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○○は日の光りを受けて目を覚ました。

夜中にフリックを説得して部屋に戻ってもらい、そこから不安になりながらも何とか眠れた様だ。

「あ、こぶちゃんと引いてる」

○○はホッとした。
体にも異常はない。
○○は靴を履くと、ベッドを降りてカーテンから外に出た。

「あ、○○さん、こんにちは!起きましたか!」

トウタがにこりと挨拶をして来た。

「うん、こんにちはトウタくん。ホウアン先生は?」

○○はキョロキョロと辺りを見回した。

「先生なら外出中ですよ」

トウタはにこりと答えた。

「そうなんだ。ねぇ、昨日心音も血圧も異常なしって言われたの。外に出ても良いかしら?」

○○はしゃがみこみ、トウタと目線を合わせた。

「それなら良いですよ!気を付けてくださいね」

トウタはにこりと笑った。



○○は医務室を出た。
しかしはやり見た事の無い場所だ。本当に記憶喪失なのだと不安になる。

「って、考えても仕方ない、か」

○○は仕方なく、うろうろとしてみる事にした。

「……なんか怖い人がいっぱい……」

○○は不安そうに知らない顔をたくさん見た。
砦にも傭兵だけあって、人相の悪い人間が多かったが、それでも仲間だったので怖いと思う事も減った。

「……あ、外だ」

○○は庭に出た。

「っ!綺麗な馬。……馬?」

○○は不思議そうに真っ白な馬に近付いた。

「こんにちは」

○○は声をかけてみるが、やはりブルルとしか解らない。

「ここ、どこなんだろう。私、どうなってるのかな?」

○○は不安そうに声を出した。

馬は静かに鳴いた。



色々な所を巡りながらぐるりと回ると酒場の看板を見付けた。

「……酒場かぁ。レオナとかどこにいるんだろう」

○○は診療所を出たのは良いが、自分の部屋すらわからないのだ。

「こ、怖い人だらけだったらどうしよう……」

○○は不安になりながらも、そっと酒場のドアを開けてみる。そっと中を覗き込んだ。

「あ!レオナ!!」

○○はホッと安心した様にレオナに駆け寄った。

「○○!大丈夫だったかい?心配してたんだよ」

レオナは変わらない笑顔でにっこりと笑った。

「うん、大丈夫!心配かけてごめんね?」

○○は困った様に笑った。

「それより、フリックに会ったかい?凄い顔して探してたよ」

レオナはニヤリと笑った。

「あ、そうだ。フリックにもちゃんとお礼言わなきゃ」

○○はにっこりと笑った。

「○○!!」

酒場のドアを開けて入って来たのはビクトールだ。

「ビクトール!良かった、ビクトールもいた」

○○はホッとして笑った。

「いたじゃねーよ。医務室に行ったらいないから、探したぜ」

ビクトールはふぅと息を吐き出した。

「え?あ、ご、ごめんね?」

○○は申し訳なさそうにしゅんとした。

「まぁ、無事なら良いが、フリックの奴には会ったか?」

「え?まだだけど?」

○○は不思議そうにビクトールを見上げた。

「なら、呼んでくるか。ここで待ってろ」

ビクトールはまたドアから出て行った。

「そ、そんなに心配しなくても、子供じゃないんだから、ねぇ?」

○○は何故そこまでフリックが心配するのか分からず苦笑する。

「ああ、そうか」

レオナはニヤリと納得して笑った。

「え?なに?」

「いや、何でもないよ」

レオナは妖艶な笑みを浮かべると、キセルをふかした。
○○はフリックと恋人同士と言う事も忘れているのである。



「○○!!!」

程無くしてフリックが酒場に入って来た。
フリックは焦った顔で汗もかいていた。

「あ、フリック。昨日はありがとうね」

○○はにっこりと笑った。

「っ!!ふ、フリック?!」

フリックに抱き締められ、○○は慌てて声を出した。

「は、離して?」

○○は顔を真っ赤にしてバシバシとフリックを叩く。

「……悪い。とにかく無事で良かった」

フリックは真底ホッとした顔をして、○○を解放する。

○○はドキドキとする胸を押さえて、フリックから逃げる様に距離を置く。

「う……し、心配してくれるのは嬉しいんだけど……」

○○は困った様にフリックを見上げた。

「…………そうか」

フリックはため息をつくと、手を引っ込める。

「そういや、○○お前目を閉じてみろ」

ビクトールは星辰剣を掲げる。

「?うん。っ!え?何これ?!」

○○は驚いて目を開けたり閉じたりする。

「ふーん、やっぱり見えるのか」

ビクトールは納得した様に星辰剣を腰に戻す。

「え?え?なに?どう言う事なの?!」

○○は焦りながらビクトールを見上げる。

「お前ね、目を閉じると真の紋章が分かるんだと」

ビクトールはそう説明する。

「な、なにそれ?!」

○○は不安そうにビクトールを見上げた。

「で?それが解ってなんなんだ?」

フリックがビクトールに聞く。

「いやな、体ごと戻ってるのか、記憶だけ無いのか気になってな」

ビクトールがそう答えた。

「なるほどな」

フリックは頷いた。


ーーガチャ


酒場のドアを開けて入って来たのはウィングボードの少年、チャコだ。

「あっいた!○○ねーちゃん!」

チャコは○○に近付いた。

○○はウィングボードを初めて見るので驚きながらチャコを見る。

「昨日は、その、ごめんな。俺のせいでたんこぶ……」

チャコはモジモジと謝る。

「あ、ああ!ううん!大丈夫だよ!ほらほら、元気そうでしょ?私!」

○○は自分にぶつかったと思われる少年ににっこりと笑った。

「う、うん……」

チャコは戸惑った様に頷いた。

「こっちこそごめんね、私鈍いから」

○○は困った様に頭をかいた。

「まぁね、俺の速さに勝てるのなんて滅多にいないからな!」

チャコは元気を取り戻し笑った。

「ほれ、調子に乗るなよ!」

ビクトールがニヤリと笑う。

「ビクトール!もう。私は大丈夫だからね。心配してくれてありがとう」

○○は優しく笑うとチャコの頭を撫でる。

「っ!ガキじゃねーんだ!止めろよ!」

チャコは照れ臭そうに笑うと酒場を出て行った。

「あの子に怪我とか無くて良かった」

○○はホッとした顔をする。

「また、お前は……」

フリックは苦笑した。

「でも、ここには色んな人がいるのね。……この数ヵ月に何が起こったの……?」

○○は不安そうに声を出した。

「……」

「……○○。今日はこれ食べて、もう休みな。気になる様ならフリックにでも話してもらいな」

レオナは心配そうに○○に賄い飯の入った弁当を渡す。

「……うん。ありがとう、レオナ」

○○はなんとか笑顔を作る。

「なら、部屋に行くか。こっちだ」

フリックがそう言うと歩き出す。少し迷いながら○○はフリックの後を追った。




「2人だけにして平気かね?」

「フリックの奴が無理しなきゃ平気だろ」

「それで記憶が戻れば良いけど……」

「……」

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