○○は警戒しながらシードを見る。

○○の警戒心剥き出しの顔にシードは苦笑するしか無かった。

「初めて会った時はよ、まさか俺の軍に痛手を負わせるとは思わなかったぜ」

シードはニヤリと笑った。

「……」

○○はどう答えて良いか迷いながらシードを見る。

「あんだけでかい魔法使っておきながら、お前の魔法で死者がいなかったのが不思議だがな」

シードはじっと目を反らさずにいる。

「そ、そう」

○○は内心ホッとした。

甘いと言われようが、自分の魔法で死者が出なかったのは嬉しかった。

「…………お前、約束覚えてるか?」

シードは呟く様に声を出した。

「や、約束??」

○○は不思議そうにシードを見る。

「ああ。俺と結婚するって約束」

「っ?!」

シードの言葉に○○は驚いた。

「…………忘れたんだな」

シードはそう言うと○○から離れて立ち上がる。何かに思いを馳せるように目を閉じた。

「……」

○○はシードが自分から目線を外したので、急いでドアの閂をは外そうと立ち上がる。

「ダメだ」

シードは素早く反応してそれを阻止する。

「はは、これじゃあまるで、傭兵の砦の時みたいだな」

シードは○○を掴み、抱き寄せる。

「や!やだ!離してよ!」

○○は暴れるが、シードはそれをものともしない。

「……なぁ、俺はハイランドの為に戦うんだ。お前らは同盟軍の為に戦うんだろ?」

シードは静かに聞く。

「う、うん」

○○は頷く。

「なら、俺がフリックを倒してもお互い文句はないな?」

シードは真剣な顔をする。

「…………それが、フリックの仕事だもの。でも!フリックが貴方を倒してもお互い文句は言わないでよね?」

シードの表情に呆気に取られるが、○○も負けじと言う。

「ああ。………………そうだよな。そうなんだ」

シードは小さく呟いた。

「俺はさ、お前が好きなんだよ。愛してるんだ」

シードはぎゅっと○○を抱き締めた。

「っ!」

○○は困った顔をする。

「俺は戦いの中でいつ死んでも悔いは無いと戦い続けて来た。…………でもな」

シードは腕の力を緩め、○○を見つめた。

「後悔が出来ちまった」

「な、なに?」

○○はあまりに真剣なシードを戸惑いながら見る。

「お前を抱いてない事だ」

「っ?!」

シードは射抜く様な目で○○を見た。

「なぁ、抱かせてくれないか?」

シードは甘く、切なく声を出した。

「……私はフリックが」

「知ってる。でもな、俺もあいつに負けないくらいお前を愛してるんだ」

シードは両手で○○の頭を包み込んだ。

「……でも」

○○の目から涙が落ちる。思いきりシードを叩いて逃げろと頭から指令を出すが、何故か体が言う事を聞かなかった。
まるで体が他の誰かになってしまった様にシードを拒絶する事を拒んだ。

「○○」

シードはゆっくりと○○に近付く。

「シード、止めてよ……」

○○は体が動かないままポロポロと涙を流す。

「なら、俺を殺してみろよ」

シードは真剣な顔だ。
それを見て、 ○○はシードが本気である事を思い知らされる。

「…………や、やだよ。止めてよ……」

○○は泣きながら最後の声を出した。

シードはその唇を静かに塞いだ。









○○は寝転がり一糸纏わぬ姿でシードを見上げる。

シードは無言で服を着た。

シードは静かに閂を外すと展望台から外をうかがう。
誰もいない事を確認するとシードはもう一度○○に近付いた。

「○○。さよならだ」

シードは○○を愛しそうに撫でた。

「…………」

○○は泣きはらした赤い目でシードを見る。

「そんな顔するなよ。まぁ、どっちが勝っても、もう会う事もないだろうな」

シードは柔らかく笑う。

「じゃあな」

シードが反応がない○○を残し、出口へと向かう。

「……ズルイよ」

「あ?」

○○が声を出した事に驚き、そして喜び、シードは振り返る。

「…………私はフリックが好きなんだよ……」

○○は泣きそうな声を出す。

「知ってる」

シードは苦笑した。

「これじゃあ…………これで死んだらシードが忘れられないじゃない!…………ズルイよ……」

○○はポロポロとまた涙を流す。

「へへ、悪いな。‘今度は’○○が覚えていてくれ。俺の最期のわがままだ」

シードは嬉しそうに笑うと今度こそ出ていった。




○○はのそのそと服を着た。

「ふっ、えっ、うー」

○○は泣きながらその場から動く事が出来なかった。

もう、帰るべき場所が無かった。
もう、フリックに会う資格も無くなった。

○○は泣きながら高い天井を見上げていた。

すでに辺りは暗く、夜中と呼べる時間。

(フリック、心配してるかな)

○○はぼーっとしながら考える事はフリックの事だ。

(フリックに会いたい)

○○は体育座りの自分の膝を抱き締めた。

(フリックに触れたい)

声を殺して泣き続ける。

(フリック……。ごめんなさい)

心の中で何度も何度も謝り続けた。

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