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「では、これが紹介状です」
ホウアンは○○に手紙を渡す。
「ありがとうございます」
○○は受け取ると手紙を丁寧に茶色いリュックサックに入れた。
「では、行ってきます」
「気を付けて」
ホウアンはにこりと笑って○○を送り出した。
「じゃあ、行ってくるね!」
○○は見送りに来たフリックとビクトールを見上げた。
「あぁ、気を付けて行けよ!」
ビクトールは明るく笑った。
「悪いな、一緒に行ってやれなくて」
フリックは眉間にシワを寄せた。
「ううん!大丈夫!ここの町なら私、行った事あるからビッキーちゃんで行けるみたいだし、戦争とは関係ないから安全みたいよ!」
○○はにこりと笑った。
「そうか……」
フリックはそう呟いた。
「フリックの心配屋!大丈夫!ちゃんと記憶戻して帰ってくるからね」
○○は楽しそうに笑った。
「……そうだな」
「それにフリックもビクトールも戦いの要なんだから!ちゃんと頑張ってよ!!」
○○はにこりと2人を見た。
「ああ、わかった」
「そこは任せときな!!」
フリックとビクトールは頷いた。
「よし!じゃあ、行って来ます!」
○○はビッキーの前に立つ。
そして、ビッキーのテレポートで消えて行った。
「本当に誰も付けなくて良かったのか?」
ビクトールがフリックを見る。
「仕方が無いだろ。一度言い始めると聞かないんだからな」
フリックはやれやれと声を出した。
フリックは昨日のやり取りを思い出す。
記憶喪失になって3日。
不安もあるだろう○○は酒場で働いていた。
そしてホウアンがその医者に手紙で確認を取ったのだ。
「明日出発が良いだろう」
フリックはそう○○に告げた。
「うん、ありがとうね、フリック」
○○はにっこりと笑った。
「で、俺は付いては行けないから、ゲンゲンか元傭兵の砦の奴を付ける」
「え?良いよ!!それくらいなら一人で大丈夫!」
フリックの言葉に○○は困った顔をした。
「は?何言ってるんだ?」
フリックは眉間にシワを寄せた。
「だって、今は戦争の大切な時期でしょ?酒場で教えて貰ったよ。だから、人数裂いてもらうのは申し訳ないよ」
○○は困った様に笑った。
「それに……。正直に言うと、ちょっと怖いの」
「怖い?」
「うん」
○○は小さく頷いた。
「みんな私を置いて先に進んでるの。フリックもそう」
「俺も?」
「うん、本当に……正直に言って良い?」
○○は不安そうにフリックを見る。
「ああ」
「あのね、一番怖いのはフリック」
「………………何でだよ」
○○の言葉にフリックは眉間にシワを寄せた。
「私が忘れてるから、フリック傷付いてるでしょ?」
○○は困った顔をした。
「……そんな事……」
フリックは少し驚いた顔をした。
「だから、知らないって事でフリックを傷付けてるのが怖いの。だから、一人で大丈夫。お願い、私を取り戻させて!」
○○はフリックに懇願する。
「……………………わかった」
フリックはため息をついた。
「やった!」
「その代わり、5日したら迎えに行くからな」
フリックは怒った様に声を出した。
「うん!ありがとうフリック!それとね」
「なんだ?」
「きっと、無くした私は早くフリックに会いたがってると思うよ」
○○は照れ臭そうに笑った。
「そうある事を願うよ」
フリックは驚きつつ、優しく笑った。
○○はビッキーのテレポートでその医者のいる町へついた。
「えっと、診療所は……」
○○は迷いながらも何とかたどり着く。
「すみません。ホウアン先生からの紹介なのですが」
○○は受付の女性に紹介状を渡した。
「座ってお待ちください」
女性はにっこりと微笑むと奥へと消えた。
待合室はガランと静まり返っていた。
「えー、○○さん、どうぞ」
「はいっ!」
呼ばれて○○は診察室に入る。
「えー、ホウアンとはまた懐かしい名前だね」
ホウアンと同じ年頃だろうか、男はそう言った。
「えーっと?記憶が数ヵ月前に戻ったと?」
「はい。そうみたいです」
医者はホウアンからの手紙を読みながら聞いた。
「なるほどね。えー、じゃあ、ちょっと診てみましょうね」
医者は○○の様子を見たり、質問したり、色々と言う。
「うん、意識もはっきりしているし、数日で直ると思います。えー、何かきっかけがあれば早いかもしれないね」
「きっかけ……」
医者の言葉に○○は不思議そうに声を出す。
「えー、とりあえずは明日も来てください。どうせ暇な町ですので、のんびり散歩などしてください」
医者はにこりと笑った。
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