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「ここだ」

フリックがドアを開ける。

「し、失礼します」

○○は部屋に入る。


ーーパタン


フリックは静かにドアを閉めた。

「……こ、ここは?」

○○はキョロキョロと部屋の中を眺める。
自分の物もあるが、明らかに男物も混ざっていて戸惑う。

「お前の部屋だ。まぁ、俺の部屋でもあるがな。部屋数が足りないんだと」

フリックはあまり○○を怖がらせない様に言う。

「……へ、へぇ……」

○○は何故フリックと同室なのか疑問に思った。部屋数が足りないのなら、他に方法はありそうだ。

「食えるなら食っとけよ?昨日から何も食べてないだろう」

フリックはテーブルの椅子に腰かける。

「う、うん。お腹減ってる」

○○はフリックとは逆側にある椅子に座る。

「いただきます!」

○○は賄い飯を食べ始める。

「うん、美味しい」

○○は満足そうに呟いた。

「そうか、良かったな」

フリックの優しい声にやはり○○は戸惑う。

フリックの事は過保護だと思っていたが、こんな顔のフリックを○○は知らなかった。

ペロリと食べ終わって○○はフリックを見る。

「ねぇ、一体ここはどこなの?」

○○は聞く。

「…………思い出せないなら、無理に思い出さなくても良い」

フリックは○○をじっと見つめる。

「で、でもこのまま思い出せないのも……」

○○は困った様に言う。

「ホウアンの話だと一時的なものらしい。だから無理に思い出そうとして辛くなるより、たまにはのんびりしてるのも良いんじゃないか?」

フリックはそう答えた。

「……そう、なの?」

あまりにも真っ直ぐに自分を見つめるフリックに○○は慌てて下を向く。

「……どうしても早く戻したいなら、ホウアンの医者仲間に記憶喪失を主に扱ってる医者がいるらしい」

「え?」

「行ってみるか?」

フリックの言葉に○○は顔をあげた。

「俺だって出来るなら早くお前に記憶を戻して貰いたいしな」

フリックは苦笑した。

「う、うん。もちろん、私も……」

○○はそこで言葉を切る。
フリックの青い瞳が何だか怖く感じた。
その目に見つめられているだけで、息が止まりそうな程、胸がドキドキと鳴った。

「あ、わ、私。やっぱり休むよ!まだ体も本調子じゃ無さそうだし」

○○はフリックの視線から逃げる様に椅子から立ち上がる。

「………………そうか。今日はビクトールの部屋に行くからゆっくりと休めよ」

フリックはため息をつくと、○○の頭を優しく撫でて、部屋を出て行った。


「…………まさか。そんなはずは……」

○○はフリックの出て行ったドアを戸惑った様に見た。





「で、俺んとこに逃げてきた訳か」

ビクトールは酒をあおった。

「仕方ないだろ」

フリックは弱々しく呟いた。

「……抱いちまえば良いじゃねーか。そうすりゃ思い出すだろ」

ビクトールが真面目とも不真面目とも取れる口調で言う。

「…………それで記憶が戻らなければどうする。ただ、怯えさせるだけたろ」

フリックは真面目にため息をついた。

「……そうか?」

ビクトールは面倒臭そうに声を出した。

「今の○○にはシードの記憶もない。無理に思い出させるのも……」

フリックはため息をつき、酒を飲む。

「……ああ、そう言う意味か。でも思い出さなくて辛いのはお前だろ?」

「…………」

ビクトールの言葉にフリックは苦笑した。

「そうだな。俺は女に縁がないのかもな」

フリックは笑った。

「……いやに弱気じゃねーか」

ビクトールはジロリとフリックを見る。

「そりゃな。目の前で倒れて動かないんだ。弱気にもなるさ。しかも忘れられてるんだぜ。まぁ、生きててくれれば良いがな」

フリックは酒を飲む。

「…………そんなに弱気だと取っちまうぞ」

ビクトールはニヤリと笑った。

「やれるもんなら、やってみろ。譲る気はさらさらないぜ」

フリックもニヤリと笑った。

「よしよし、これで譲る気なら殴ってたぞ」

ビクトールはフリックの前に酒を置いた。

「まぁ、譲る気はなくても、○○を無理矢理抱きたくない。だから俺は当分ここで寝るからな」

フリックはそう声を出した。

「それなら俺があっちの部屋で」

「死にたいなら良いぜ」

フリックはニヤリと笑って、オデッサをビクトールの首へ突き付けた。

「じょ、冗談だ」

ビクトールは顔をひきつらせた。

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