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「あ、僕お礼を言いたい人がいるんだ」

U主はそう言うとナナミ、ビクトール、フリックそして○○を引き連れて歩き出す。




虎口の村へとたどり着いた頃には夕方を過ぎていた。

「今日はここで休むか」

ビクトールの言葉に○○はホッと胸を撫で下ろした。

宿屋に部屋を取り、夕食、風呂を済ませると○○はベッドに転がった。

「つ、疲れた……」

○○はそう呟く。

「で?お前、今度は何をやらかしたんだ?」

フリックは愛剣オデッサの手入れをしながら○○を見た。

「へ?な、何の事?」

○○はぞくりと背中に嫌な汗が流れる。

「大人しく待ってると言った割りには朝より顔色は悪いし、何よりジェスがわざわざお前に礼を言ったのにも引っ掛かる」

フリックの青い目に見透かされた様に○○は困った表情でビクトールを見る。

「吐いちまえ。楽になるぜ」

ビクトールもにやりと笑った。

「あ……う……。お、怒らない?」

○○は恐る恐る2人を見る。

「たぶんな」

「話し次第だな」

ビクトールとフリックは同時に言った。

「……あ、あのね」

○○は黙っておく方が怖そうだと話し始める。

ジェス達が罠に掛かった事。
逃げ延びてティント市近くまで来ていたがゾンビの大群に襲われていた事。
それをクラウスと助けに行った事。
そして紋章を使ってゾンビが倒れて行った事。


「で、元々シエラさんに血を吸われてたから貧血で、ハウザーさんに手を借りたの」

○○は倒れた事だけは伏せて話した。

「そうか、とにかく無事で良かったな」

ビクトールが声を出す。

「でもね、攻撃系魔法はちょっと怖いね。凄い威力だったし」

○○は困った様に左手を見た。

「凄い威力?」

ビクトールは不思議そうに声を出す。

「うん、ゾンビがばたばた倒れて行ったよ」

○○は思い出すだけでぞわりとする。

「そんなもんか?」

ビクトールがフリックを振り返る。

「紋章は扱う人間の魔力に比例するからな。同じ紋章付けても俺とお前じゃ扱えるレベルも回数も違うだろ?威力も違うんだよ」

フリックがそう説明する。

「……つー事は少し厄介だな」

ビクトールがうーんと唸る。

「厄介?」

○○は不思議そうにビクトールを見る。

「クラウスやジェスの前でそれを見られたって事は、お前紋章付けて戦場に出るかもしれないぜ?」

ビクトールが腕を組ながら言う。

「……え?」

○○は驚きながら声を出す。

「………………ありえそうで嫌な話だな」

フリックは眉間にシワを寄せた。

「だろ?」

ビクトールも眉間にシワを寄せる。

「わ、私ただのコックだよ?」

○○は慌てて声を出す。

「あいつらの特にジェスなら、使えるもんは使う主義だからな」

ビクトールは○○に言う。

「………………私、無理だと思うな。そんな覚悟もないし。ゾンビが倒れるのだって慌てちゃったんだよ……」

○○は弱々しく呟くと、ベッドに体を倒して毛布にくるまる。

「……コックの癖に血抜きも出来ない甘ったれに、戦うなんて出来ないよ。もし、手元が鈍って味方に怪我させるかもしれないし……」

○○はぽつぽつと弱音を吐く。

「……まぁ、戦いと無関係な生活してたしな」

ビクトールは口を開く。

「お前を戦場に出すわけないだろ?」

フリックは強い口調で言う。

「……でも、どうなんだろう?私、出た方が良いのかな?…………2秒で殺されるのに?」

○○はシードの言葉を思い出した。

「そこなんだよな。○○の場合魔力だけなんだよな。弓も使えないし、体力ないしな」

ビクトールは笑った。

「…………確かに、あの弓は無いよな」

フリックも思い出して笑った。

「え?え?な、何で笑うのよ?」

○○はがばりと毛布から出てきた。

「だってよ、こんな弱っちいのが戦場とか似合わねーなって」

ビクトールは笑いながら言う。

「だよな。心配で思いきり戦えないよな」

フリックもクスクスと笑う。

「っ!!馬鹿にされたー!」

○○は顔を赤くして怒る。

「はいはい、俺も風呂でも行って来るわ」

ビクトールはタオルを持つと部屋を出ていった。

「ちょっ、フリック?私、真剣に!」

○○がフリックに詰め寄る。

「分かってるよ。だから、戦場には出さねーよ」

フリックは○○を抱き寄せると唇を合わせる。

「…………ご、誤魔化してないよね?」

○○は赤い顔のままフリックを見上げる。

「してないぜ?」

フリックはにやりと笑った。

「って、しないよ!!」

「さすがの俺でも今日はしないよ。顔青いもんな。ほら、寝ろ」

フリックは○○をベッドに押し込む。

「お、お休み、フリック」

○○は照れながらフリックを見た。

「ああ、お休み、○○」

フリックは優しく○○の頭を撫でる。
疲れと貧血、そして戦いの緊張感から解放され、フリックの手に安心したのか、○○はすぐに眠りに落ちた。

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