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シードは初めて○○を抱こうとした時を塗り替えるかのごとく、ゆっくりと優しく丁寧に愛撫をする。
その度に○○の口から甘い声がもれる。
その声にシードは沸き上がる黒い感情を押し殺して優しく接する。
「…………○○」
名前を呼ぶ度に震える体に痕を残す。
「うん……シ……ド」
○○は必死に耐えながらシードの名前を呼び返す。
だが、
「………………○○」
シードは辛そうに○○を見る。
○○は静かに涙を流していた。
「嫌か?俺に抱かれるのは」
シードは○○の上に乗ったまま聞く。
「っ!ううん!違っ!」
○○は止めどなく流れる涙に戸惑いながら声を出す。
「…………ふぅーっ」
シードは何かを耐えるように息を大きく吐き出すと○○の上から退く。
「……シード?」
○○は戸惑いながらシードを呼ぶ。
まだ、涙は流れ続ける。
「ごめ、シード。嫌じゃない!嫌じゃないのに……」
○○は困った様に顔を歪ませ、毛布を手繰り寄せた。
「…………」
シードは無言のままズボンをはいた。
「し、シード……」
○○はシードに嫌われたと思い、辛そうにする。
「○○」
シードはベッドに戻り、○○を抱き締める。
○○はホッとした様にシードを抱き返す。
「ごめんね、シード。何で泣くのか分からなくて……」
○○は涙を不思議そうに拭う。
「……明日」
シードは小さく声を出す。
「明日?」
「ああ、明日お前を迎えに来る」
シードは○○を真剣な顔で見つめる。
「うん?」
○○は良くわからずに先を促す。
「お前はアシタノ城ではなく、俺と一緒に来て欲しい。そして、結婚しよう」
シードはじっと○○を見つめる。
「っ!!」
○○は顔を赤くして驚く。
「俺と来たら、二度とアシタノ城には帰れないと思ってくれ。でも、俺はお前を大切にする。愛してる」
シードの瞳は強く○○を見つめた。
「あ」
○○が何かを言おうとしたが、シードの指が○○の唇を押さえた。
「一晩やる。返事は明日聞かせてくれ」
シードは柔らかく笑った。
「うん」
○○は顔を熱くして頷いた。
「そうだな。いつもの場所に来てくれ。俺はそこで待ってる」
シードは考えてから声を出した。
「分かった」
○○は笑顔で頷いた。
「待ってるからな」
シードは優しく○○の頭を撫でた。
「さて、雨も止んだらからな。俺はそろそろ行かなきゃな」
シードはそう言うと生乾きの服を着始める。
シードの上着のポケットから何かが落ちる。
「シード何か落ちたよ?」
○○も服を着ながらそれを拾おうとするが、先にシードが拾い上げる。
「……それ……」
○○は驚いてシードを見上げる。
「ん?ああ、俺のお守りさ」
シードは無造作にそれを上着のポケットに押し込んだ。
「……」
○○の見間違いでなければ、それは○○がフリックに貰って、無くしたと言っていた猫のネックレスだった。
「さて、行くか」
シードは服をきちんと着ると○○を振り返る。
「あ!待って」
○○は一度後ろを向いて何やら探す。
シードは床に小さなノートが落ちているのに気付き、拾い上げる。
○○が振り向く時にシードはノートをポケットへ押し込んだ。
「これ」
○○は紙袋をシードに差し出す。
「ん?何だ?」
シードは不思議そうに紙袋を受けとる。
「昨日の紅茶の葉っぱ。後、それに合う焼き菓子作ったの。保存もきくからカビが生えなければ1ヶ月くらいはもつわ!」
○○はそう説明した。
「へぇ、さんきゅ。夜にでも飲むよ」
シードは嬉しそうに笑った。
「シード」
「ん?」
「私、シードの事好きだよ」
○○は何故か不安そうに言う。
「俺もだ」
シードはにっこりと笑った。
シードは○○に口付ける。
「さて、じゃあ、明日待ってるぜ」
「うん」
シードはニヤリと笑って部屋を後にした。
○○はベッドに入りながら考えていた。
「明日……シードと一緒に」
○○はシードを思い浮かべる。
シードのプロポーズはとても胸に響いた。
しかし
「何でシードがあの猫のネックレスを持ってたの?」
○○は不安に思った。
このまま何も告げずにシードについて行っても良いのか?
それとも明日来るフリックに猫のネックレスの事をちゃんと聞いた方が良いのか……。
何故、シードは一晩もくれたのか?
「もー、分からない」
○○は声に出した。
あのまま連れて行ってくれたなら、何も考えずにシードについて行けたのに。
でも、シードは無理にそうしようとはしなかった。
「こう言う時は日記に書けば!」
○○は机の上を探すが
「あれ?」
日記は見当たらない。
「そう言えば、昨日ポイってそこらに投げたんだ」
○○は苦笑しながら床を探すが
「ない!!」
○○は焦りながら荷物もひっくり返した。
「…………何で……」
見られる事を想定せずに書いたので、見られたら恥ずかしい。
それに、何よりシードへの想いや、フリックへの想いも書いある。
「…………あ、明日探そう。明るくなってから」
○○は諦めて部屋の灯りを消した。
夢だとすぐに分かった
何故なら自分が自分を見ていたからだ
『何で泣いてるの?』
私が私に聞いた
『私の好きな人とあなたの好きな人が違うから』
私が口を開いた
『でも私はあの人が好きなの』
私が口を開く
『覚えてないのに?』
私が聞く
『それでも心はあるもの!』
私は叫ぶ
『じゃあ、思い出して』
私は泣きながら笑った
『………………シード』
私は小さく声を出す
『フリック!』
私は泣きながら叫ぶ
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