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あの後用事があると言うシードは「明日も来るからな。昼前頃にここに来いよ」と笑って帰っていった。
数ヵ月経っているのだ。恋人がいてもおかしくはない。
それにフリックよりもシードの方が何となく恋人と言われて納得出来たのだ。
きっと、隠さずにいてくれたせいだろうか。
だからだろうか、シードに会う事が楽しみになっていた○○だった。
宿屋に戻り、夕飯を食べ、風呂に入り、一人の時間を過ごした。
「あ、日記付けなきゃ」
○○は記憶喪失になった日からホウアンに言われ、日記を書いている。
誰に読ませる訳でもないので、思った事をズバッと書いていた。
「えっと、診療所では異常なし。その後湖の畔で……」
○○はシードとの事を思い出しながら楽しそうに日記を書き続けた。
3日目。
朝から診療所へと向かった。
2日目と似たような事をして、特に何も思い出す事はなかった。
だが、昨日よりも晴れやかな顔を見て医者は不思議そうにしていた。
○○は歌でも歌いそうな気分で湖の畔を歩く。
残念ながら、昨日の場所に着いたがシードはまだいなかった。
「早かったかな」
診療所から直接来てしまったせいのようだ。
○○は荷物を置くと自分も座った。
美しい湖を○○は見た。
ゆらゆらと輝く水面が美しく、水鳥達が戯れているのも楽しく見えた。
「早く来ないかな……」
「もう、いるぜ?」
「っ!!」
○○は驚いて立ち上がる。
後ろを振り返るがいない。
キョロキョロと辺りを見回すが見当たらない。
「??」
「残念、上だ」
ーートサッ
軽い音と共にシードが木から飛び降りて来た。
「っびっくりしたー……」
○○は心臓を押さえるように片手で胸を押さえた。
「ははは!そう驚く事は無いだろう」
シードはニヤリと笑った。
「お、驚くよ!何で木の上に?」
○○は不思議そうにシードを見上げた。
「もちろん、お前を驚かせる為だ」
シードはニヤリと笑うと○○の頬に手を触れた。
「っ!!ひ、ひどい」
○○は顔を真っ赤にしてシードを見た。
触れ合う所が熱をおびる。
「○○、会えて嬉しいぜ」
シードは優しく笑った。
「わ、私も」
○○は照れながらもはっきりと口を開いた。
「○○……」
驚いた顔をしてから、シードはゆっくりと顔を近付ける。
ーーぐー
なんとも、間の抜けた音が響く。
「っ!!」
「クックックッ!!!」
○○の腹の虫が鳴いたのだ。
シードは堪らず笑い出す。
「今朝、早起きしたから、お腹減っちゃったのよ!!」
○○は誤魔化すように大きな声を出した。
「くく、早起き?」
シードはまだ笑いながら○○を振り返る。
「う、うん。これ……」
○○は持っていた荷物を開けた。
「おお!」
シードは出てきた物に釘付けになった。
「宿屋の人が他に客がいないからって、厨房を貸してくれて。私、コックだから作ってみたの」
○○はにこりと笑ってサンドイッチを見せた。
「旨そうだ!」
シードは嬉しそうに見る。
「昨日、パンを鳥に食べられてたでしょ?だから」
○○はシードが寝ていた時に手に持っていたパンを思い出した。
「………………そう言えば、このパンは?」
シードは真剣な目でそう聞いた。
「これ?これも焼いてみたの」
「手作りパンか!!」
シードはそれを聞くと嬉しそうに笑った。
「いやー、昨日のパン不味くてさ、びっくりしたぜ!捨てるにも困ってたら鳥が食った」
シードはそう真剣な顔をした。
「ぷっ!!」
○○は堪らず吹き出す。
「笑い事じゃねーぞ?殺人級に不味くてさ」
シードは○○の笑顔に釘付けになった。
「ふふ、おかしい!」
○○は楽しそうに笑った。
「で、だ。これは食って良いのか?」
シードはサンドイッチを指差す。
「もちろん!その為に作って来たの」
○○とシードはその場に座った。
「ほんじゃま、いただきます!」
シードはパンッと手を合わせた。
「召し上がれ」
○○はドキドキとしてシードの様子を見る。
「ど、どう?」
シードが大きな一口を口に入れた。
○○は気になり声をかける。
「うっまい!!」
シードはゴクンと飲み込んでから声をあげた。
「ほ、本当に?良かった!」
○○は嬉しそうに笑うと、自らもサンドイッチを頬張った。
「うん、美味しい」
○○はもぐもぐと食べる。
「いや、マジで旨いな!特にこのパン!!昨日のパンが別のもんに思える!」
シードは大満足で笑った。
「シードに誉められると素直に嬉しい!まだまだあるからね!」
○○はにこにことシードにサンドイッチを進める。
「やったぜ」
シードはすでに次のサンドイッチに手を伸ばした。
「後、ミルクティーも持ってきたよ」
○○は水筒からミルクティーをコップにそそぎ、シードに渡す。
「お、さんきゅ」
シードはコップを受け取ると飲んだ。
「お?これ旨いな」
シードは不思議そうにミルクティーを見る。
「何かね、ミルクティー用の葉っぱなんだって。買い物に行ったら売ってたから買っちゃった」
○○はにこりと笑った。
「ここで売ってたのか?」
「うん」
「俺も買ってこー」
シードはミルクティーを飲み進めた。
「ふふ、気に入った?」
○○は嬉しそうにシードを見た。
「まあな、お前と一緒に飲んだからかな」
シードは優しく笑った。
その笑顔に○○は胸を熱くした。
「っ!!まだサンドイッチもあるよ!卵のとか、こっちは甘いの!」
○○は誤魔化すようにシードに進める。
「おっ!これも旨そうだな」
シードは嬉しそうにサンドイッチに手を伸ばした。
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