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「早く帰って来ないかな」
○○はアシタノ城の酒場で待っていた。
「ふふ、そんなに早くフリックに会いたいかい?」
レオナはキセルをふーっと吹かした。
「えっ!?……そ、それはもちろん」
○○は赤い顔をして頷いた。
「おや、今日はずいぶん素直じゃないか」
レオナは驚きながらも妖艶に笑った。
「え、ええ、まぁ。たまには」
○○はクスクスと笑った。
「た、大変だ!!ナナミ殿が!!!」
そうアシタノ城中に知らせが届いた。
「え……?」
○○は言葉を無くす。
「行ってみよう」
レオナは○○の背中を押した。
○○達が医務室の前に着くと、すでにたくさんの人だかりが出来ていた。
ーーかちゃ
中から主治医のホウアンが出てくる。
「残念ですが……。間に合いませんでした」
ホウアンは沈痛な表情でU主を見つめる。
「っ!!」
U主は言葉なく顔を驚かせる。
「お前!!それでも!!!」
フリックがホウアンの襟元を握り締る。
「止めろ、フリック。お前がやってるのはただの八つ当たりだ」
ビクトールが静かに止めた。
「分かってる!!だが、ナナミに……キバに……!!後少しなのに………!!これじゃあU主が!!!」
フリックは昔の自分を重ねたのか、怒りに震えていた。
「シュウ殿」
「なんだ?」
ホウアンがシュウを呼ぶ。
「お話があります。中へ」
ホウアンとシュウが医務室へ消えて行った。
「お前は少し休め」
ビクトールがU主の背中を叩く。
「行こう、U主」
アイリが優しくU主を押した。
それぞれが医務室の前から離れて行く。
「……そんな……ナナミちゃんが……」
○○はつらそうにレオナを見る。
「…………今日は酒場の仕事は良いよ。フリックについててやんな」
レオナは○○の背中を押した。
「………………うん」
○○は酒場と逆の階段から上がり、部屋の前まで来た。
ーーコンコン
「入るよ」
ノックと同時に声をかけ部屋に入る。
フリックは窓から外を見ていた。
「……」
なんと声をかけて良いか見当たらず○○はベッドに腰をかけた。
「…………大切な人間を亡くすのはつらい事だ」
フリックがぽつりと呟いた。
「……分かってた、分かってるのに……な」
フリックは感情を無理矢理押し殺した様な声で呟いた。
「フリック……」
○○はフリックの背中をじっと見た。
「後少しだ。この戦争も」
フリックの声に強さが戻る。青い目に光が宿っていた。
「うん」
○○はホッとしてベッドから立ち上がる。
「どこかへ行くのか?」
フリックが振り返り○○に近付く。
「うん。仕事に戻るよ。レオナはいいって言ったけど、やっぱり皆頑張ってるしね」
○○はにこりと笑うとドアを開ける。
ーーバタン
「え?」
開けたドアが勝手に閉まる。
「レオナからお許しが出てるなら良いじゃないか」
フリックの声がすぐ後ろから聞こえた。
ドアにはフリックの手があり、閉めたのは彼だと理解する。
○○は恐る恐る振り返ると、フリックのニヤリと笑った顔がすぐ近くにあった。
「え?いやいや」
○○は冷や汗を感じながら声を出す。
フリックのもう片方の手は○○の腰を捕らえていた。
完全にフリックとドアに挟まれた○○は動けずにいた。
「最終決戦へ行く恋人に祝福でもしてもらおうか?」
フリックはニヤリと笑う。
「……祝福のキス?」
○○は覚悟を決めてフリックを見上げる。
「それで勝てるのか?」
フリックは○○に口付ける。
「ん……。っはあ。勝てそう?」
○○は負けじとフリックを見つめる。
「どうかな?足りない気もするな」
フリックは再び○○の唇を奪った。
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