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「いいかい?U主!例え離ればなれになっても、必ず生きて再会しよう!」

「ジョウイ!よし、行こう!!」






「あぁ、今日は良い天気だな」

ジョンストン都市同盟とハイランドとの休戦協定が結ばれて幾日が経ったある日。
傭兵の砦を任されているビクトールは川で魚釣りをしていた。

「ビクトール!今日の夕飯なんだから気合いいれてよ!」

砦の厨房を任されている調理師の○○が激励を飛ばす。

「おい、○○。ビクトールが気合いなんか入れたら魚がビビって逃げちまうぜ」

副隊長であるフリックも釣りをしながら茶々を入れた。

「この川流れも速いし、魚なんて釣れるのかしら?」

○○は不満そうに川を見た。今のところ魚は釣れていないのだ。

「前は入れ食い状態だったんだがな」

ビクトールがあくびをしながら言う。

「まぁ、釣りは忍耐だな」

フリックもたまの休日を楽しむ様にぽけっとしている。

「あ、ねぇ、なんか……流れてない?」

○○は上流の方を目を細目見ていると青い塊が流れて来た。

「あ?おう、本当だ」

「なんか、人みたいだな」

ビクトールとフリックもそう呟き。

「まだガキだぜ!」

フリックが目の前を流れて行った少年を追いかけるために走った。

「なんだってんだ?」

「ビクトール!!もう一人来る!」

○○は上流から来る今度は赤い塊を指差した。

「なら!ほい!」

ビクトールは器用に釣竿を投げて赤い塊へ針を刺した。

「よし!持ってろ○○!」

「え?!」

ビクトールから渡された釣竿を必死で持つ○○。
そのすきにビクトールは川に入り、少年を助け出した。

「……生きてる?」

○○は恐る恐る少年に近付いた。

「あぁ、息はしてるみたいだな。ほら!起きろ!また川にほうり込まれたいのか?!」

「酷っ!」

ビクトールの言葉についつい突っ込みを入れる○○。

「……僕は……」

少年はゆっくり目を覚ました。

「良かった」

○○はホッと一安心した。

「一体どうしたんだ?何があった?」

ビクトールが少年を覗き込みながら聞いた。


「都市同盟の軍が攻めてきて……」

「え?」

「……それはおかしいな、休戦協定が結ばれてからは手を出してないぜ?」

ビクトールが「きな臭いな」と呟きながら答える。

「おい!そこの熊!ガキをいじめてるんじゃないよな?」

「フリックさんたら、酷いわぁ……」

フリックが下流から帰って来た。が、手ぶらであった。

「フリック!さっきの子は?」

「悪い、見失った」

「ジョウイ!ジョウイも流されて!」

少年はフリックの言葉に反応して飛び付いた。

「だから、見失った。お前の友達だったのか?悪かったな」

「運が良ければそいつもどこかで岸に上げられるだろう」

フリックとビクトールは少年を諭すように話した。

「はい……」

「そ、それより!こんなびしょ濡れなんだから、速くしなきゃ!」

○○はわたわたと少年を持っていたタオルで拭いた。

「とりあえず砦に帰るぞ」

ビクトールの言葉にみんな従った。






「はい!ポール君!これを持って行って」

「はい!」

○○から食事の入ったお盆を受け取るとポールは嬉しそうに地下の牢屋へ向かった。

「下が出来て嬉しいんだろうね」

酒場の女主人のレオナがキセルをふかした。

「えぇ……。ハイランドの少年兵だそうです」

○○は少し暗い顔をした。

「まぁ、戦争ってもんは大人も子供も使えるもんは使うもんさ」

レオナは苦笑しながら言葉を吐き出した。

「……」

「まぁ、休戦協定が結ばれてるんだ。なにかの勘違いだろうよ」

レオナはそう言うとキッチンから去って言った。

「だと、良いけど……」




少年U主は人手不足の砦でよく働いた。

「ほら!ゲンゲン隊長!」

「ゲンゲンが子供の子守り……」

「女の頼みを聞くのも立派な男の役目だよ」

レオナに諭され、コボルト族のゲンゲンとU主そして医師ホウアンの弟子のトウタがリューベの村へ小麦粉を取りに行く事になった。

「え?リューベ行くの?」

○○は羨ましそうに3人を見た。

「はい。小麦粉を取りに行くんです」

U主はにこりと笑った。

「良いなぁ」

「○○さんも行きましょうよ!」

トウタが無邪気に提案する。

「でも……私足手まといになるし……」

○○が残念そうに言う。

「大丈夫ですよ!U主さんも強そうだし、何よりゲンゲン隊長もいますよ!ね?」

トウタは2人を振り返った。

「一応僕もハイランドの兵士ですし……」

U主はにこりと笑う。

「もう何人増えても一緒だ!」

ゲンゲンは胸をトンと叩いた。

「仕込みは終わってるのかい?」

レオナまでが声をかけてきた。

「あ、うん。もう夕飯も出来てるから、時間までは大丈夫だけど……本当に良いの?」

○○はおずおずと聞いてみる。

「良いんじゃないか?なんなら、ビクトールかフリックに了解取れば?」

レオナが言うと調度ビクトールが降りて来た。

「お、U主。お使いか?感心感心!」

「ねぇ、ビクトール。私も一緒に行って来ても良いかな?仕込みは終わってるの」

○○がビクトールを見上げながら聞く。

「あ?リューベか。まぁ、ゲンゲンもいるし、良いだろう。でも、速く帰って来いよ!心配性の青いのが怒るから」

ビクトールはニヤニヤと笑った。

「あはは、じゃあ、行って来ます!」

「あぁ!気を付けてな!」

U主、ゲンゲン、トウタそして○○の4人はリューベに向かって歩き出した。





「あ、じゃあ○○さんが食事を?」

U主は歩きながら○○に聞いた。

「そう!あの砦が出来てからずっとね」

○○はにこりと笑った。

「で、○○さんとフリックさんはいつ結婚式を挙げるんですか?」

「は?」

トウタの突拍子もない質問に○○は目を白黒させた。

「し、しないよ!私達付き合ってないもの」

○○はとっさにペンダントに触りながら否定した。

「あれ?違うんですか?じゃあ、ビクトールさん?」

トウタは純粋に疑問を口にする。

「……ビクトールとも違うよ」

○○は苦笑しながらトウタの頭を撫でた。

「あれ?みなさんそんな話をしていたので……」

トウタは不思議そうに頭を傾げた。

「……火の無い所に煙はたたないって言いますよね?」

U主はおずおずとズバリ聞いてみる。

「残念だけどね。あの2人のどちらかが恋人だったら申し分ないけどね」

○○はU主とトウタににこりと笑った。

「複雑なんですね」

「大人って大変なのよねー」

○○はU主の言葉に苦笑した。


「ほら、ついたぞ!」

黙々と前を歩いていたゲンゲンがリューベの村を指差した。

「わぁ!懐かしい!」

○○は嬉しそうに笑った。

「ねぇ、私寄る所あるから、小麦粉買ったら宿屋に来て!」

「分かりました!」

○○は楽しそうに宿屋へと足を向けた。



ーーカラーン


「いらっしゃ……○○ちゃん!」

宿屋の主人が元従業員の○○の顔を見ると急いで近付いて来た。

「お久しぶりです!」

「お久しぶりじゃないよ!全然顔見せ無いから心配してたよ!」

宿屋の主人は懐かしそうに目を細めた。

「元気そうだな」

「マスターこそ」

「あの日出て行ったぶりだな。あの熊と色男は?」

「良くしてくれてるわ」

「そうか……。まぁ、立ち話もなんだ。紅茶でも淹れるから座りなよ」

宿屋の主人はさっそく紅茶を煎れ始める。

「一年半ぶりかしら?」

○○はカウンターに座る。

「あぁ。丁度それくらいだ。はい、どうぞ」

「いただきます。うん、美味しい」

○○は懐かしそうに目を細めた。

「○○が居なくなってから食事の客が減ったよ」

「でも、傭兵の暴動はないでしょ?」

宿屋の主人の苦笑に○○は笑顔を返す。

「あぁ。よく買い物に来るようだが。よく○○の話を聞いたよ」

「話を?」

「あぁ、あの熊と色男を手玉に取ってるそうじゃないか」

「ぶっ!けほ、何言ってるの!」

○○は飲んでいた紅茶を少し溢した。

「はは、その様子じゃ違うのかい?」

「違うよ!まぁ、そうなったら良いなーとは思わないでもないけど。残念ながら、入る隙はなさそうよ」

○○はイタズラっぽく笑った。

「そうかい」


ーーカラーン


「○○さん」

U主が宿屋に入って来た。

「あ?終わった?じゃあ、行きましょうか」

○○は席を立つと振り返った。

「帰るのかい?」

「うん!」

「すっかり向こうに慣れたんだな」

「また、隙を見て来るわ!」

「あぁ、待ってるよ。辛くなったらいつでも帰っておいで」

宿屋の主人はにっこりと笑った。





帰る場所がある喜びを○○は噛みしめた。








***








ここまでお読みいただき、○○様、ありがとうございます!


えー、ゲーム本編の話に入って来てしまいましたが、長編をやる気はないです。
なので、ヒロインがパーティに入ったりとか、重要な場面に立つとか、あまり無いと思われます。

あくまでも、フリック&ビクトールがお相手の話なので、本拠地を手に入れたら本編に関わる事も減りますのであらかじめご了承下さい。


あと、VS物や、シリアス、ほのぼのなど混在します。


その辺も宜しくお願いします♪

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