11

「U主!!U主!!どこだい?!」

少年の声が砦に響き渡った。

「……?」

眠っていた○○はその声に目を覚ました。

「なんだろう」

寝ぼけた頭で考えたが、気になったので起き上がった。

「……?やけに静かだけど」

少年の声が気のせいかと思いながら部屋をそっと出た。

「ーーー」

どうやら下の階から声が聞こえたので、ゆっくり階段から下に降りた。

「ー!」

どうやらU主の仲間が侵入して来たらしい。
その2人がビクトールとフリック、そして傭兵達と対峙していた。

「こうなったら、強行突破だ!!」

U主がトンファーを構えると、フリックとビクトールへ突進して行った。


ーーーザシュッ!!



「きゃっっ!!!」

フリックが愛剣<オデッサ>で迎え撃った。
一撃でU主は床に突っ伏した。

「U主!!」

「U主君!」

少年がU主を助け起こそうとする。

○○もU主に駆け寄ろうとしてフリックに止められる。
文句を言おうと振り返るとフリックの冷淡な顔にただ、黙るしかなかった。

「とりあえず牢屋に戻ってくれ。悪い様にはしないからな」

ビクトールは傭兵にそう言い渡し、少年は大人しくそれに従った。

「フリック!なんで……」

人が居なくなった階段下で○○はフリックの手を振りさらうとフリックを見上げた。

「あいつらは敵兵だが、捕虜だ。それに、あいつらを今帰しても危険なだけだ」

フリックは冷静に○○を見下ろした。

「危険?……ただ、家に帰るだけなのに?」

○○はフリックがあの少年達に危害を加える訳ではなく、むしろ助けようとしている事を感じ取ったので、大人しくフリックの話を聞く事にした。


「あぁ。お前も休戦協定が結ばれたのは知ってるだろ?そこへハイランドの少年兵はあいつらを残して全滅。表向きは俺ら都市同盟がやった事になってる」

「まさか!」

「もちろん、そんな事実はない。U主の話じゃ、ルカ・ブライトの仕業らしいしな」

「ルカ?」

「あぁ。ハイランドの皇子だ。なんでも、狂皇子と呼ばれてる男だ」

「……じゃあ……」

「どんな罪名になるかは分からないが、あいつらは故郷に帰ったら捕らえられるだろうな」

「……ご免なさい」

フリックの言葉に○○は落ち込んだ様に顔を伏せた。

「まぁ、傭兵なんてもんはこんなもんさ」

フリックは柔らかく笑うと○○の頭を撫でた。

「そう言えば寝る時までしてんだな」

フリックは○○の首にかかる猫をモチーフにしたネックレスに指を這わせた。

「っ!慣れちゃうとね。無くしたくないし」

「そうか。首締まらないようにな」

ニヤリと維持悪く笑うとフリックは猫を指で弾いた。

「そんな事にはなりません!」

○○は怒った様に睨み付ける。

「はは、怖くないな。ほら、もう寝ちまいな」

フリックは笑うと○○を二階へと追いやった。

「うん、お休み」

○○は素直にそれに従い自室のベッドへ入った。








「た、大変だ!!」

2人分の食事を持って地下牢に行ったポールが叫んでいた。

「おう、ポールどうした?」

ビクトールが駆け寄るポールに落ち着いて話しかけた。

「た、隊長!!あ、あいつらいないんです!」

ポールははぁはぁと興奮口調でまくし立てた。

「あぁん?」

「どうした?」

フリックもやって来て、ただ事ではない様子のポールを見た。

「……やるな、あいつら。まさか同じ夜に二度抜け出そうとするとはな」

ビクトールは豪快に笑う。

「笑い事じゃないですって!」

ポールは本気で少年達を心配しているのだろう。今にも泣き出しそうだ。

「え?2人がいないの?」

食堂で叫ぶポールを不振に思った○○も厨房から出て来た。

「そうなんですよ!○○さんからも言ってください!」

ポールは必死に○○にも懇願する。

「フリック!昨日言ってた!」

「そうだな」

「ビクトール!助けなきゃよね?!」

「まぁ、確かにガキが無駄死にするのを知ってて黙ってるってのもなぁ」

ビクトールは必死のポールと○○に見上げられ、押され気味だ。

「ね?フリック!」

「まぁな。……仕方がないな」

フリックは○○の頭をぽんぽんと叩く。

「とりあえず、関所もあるんだ。行ってくるか」

ビクトールは手早く支度をすると玄関へ急ぐ。

「あ!」

○○は厨房に入り、手早く弁当を作る。

「フリック!これ!」

「さんきゅ。おい!留守にするが、頼むぞ!!」

「「「はい!!」」」

ビクトールとフリックは少年2人を助けに出発した。








「もう……4日ですね……」

○○は空を見上げた。

「ふふ。毎日そればっかりだね」

レオナが呆れた様に笑う。

「そうですけど……」

「あの2人がいるんだ。大丈夫だよ」

倉庫番のバーバラもにこやかに笑った。

「……そうですよね」

○○はそれでも気は晴れないようだ。





「おおい!ビクトール隊長達が帰って来たぞ!!」

「ほらね」

門番の声にレオナとバーバラが笑った。

「うん!私、行ってくるわ!」

○○は嬉しそうに玄関へ走った。

「いた!」

○○はビクトールとフリックを見付けて駆け寄った。

「おお!懐かしい我が家!」

ビクトールが砦を見上げた。

「このおんぼろがか?」

フリックは冷たくビクトールを見た。

「お帰りなさい!!」

「おう!○○!ちゃんと捕虜を連れて帰ってきたぞ!」

ビクトールはにこやかに笑った。

「3人と1匹な」

フリックはニヤリと笑った。

「ん?」

○○は不思議そうに2人の後ろを見た。

「U主君!お帰り!それにジョウイ君も!で、良いのよね?心配したんだよ!」

○○はあの日見た少年を見た。

「ただいまです」

U主は少し照れた様に笑った。

「あ、はい。すみません」

ジョウイは緊張しながら頷いた。

「よしよし、で?そっちが?」

「えっと、こちらはナナミとムクムクで……」

「こんにちは!U主の姉のナナミです!この子はムクムク!」

ナナミと呼ばれた少女はムクムクと呼ばれたムササビを掲げた。

「か……」

「ムクムクは怖くないよ!」

ムクムクを見て固まった○○をナナミは不安に感じてまくし立てた。

「可愛い!!」

「え?え?」

○○はナナミとムクムクを抱きしめた。

「か、可愛いね!ナナミちゃんにムクムクね?宜しく!私、ここのコックしてる○○って言うの!」

「うん!○○さん!」

○○は今までに見た事が無い笑顔で2人を見た。
それにナナミも嬉しそうに答えた。

因みに男性陣は固まっている。

「ム!ムム!」

「あっ!行っちゃった……」

○○は残念そうにU主の肩に乗ったムクムクを見た。

「と、とにかく、お前達は捕虜扱いだが、好きに過ごせば良い。人手不足なのには変わり無いからな。仲間集めでもしながらくつろいでくれ」

ビクトールは○○の行動からいち早く立ち直り、そう4人の子供達に言った。

「部屋はあそこしかないがな」

「え?女の子にあそこで寝ろって言うの?」

ビクトールに○○は怒ったように見上げた。

「ま、まぁ、そうなるな……」

ビクトールは○○の迫力に押され気味だ。

「そんなの!……なら、ナナミちゃん、私と寝る?」

○○はぽんと手を叩いた。

「え!良いの?」

「もちろん!」

ナナミも嬉しそうに笑った。

「あ、でも、せっかくU主とジョウイと会えたし……また離れるのは寂しいな」

ナナミは困ったように少年達を見た。

「あ!なら皆で」

「ダメだ!」

○○の声を遮ったのはフリックだ。

「えーなんでよ!」

○○は不満そうにフリックを見上げる。

「お前なぁ……なんの為に鍵付けてんだよ」

フリックは呆れた様に言った。

「ん?別に2人共子供じゃない」

○○は当たり前の様に言った。

「狭いだろう」

「大丈夫だよ!どうせ寝る時くらいしか皆集まらないだろうし、ね」

「ね、じゃない!それにお前の部屋は俺の隣だろうが、うるさくするな」

「なによ、フリックのケチ!」

「ケチじゃない!」

「ケチでしょ?」

「とにかくダメだ!」

フリックはそれだけ言うと砦の中に入って行った。

「うー!ごめんね、ナナミちゃん」

○○は申し訳なさそうにナナミ達を見た。

「あ!良いよ!気にしないで!それに、私達の事で恋人さんとケンカしちゃダメだよ!」

ナナミはそう力強く言った。

「はは、恋人じゃないから」

○○は困ったように笑った。

「そうだぞ!おてんば娘!○○は俺のだ」

ビクトールがずいっと○○の肩を抱いた。

「え?!」

「そんな訳ないでしょ!」

ナナミの驚いた顔にやれやれと○○はビクトールの手をはらいながら言った。

「つれないな」

からからと笑ってビクトールも砦に入って行った。

「もう!まぁ、とにかく、あの2人は信用出来るから、何かあったら頼れば良いからね」

「「「はい!」」」

少年達は素直に頷いた。

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