106

あの後用事があると言うシードは「明日も来るからな。昼前頃にここに来いよ」と笑って帰っていった。

数ヵ月経っているのだ。恋人がいてもおかしくはない。
それにフリックよりもシードの方が何となく恋人と言われて納得出来たのだ。
きっと、隠さずにいてくれたせいだろうか。

だからだろうか、シードに会う事が楽しみになっていた○○だった。

宿屋に戻り、夕飯を食べ、風呂に入り、一人の時間を過ごした。

「あ、日記付けなきゃ」

○○は記憶喪失になった日からホウアンに言われ、日記を書いている。
誰に読ませる訳でもないので、思った事をズバッと書いていた。

「えっと、診療所では異常なし。その後湖の畔で……」

○○はシードとの事を思い出しながら楽しそうに日記を書き続けた。






3日目。

朝から診療所へと向かった。
2日目と似たような事をして、特に何も思い出す事はなかった。

だが、昨日よりも晴れやかな顔を見て医者は不思議そうにしていた。



○○は歌でも歌いそうな気分で湖の畔を歩く。

残念ながら、昨日の場所に着いたがシードはまだいなかった。

「早かったかな」

診療所から直接来てしまったせいのようだ。

○○は荷物を置くと自分も座った。
美しい湖を○○は見た。

ゆらゆらと輝く水面が美しく、水鳥達が戯れているのも楽しく見えた。

「早く来ないかな……」

「もう、いるぜ?」

「っ!!」

○○は驚いて立ち上がる。
後ろを振り返るがいない。
キョロキョロと辺りを見回すが見当たらない。

「??」

「残念、上だ」


ーートサッ


軽い音と共にシードが木から飛び降りて来た。

「っびっくりしたー……」

○○は心臓を押さえるように片手で胸を押さえた。

「ははは!そう驚く事は無いだろう」

シードはニヤリと笑った。

「お、驚くよ!何で木の上に?」

○○は不思議そうにシードを見上げた。

「もちろん、お前を驚かせる為だ」

シードはニヤリと笑うと○○の頬に手を触れた。

「っ!!ひ、ひどい」

○○は顔を真っ赤にしてシードを見た。
触れ合う所が熱をおびる。

「○○、会えて嬉しいぜ」

シードは優しく笑った。

「わ、私も」

○○は照れながらもはっきりと口を開いた。

「○○……」

驚いた顔をしてから、シードはゆっくりと顔を近付ける。


ーーぐー


なんとも、間の抜けた音が響く。

「っ!!」

「クックックッ!!!」

○○の腹の虫が鳴いたのだ。
シードは堪らず笑い出す。

「今朝、早起きしたから、お腹減っちゃったのよ!!」

○○は誤魔化すように大きな声を出した。

「くく、早起き?」

シードはまだ笑いながら○○を振り返る。

「う、うん。これ……」

○○は持っていた荷物を開けた。

「おお!」

シードは出てきた物に釘付けになった。

「宿屋の人が他に客がいないからって、厨房を貸してくれて。私、コックだから作ってみたの」

○○はにこりと笑ってサンドイッチを見せた。

「旨そうだ!」

シードは嬉しそうに見る。

「昨日、パンを鳥に食べられてたでしょ?だから」

○○はシードが寝ていた時に手に持っていたパンを思い出した。

「………………そう言えば、このパンは?」

シードは真剣な目でそう聞いた。

「これ?これも焼いてみたの」

「手作りパンか!!」

シードはそれを聞くと嬉しそうに笑った。

「いやー、昨日のパン不味くてさ、びっくりしたぜ!捨てるにも困ってたら鳥が食った」

シードはそう真剣な顔をした。

「ぷっ!!」

○○は堪らず吹き出す。

「笑い事じゃねーぞ?殺人級に不味くてさ」

シードは○○の笑顔に釘付けになった。

「ふふ、おかしい!」

○○は楽しそうに笑った。

「で、だ。これは食って良いのか?」

シードはサンドイッチを指差す。

「もちろん!その為に作って来たの」

○○とシードはその場に座った。

「ほんじゃま、いただきます!」

シードはパンッと手を合わせた。

「召し上がれ」

○○はドキドキとしてシードの様子を見る。

「ど、どう?」

シードが大きな一口を口に入れた。

○○は気になり声をかける。

「うっまい!!」

シードはゴクンと飲み込んでから声をあげた。

「ほ、本当に?良かった!」

○○は嬉しそうに笑うと、自らもサンドイッチを頬張った。

「うん、美味しい」

○○はもぐもぐと食べる。

「いや、マジで旨いな!特にこのパン!!昨日のパンが別のもんに思える!」

シードは大満足で笑った。

「シードに誉められると素直に嬉しい!まだまだあるからね!」

○○はにこにことシードにサンドイッチを進める。

「やったぜ」

シードはすでに次のサンドイッチに手を伸ばした。

「後、ミルクティーも持ってきたよ」

○○は水筒からミルクティーをコップにそそぎ、シードに渡す。

「お、さんきゅ」

シードはコップを受け取ると飲んだ。

「お?これ旨いな」

シードは不思議そうにミルクティーを見る。

「何かね、ミルクティー用の葉っぱなんだって。買い物に行ったら売ってたから買っちゃった」

○○はにこりと笑った。

「ここで売ってたのか?」

「うん」

「俺も買ってこー」

シードはミルクティーを飲み進めた。

「ふふ、気に入った?」

○○は嬉しそうにシードを見た。

「まあな、お前と一緒に飲んだからかな」

シードは優しく笑った。
その笑顔に○○は胸を熱くした。

「っ!!まだサンドイッチもあるよ!卵のとか、こっちは甘いの!」

○○は誤魔化すようにシードに進める。

「おっ!これも旨そうだな」

シードは嬉しそうにサンドイッチに手を伸ばした。

[ 107/121 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -