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○○は宿屋のベッドで寝転がっていた。
シードと口付けをした。
その事を後悔などもちろんしていない。
しかし、と○○は思った。
「何でフリックの顔が……」
○○はため息をついた。
「私、フリックが好きなのかな……」
○○は思い当たる節があると思いながらネックレスに手を触れる。
「この指輪はあの猫のだよね。なんでこれだけここにあるのかな?」
○○は不思議そうにネックレスを取り、指輪をただひとつ付ける事が出来る左手の薬指にはめる。
「……無くした?なんでこれだけ無事なの?新しいネックレスはフリックが買ってくれた。こんな高級品を受け取ったの?」
真珠はこの世界ではかなり希少価値が高く、高級品として貴族たちに好まれていた。
○○は日記を取りだし、不思議に思った事を書き出していく。
「でも……シードにもときめくんだよね、不思議と」
○○は訳が分からないと頭を抱えた。
「思い出したい……のに、思い出せない。もう三日目なのに。明日思い出せなくても明後日には帰らなきゃ」
○○はそこでも迷っていた。
もし記憶が戻らなかったら、フリックと共にアシタノ城に帰れば良いのか?
それともシードがどこかへ連れていってくれるのか?
○○は日記をぽんと投げ出した。
「記憶、早く戻れば良いのに……」
○○は言葉にしてから気付く。
「ってか、これなに?この状況!!良い男2人に挟まれて!」
○○は一人クスクスと笑い出す。
「あ、フリックは違うのか。でも、物語の主人公みたい」
○○は客観的に自分を見て笑った。
「ふふ、一体この数ヵ月に私に何が起こったのかな?」
○○は自分を不思議そうに思った。
4日目。
結局記憶は戻らないまま4回目の診療所。
医者には「気にせずのんびりと」と言われた。
○○は記憶が戻らない事に少し焦りながらため息をついた。
そして、またシードと会うために湖の畔に来ていた。
「シード?」
○○はキョロキョロと見回るが、シードはいない。
また、木の上かとも思い探したが、見付からなかった。
「…………早かった……かな?」
○○は仕方なくまたその場に座った。
昨日と同じで、またお弁当を作って来た。
中身はおにぎり(梅、鮭、おかか)、甘い卵焼き、フライにおひたし、ハンバーグとシンプルだ。
○○はお弁当を丁寧に置く。
「シードの好き嫌いくらい聞いておけば良かった」
○○は小さくため息をついた。
湖に視線を向ける。
今日も水鳥達が気持ち良さそうに泳いでいた。
「早く来ないかな……」
呟いてみても、シードは現れなかった。
「悪い!遅くなった!」
シードが現れたのはそれから一時間ほどしてからだ。
「シード」
良かったと○○ホッと胸を撫で下ろした。
「意外にやつらしぶとくてな」
シードは笑いながら汗を拭いた。
「やつら?」
○○はシードが急いで来てくれた事に喜びながら繰り返す。
「なに、ちょっと鼠駆除だ」
シードはニヤリと笑った。
「そうなんだ。でも、良かった。何かあったかと思って心配したわ」
○○はシードが無事な事に素直に喜んだ。
「悪かったな。不安にさせて」
シードは○○の顔を覗き込む。
「ううん!シードが来てくれたから大丈夫!」
○○はにっこりと笑った。
「そうか」
「あ、そうだ。お弁当、また作って来たの」
○○はお弁当を持ち上げた。
「やった!!」
シードは嬉しそうに手を叩いた。
「そう?なら食べよう!」
○○とシードはその場に座り、弁当箱を広げた。
「お!これぞ弁当って感じだな。いただきます!」
シードは笑って卵焼きに手を伸ばす。
「ん!んまい!」
シードは嬉しそうに声出した。
「本当?!良かった」
○○も嬉しそうに笑った。
「シードの好きな物は?」
食べ進めながら○○は聞いた。
「○○」
シードはおにぎりを頬張りながら○○を指差す。
「え?あ!違っ!食べ物で!!」
○○は顔を赤くして言い直した。
「うーん、旨い物」
シードは考えてから声を出す。
「じゃあ、嫌いな物は?」
○○はクスクスと笑った。
「不味い物だな」
シードはこの前のパンを思い出した。
「ふふ、シードは特に好き嫌いないんだ?」
○○は楽しそうにシードを見上げた。
「うーん、そうか?旨い物だぞ?結構俺グルメだし」
シードはニヤリと笑った。
「そうなんだ!」
○○はシードを見上げた。
「そりゃそうだ。俺のお勧めの店は全部旨いぜ?」
シードは自信たっぷりに頷いた。
「良いな!行ってみたい!」
○○はにこりと笑った。
「そうか、なら連れて行ってやるよ」
シードはにかっと笑う。
「本当?楽しみ!」
○○は嬉しそうに笑った。
「……○○、明日」
シードがそこまで言うと何かがポツリと顔に当たる。
「雨?」
○○は不思議そうに空を見上げた。
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